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  • 小規模宅地等の課税価格の特例における二世帯住宅の取扱い

    小規模宅地等の課税価格の特例における二世帯住宅の取扱い

    特定居住用宅地等の特例は、被相続人と親族が同居している家屋の敷地の用に供されている宅地等について適用される。このような宅地等のうち、いわゆる二世帯住宅の用に供されている宅地等については、同居の判定が問題となる。

    構造上区分されていない二世帯住宅で、内部で行き来が可能な二世帯住宅については、全体を一つの住居と捉え、被相続人と親族が同居していたものと解し、全体について特定居住用宅地等に該当するとしてこの特例の適用が可能とされてきた。

    他方、構造上区分された二世帯住宅の場合は、それぞれの区分ごとに独立した住居と捉え、被相続人が居住していた部分は他の要件を満たせば特定居住用宅地等に該当するものの、それ以外の部分は特定居住用宅地等には該当しないとしてこの特例の適用を認めない取扱いとなっていた。

    外見上は同じ二世帯住宅であるのに内部の構造上の違いにより課税関係が異なることは不合理との指摘を踏まえ、平成26年1月1日以降に相続が開始したものについては、二世帯住宅であれば内部で行き来ができるか否かにかかわらず、全体として二世帯が同居しているものとしてこの特例の適用が可能とされ、法令上も明確化された。

    具体的には、特定居住用宅地等の要件のうち同居要件について、「被相続人の親族が、相続開始の直前においてその宅地等の上に存するその被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(被相続人、その被相続人の配偶者又はその親族の居住の用に供されていた一定の部分に限る。)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地等を所有し、かつ、その建物に居住していること」とされた。

    上記の「一棟の建物」には、いわゆる分譲マンションのように区分所有され、複数の所有権の目的となっているものもあり得る。例えば同じ分譲マンションの101に被相続人、707に親族が居住していた場合には、それぞれの専有部分が別々に取引される権利であり、いわゆる「二世帯住宅」とは同視できないと考えられるため、上記の「一定の部分」については、専有部分ごとに判断することとされている。
    具体的には、次の部分に対応する宅地等がこの特例の対象となる。

    1. 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が、建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物である場合には、当該被相続人の居住の用に供されていた部分
    2. (1)以外の場合には、被相続人又は当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分

    (注1)上記(1)の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」とは、建物の独立した部分ごとに所有権の目的とすることができる建物を指す。ただし、構造上区分所有しうる建物が当然に区分所有建物に該当するわけではなく、区分所有の意思を表示する必要があると解されていることから、通常は区分所有建物である旨の登記がされている建物となる。また、単なる共有の登記がされている建物はこれに含まれない。

    (注2)租税特別措置法第69条の4第3項第2号では配偶者は親族と区別して規定されているが、上記(2)を規定している租税特別措置法施行令第40条の2第10項では配偶者は親族に含まれる。

    (参考)建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)(抄)

    (建物の区分所有)

    第1条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

  • 老人ホームで亡くなった場合の小規模宅地等特例

    老人ホームで亡くなった場合の小規模宅地等特例

    被相続人が、自宅を空き家にして老人ホームで亡くなった場合、一定の要件を満たすと、空き家である自宅敷地を小規模宅地等の特例の対象とすることができる。

    老人ホームに入居している場合の取扱い

    被相続人が老人ホームに入居または転居している場合には、その老人ホームがその被相続人の相続開始の直前の居住場所と考えられるため、老人ホームへの入居前に被相続人の居住の用に供されていた宅地等は、この特例の適用対象外とするのが理論的である。

    しかし、個々の事例の中には、身体上又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため自宅を離れているような場合もあり、諸事情を総合勘案すれば、一律に生活の拠点を移転したものとして特例を適用しないことは実情にそぐわない面がある。

    平成26年1月1日以後に開始した相続税の申告においては、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合でも、居住の用に供されなくなる直前にその被相続人の居住の用に供されていた宅地等を、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等と同様にこの特例を適用することとされた

    相続開始時点で老人ホームへ入居していたこと

    1. 介護保険法に規定する要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が、次に掲げる住居又は施設に入居又は入所していたこと。
      1. 老人福祉法に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居(認知症高齢者グループホーム)、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム又は有料老人ホーム
      2. 介護保険法に規定する介護老人保健施設
      3. 高齢者の居住の安定確保に関する法律に規定するサービス付き高齢者向け住宅(1-1の有料老人ホームを除く。)
    2. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害者区分の認定を受けていた被相続人が同法に規定する障害者支援施設(施設入所支援が行われるものに限る。)又は共同生活援助を行う住居に入所又は入居していたこと。

    上記の要介護認定者若しくは要支援認定又は障害者支援区分の認定を受けていたかどうかは、相続開始時点で判定することとされているため、入居又は入所前にこれらの認定を受けている必要はない。

    従前居住していた家屋の状況

    入居後新たにその建物を他の者の居住の用その他の用に供していた事実がないこと。具体的には、老人ホーム等へ入居後、被相続人の居住の用に供されなくなった後に、新たにその宅地等を次の用途に供した場合には、その宅地等はこの特例の適用を受けることはできないこととされている。

    1. 事業(貸付を含む。事業主体は問わない。)の用
    2. 被相続人又はその被相続人と生計を一にしていた親族以外の者の居住の用

    添付書類

    老人ホームに入居していた場合、この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に添付して提出することとされている書面に加え、次の書類を提出する必要がある。

    1. その相続開始の日以後に作成された被相続人の戸籍の附表の写し
    2. 介護保険の被保険者証の写し又は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害福祉サービス受給者証の写しその他の書類で、その被相続人がその相続開始の直前において介護保険法に規定する要介護認定者若しくは要支援認定又は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害者支援区分の認定を受けていることを明らかにするもの
    3. その被相続人がその相続開始の直前において入居又は入所していた住居又は施設の名称及び所在地並びにこれらの住居又は施設が前述のいずれの住居又は施設に該当するかを明らかにする書類

    (比較参考)【長期入院のケース】

    被相続人が病院に入院したことにより、それまで被相続人が居住していた家屋が相続開始の直前には居住の用に供されていなかった場合であっても、入院により被相続人の生活の拠点は移転していないと考えられることから、従前からその建物の敷地のように供されている宅地等は被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するものとして、この特例の適用対象とされている。また、病院である介護療養型医療施設及び療養介護を受ける施設に入っていた場合にも、病院と同様、この特例の適用対象とされている。

  • 小規模宅地等の特例

    小規模宅地等の特例

    小規模宅地等の課税価格の計算の特例は、被相続人又は被相続人と生計を一にする相続人(まとめて相続人等という。)が事業用に使っていた家屋や構築物の敷地、被相続人等が自宅として使用していた建物の敷地(宅地や借地権)の課税価格を、納税者の選択により一定の面積まで減額できる規定である。

    小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の制度趣旨は、生活や商売の拠点に使用している不動産の課税価格を一定の範囲において減額することにより、生活や事業の拠点が失われることを防止することである。

    特例の対象となる宅地の種類は用途に応じ次の4種類となる。

    1. 特定居住用宅地等
    2. 特定事業用宅地等
    3. 特定同族会社事業用宅地等
    4. 貸付事業用宅地等

    特定居住用宅地等

    特定居住用住宅地等についての計算の特例は、被相続人等が自宅に使用している土地の課税価格を330㎡まで80%減額する規定である。この特例の適用を受けるためには、被相続人若しくは被相続人と生計を一にする親族が相続開始前から居住している建物の敷地(宅地及び宅地の上に存する権利)であることが必要である。

    被相続人若しくは生計同一の親族が居住している建物は被相続人若しくは被相続人の親族が所有していることが必要であり、土地及び建物の使用は全て無償でなければならない。

    本特例の適用を受けるためには、少なくとも配偶者又は相続開始前から被相続人と同居していた親族若しくは後に述べる一定の要件を満たす親族が、被相続人等の居住していた建物の敷地を相続又は遺贈により取得することが必要である。配偶者が適用対象宅地等を取得した場合には特に要件は付されていないので、配偶者は生前から別居していても、相続開始後、他に転居しても、相続直後に売却しても本特例の適用を受けることができる。

    被相続人と同居していた親族が取得した場合には、保有継続要件と居住継続要件が付されている。保有継続要件とは、適用対象宅地等を取得した同居の親族が法定申告期限まで所有していなければならないという要件であり、居住継続要件とは、被相続人と同居していた親族が適用対象物件にそのまま継続して居住しなければならないという要件である。同居の親族が本特例の適用を受けるためには両方の要件を満たす必要がある。

    被相続人がなくなったときに配偶者も同居の親族(注1)もいなかった場合において、相続開始前3年以内に自己又は自己の配偶者が所有している日本国内に所在する家屋に居住したことがない親族(注2)が、相続又は遺贈により取得した場合には、取得した宅地等を法定申告期限まで保有していることを条件に本特例の適用が認められる。保有継続要件はあるが、居住継続要件はないのでわざわざ引っ越しをする必要はない。

    (注1)ここでいう同居の親族とは相続放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における法定相続人をいうので、必ずしも一人住まいであることを意味しない。

    (注2)制限納税義務者で日本国籍を有しない者は除かれる。

    なお、本特例の適用を受けることができるのは、要件を満たす者が取得した土地で面積要件を満たす部分に限られる。

    図表Ⅲ-11 相続権を失った者と相続税法の規定一覧表

    利用状況と相続人取得者と居住・所有継続要件減額適用部分
    被相続人の居住用配偶者や同居の親族がいる場合配偶者が取得①要件を満たす者が取得した部分についてだけ特例適用対象となる
    ②遺産が一棟のビルであっても、居住の用に供されていた部分だけが特例適用対象となる
    同居の子供などが種痘し、居住を継続
    配偶者や同居の法定相続人もいない場合相続開始前3年間、日本国内にある自己又は自己の配偶者所有家屋に居住したことがない親族が取得(居住要件はない)
    生計を一にしていた親族の居住用被相続人と生計を一にしていた親族が取得し、相続開始前から申告期限まで居住を継続(被相続人の居住要件はない)

    特定事業用宅地等

    特定事業用宅地等についての計算の特例は、被相続人や生計同一の親族が事業に使っている建物若しくは構築物(注)の敷地(宅地又は宅地の上の権利)について一定の要件を具備すると400㎡まで課税価格を80%減額する規定である。

    (注)次の建物又は構築物を除く。
    ・温室その他の建物で、その敷地が耕作の用に供されるもの
    ・暗渠その他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは牧畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの。

    特定事業用宅地等の「事業」には不動産貸付業、駐車場業、自転車駐輪場業や準事業を含まない。準事業とは事業と称するに至らない不動産の貸付その他これに類する行為で、相当の対価を得て継続的に行うものをいう。要は、土地の賃貸に関する事業は特定事業用宅地等の特例の対象とならないということである。いってみれば商売らしい商売に使っている建物などの敷地をイメージすれば間違いはない。

    ところで、相続開始直前に事業を行っていたのが亡くなった本人であり、事業を継ぐ者がいない場合は、いかに被相続人の事業用の宅地であっても課税価格を減額する必要はない。そこで、被相続人が事業を営んでいた場合については、その土地を相続又は遺贈により取得する者が法定申告期限までにその事業を承継し、かつ、法定申告期限までその事業を営んでいることという事業承継要件が付されている。事業を承継し営むことが課税価格を減額する理由であるから、敷地も申告期限まで所有していることが必要であるという保有継続要件も付されている。気をつけなければいけないのは、「被相続人が営んでいた事業を承継しなければならない」ことである。事業用の宅地を相続した者が、父親の商売は面白くないからといって全く別の事業に転業した場合も本特例の適用を受けることはできない。ただ、被相続人の事業の一部を他の事業(不動産貸付業等の事業以外の事業に限る。)に転業している場合は、全体としてみれば承継している事業もあるので、事業承継要件は満たすこととなる。また、敷地の一部を譲渡したり貸し付けた場合も、残った敷地で事業が継続できるならば、継続している部分の敷地については本特例の適用が認められる。事業を承継し宅地等を相続した者が申告期限前に亡くなった場合は、その者の相続人が事業を承継し、かつ、所有を継続すれば本特例の適用が可能である。

    なお、事業を営んでいるかどうかは、事業主として当該事業を行っているかどうかにより判定するのであるが、敷地を取得した事業を引き継いだ親族が就学中であることその他当面事業主となれないことについてやむを得ない事情があるため、事業を引き継いだ親族の親族が事業主となっている場合には、敷地を取得した親族が引き継いだ事業を営んでいるものとして取り扱うこととされている。また、会社等に勤務するなど他に職を有し、又は被相続人が営んでいた事業の他に主たる事業を有している場合であっても、被相続人が営んでいた事業の事業主となっている限り、これにあたるとされている。

    事業を営んでいた父親が引退し、生計同一の子供が事業を継いだ後に父親が亡くなった場合や、父が所有している建物を生計同一の息子が無償で借りて息子が営む事業の用に使っていた場合など、被相続人と生計を一にする親族が被相続人の所有する土地の上の建物や構築物で相続開始前から事業を営んでいる場合にも、敷地の課税価格を減額する必要性はある。この場合も、事業を営んでいるものが敷地を相続し法定申告期限まで事業を継続し、敷地を保有しなくてはならないという事業継続要件と保有継続要件が付されている。営む事業はもともと相続人自身の事業なので、上述の被相続人の事業を承継した場合と異なり、事業内容を変えても事業そのものを継続するならば本特例の適用要件を満たすことになる。

    数人共同で相続した場合、要件を満たすものが相続又は遺贈により取得した部分だけが減額対象となる。

    なお、相続財産である被相続人所有の土地と建物の所有者が異なるときは土地の賃借及び建物の賃借について全て無償又は相当の対価に至らない程度の対価の授受がある場合に限り本特例の適用対象となる。被相続人が相当の対価にあたる地代を受理していたときは貸付事業に該当するので本特例の適用の余地はない。

    また、生計同一の親族が所有している建物を被相続人が家賃(相当対価)を支払い借りているときは(土地は無償)、建物の賃貸借が「生計同一の親族の『貸付事業』にあたる」ので貸付事業用宅地等の特例の適用対象となり、本特例の適用の余地はない。

    生計別の親族が所有している建物を被相続人が家賃(相当の対価)を支払い借りているときは(土地は無償)、小規模宅地等の特例の適用の余地はない。被相続人所有の敷地は、単なる「親族が賃貸している建物の敷地」にすぎないからである。

    図表Ⅲ-12 特定事業用宅地等の適用要件概要

    相続時の利用状況適用要件適用対象部分
    被相続人の事業用その宅地・借地権の取得者が地上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに承継し、かつ、申告期限まで事業を継続していること数人共同で事業用宅地等を相続した場合、要件を満たす者が取得した部分だけが減額対象となる。
    被相続人と生計同一の親族の事業用相続開始直前から相続税の申告期限までその宅地等を保有していること

    特定同族会社事業用宅地等

    特定同族会社事業用宅地等についての計算の特例は、被相続人と被相続人の一族等が発行済株式総数(自己株及び議決権のない株式等を除く。)の50%を超える株式を保有する同族会社(営む事業が不動産賃貸業以外のもの)が、被相続人の所有する宅地・借地権の上の建物で事業を営み、その他一定の要件を満たす場合に最高400㎡まで敷地の課税価格を80%減額できるというものである。

    特定同族会社事業用宅地等とは、被相続人が所有している宅地等を法人が直接相当の対価を支払い賃借し建物を所有しているか、被相続人等が地上建物を所有し法人に相当の対価で貸し付けていることが前提となる。租税特別措置法69条の4の条文構成は、1項で適用宅地を「被相続人若しくは生計同一の親族の事業の用に供されていた宅地等」とし、事業を①不動産貸付業又は②不動産貸付業以外の事業の2種類に分類している。また、同条3項3号は、「特定同族会社の事業の用に供されていた宅地等」と規定しているので、単に特定同族会社の事業用の宅地であるにとどまらず、被相続人等により特定同族会社に不動産の貸付が行われている宅地等をいう。

    建物所有者の区分と土地建物の貸付の態様を整理すると次のとおりである。なお、いずれの場合も法人が営む事業が不動産貸付業である場合は、貸付事業用宅地等にあたり、本特例の適用対象には該当しない。

    • 建物所有者が同族法人である場合
      被相続人が土地を法人に貸し付けている場合は、地代(相当の対価)を収受していることが必要である。
    • 建物所有者が生計同一の親族である場合
      被相続人が生計同一の親族から地代(相当の対価)を収受しているときは、貸付事業用宅地等にあたり、本特例の適用対象には該当しないから土地の賃借は無償でなければならない。また、生計同一の親族は建物を有償(相当の対価)で法人に貸し付けていなければならない(無償では事業に該当しない)。
    • 地上建物を被相続人が所有しているときは建物は有償(相当の対価)で貸し付けられていなければならない(無償では事業に該当しない。)。

    法人についての要件としては、相続開始直前において、被相続人及び被相続人の親族その他当該被相続人と特別の関係のある者の有する株式・出資(自己株及び議決権に制限のあるものを除く。)の50%を超える法人(申告期限において清算中の法人を除く。)であることが必要である。なお、上記の「特別の関係がある者」とは、次のとおりである。

    1.  被相続人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
    2.  被相続人の使用人
    3.  被相続人の親族及び前二号に掲げる者以外の者で被相続人から受けた金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
    4.  前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
    5.  次に掲げる法人
      1.  被相続人(当該被相続人の親族及び当該被相続人に係る前各号に掲げる者を含む。以下この号において同じ。)が法人の発行済株式又は出資(当該法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額(以下この号において「発行済株式総数等」という。)の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該法人
      2.  被相続人及びこれと5-1の関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
      3.  被相続人及びこれと5-1又は5-2の関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人

    この特例の適用を受けるためには、次の全ての要件を満たす被相続人の親族が相続又は遺贈により宅地等を取得することが必要である(要件を満たす者が取得した部分だけ特例適用対象となる。)。

    1. 法人役員要件
      相続税の申告期限においてその法人の役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事など法人税法2条15号に規定する役員。ただし精算法人を除く。)であること
    2. 保有継続要件
      その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

    図表Ⅲ-13 特定同族会社事業用宅地等の適用要件概要

    相続時の土地建物利用状況 適用要件 適用対象部分
    被相続人の有する宅地等の上に特定同族会社の所有する建物等があり土地が賃貸されている場合 法人要件
    ・相続開始直前において被相続人及び被相続人の親族等で発行済株式総数の50%超を所有
    ・申告期限まで事業を継続
    取得者要件
    ・申告期限において法人の役員であること
    ・申告期限までその宅地等を保有していること
    要件を満たす者が取得した部分についてだけ特例適用対象となる。
    被相続人の有する宅地等の上に被相続人の所有する建物等があり建物が賃貸されている場合
    被相続人の有する宅地等の上に生計を一とする親族の所有する建物等があり建物が賃貸されている場合(土地の賃借は無償)

    貸付事業用宅地等

    貸付事業用宅地等についての計算の特例は、被相続人若しくは生計同一の親族が行っている不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に供されていた宅地等を取得した者(被相続人の親族)が貸付事業承継要件や保有継続要件などの要件を備えたものである場合は200㎡まで課税価格を50%減額するものである。準事業とは事業と称するに至らない不動産の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいう。

    相続又は遺贈により被相続人が貸付事業を行っていた宅地等を取得した親族は、相続開始時から申告期限までの間に貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続きその宅地等を保有し、かつ、その貸付事業の用に供していることが必要である。

    被相続人と生計同一の親族が相続開始前から自己の貸付事業を行っている場合は、相続開始から申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限までその宅地等を自己の貸付事業の用に供していることが必要である。

    図表Ⅲ-14 貸付事業用宅地等の適用要件概要

    相続時の土地建物利用状況適用要件適用対象部分
    被相続人の貸付事業用その宅地等の取得者が、申告期限まで保有し、その宅地等の上で営まれていた被相続人の貸付事業を承継し、その事業を継続していること要件を満たす者が取得した部分についてだけ特例適用対象となる。
    被相続人と生計同一の親族の事業用その貸付事業を営んでいた親族が取得し、申告期限まで保有し、貸付事業を継続していること

    小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例は、相続税の申告書(期限後申告書及び修正申告書を含む。)に、この特例の適用を受けようとする旨の記載及び計算に関する明細書その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用される。

    具体的には、相続税の申告書第11表の付表1「小規模宅地等に係る課税価格の計算明細書」の提出を要するほか、適用する特例の規定に応じ、申告書等に図表Ⅲ-15に示したそれぞれの書類を添付する必要がある。

    図表Ⅲ-15 添付書類一覧表

    小規模宅地等の区分取得者・根拠規定等価格減割合添付書類
    戸籍謄本遺言書の写し等住民票の写し戸籍の附表の写しその他
    居住用宅地等特定居住用宅地等配偶者(措法69の4③二)80%
    同居親族(措法69の4③ニイ)
    持家無し親族(措法69の4③ニロ)注1
    生計を一とする親族(措法69の4③ニハ)
    事業用宅地等特定事業用宅地等措法69の4③一
    特定同族会社事業用宅地等措法69の4③三注2
    貸付事業用宅地等措法69の4③四50%

    (注1)相続開始3年以内(3年前から相続開始直前までの間)に、その親族が居住していた家屋がその者又はその者の配偶者が所有するものではないことが分かる登記事項証明書などの資料

    (注2)その法人が相続開始の直前における次の事項を証明した者及びその法人の定款の写し
    ①その法人の発行済株式総数(出資の総額)
    ②被相続人等の有する株式総数(出資金額の合計額)

    戸籍謄本は、相続税の申告書を提出するときには必ず必要な添付書類であり、相続開始日から10日を経過した日以後に作成された謄本で被相続人の全ての相続人を明らかにするものであることが必要である(相規16③)。遺言書等の写しとは、遺言書又は遺産分割協議書・印鑑証明書(全ての共同相続人が自署及び実印で押印しているもの)をいう。

    住民票の写し及び戸籍の附表が必要な者は、小規模宅地等を取得した親族である。なお、住民票の写し及び戸籍の附表は相続開始日以後に作成されたものに限る。

    なお、外国人及び在外邦人の印鑑証明書等については図表Ⅲ-16参照。

    図表Ⅲ-16 外国人及び在外邦人の印鑑証明等

    外国人本国の官公署又は在日公館の外国官憲の発行した署名証明書
    大韓民国等のように印鑑証明制度のある国に居住している場合は、外国の印鑑証明書
    日本に居住し、かつ、印鑑を使用している場合には、居住地の市町村長の発行した印鑑証明書
    在外邦人中華人民共和国のように居住地国の日本公館(領事館等)で印鑑証明の発行を行っている場合には、居住地国の日本公館が発行した印鑑証明書
    居住地国の日本公館が印鑑証明書の発行を行っていない場合には、居住地国に日本公館が発行した署名及び拇印証明書(居住地国の日本公館が遠方にあるなどの場合は、外国の公証人が作成した遺産分割協議書の署名についての証明でも可)
    日本に一時帰国している間に、遺産分割協議書が成立したような場合には、日本の公証人による遺産分割協議書の署名についての証明

    小規模宅地等の特例を適用した土地を申告期限後において選択替えすることは可能か

    小規模宅地等の特例の適用対象宅地が複数ある場合には、どの宅地に特例を適用するかは納税者自身の選択に委ねられている。この場合一度選択して申告した特例適用宅地等について、申告期限後に選択替えをすることはできない。適法に手続きされた申告内容については、更正の請求(通法23)の理由とはなりえないからである。適用対象地の選択は慎重にする必要がある。

    図表Ⅲ-17 小規模宅地の適用対象となる限度面積及び小規模宅地等の価格に乗じる割合

    相続開始の直前の状況(用途区分)要件限度面積減額される割合
    被相続人等の事業の用に供されていた宅地等不動産貸付業等以外の事業用の宅地等被相続人の事業用の宅地等①特定事業用宅地等に該当する宅地等400㎡80%
    被相続人と生計を一にする被相続人の親族の事業用の宅地等②特定事業用宅地等に該当する宅地等
    不動産貸付業等の事業用の宅地等③特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等
    ④貸付事業用宅地等200㎡50%
    被相続人等の居住の用に供されていた宅地等被相続人の居住用の宅地等⑤特定居住用宅地等に該当する宅地等330㎡80%
    被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住用の宅地等⑥特定居住宅地等に該当する宅地等

    各特例の併用関係

    1. ①「特定同族会社事業用宅地等及び特定事業用宅地等」と②特定居住用宅地等は完全併用できることとされた(平成27年1月1日以降相続開始分)。
    2. 貸付事業用宅地等を選択する場合には、貸付事業用宅地等(上限200㎡)に換算して限度面積を判定する。

    図表Ⅲ-18 小規模宅地等計算特例の併用計算図

    小規模宅地等計算特例の併用計算図

    図表Ⅲ-19 小規模宅地フローチャート(居住用)

    小規模宅地フローチャート(居住用)

    図表Ⅲ-20 小規模宅地フローチャート(貸付事業用以外の事業用の宅地等)

    小規模宅地フローチャート(貸付事業用以外の事業用の宅地等)

    図表Ⅲ-21 小規模宅地フローチャート(貸付事業用宅地等及び特定同族会社事業用宅地等)

    小規模宅地フローチャート(貸付事業用宅地等及び特定同族会社事業用宅地等)
  • 配偶者の税額軽減

    配偶者の税額軽減

    被相続人の配偶者が相続又は遺贈により財産を取得した場合に、次の算式の通り、課税財産のうち配偶者の法定相続分に相当する金額(その金額が1億6,000万円に満たない場合は 1億6,000万円 )に対応する相続税を税額控除するというものである。

    配偶者の税額軽減

    ただし、当初申告の際に配偶者が仮装・隠蔽していた財産はこの軽減特例の対象とはならない。この場合は、次の計算式により配偶者の税額軽減額を算出する。

    配偶者の税額軽減

    相続税の税額控除のうち、未成年者控除、障害者控除は非居住無制限納税義務者及び制限納税義務者について適用に制限があるが、配偶者の税額軽減については制限がない。また、被相続人の配偶者であることは要件とされているが、相続人であることは要件とされていないので、相続放棄をした配偶者が遺贈によって財産を取得した時などにおいても本軽減特例の適用は可能である。

    相続税の申告期限までに配偶者に分割されていない財産は税額軽減の対象にならない。相続人が配偶者一人の場合は、分割協議は不要であることはもちろん、相続人が複数いる場合でも必ずしも全ての遺産について分割協議がなければ分割が確定しないわけではない。相続財産には、遺言による分割方法の指定や特定遺贈がない場合でも、分割協議を経ないで当然法定相続分で各相続人に帰属する性質の財産と、分割が行われなければ法定相続人及び包括受遺者で各人の相続分に応じ遺産共有状態となる財産がある。

    金銭債権については、昭和29年4月8日の判例(最一小昭29・4・8民集8巻819)で「相続財産中に金銭債権その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである」と判示し、これ以降変更なく、平成16年4月20日の判例(最三小判平16・4・20判時1859号61)もこれを踏襲している(1)。理論上は、預金債権など可分債権は、法律上当然分割されて、共同相続人の相続分に応じて各相続人が承継しているので、遺産分割を行う必要はない。ただし、金銭債権でも遺産分割の対象として当事者が遺産の範囲に入れることに合意すれば、遺産分割の対象となる(2)

    (1)(2)『家族法』p.385。

    課税実務でも、配偶者が金融機関に対し配偶者の相続分相当額について払戻請求を行い、相続税の申告期限までに実際に払戻を受けたときは、配偶者は当該金員を実効支配するに至っていることから、払戻を受けたその相続分相当額については、配偶者の税額軽減の特例に規定する「分割されていない財産」からは除外されると解するのが相当とされている(平成12・6・30裁決、裁決事例集59、282頁)。

    注意が必要なのは、配偶者の税額軽減の対象に含めることができる財産は「配偶者が実際に取得した財産」であると解していることである。法律上、相続開始により各相続人に相続分で当然分割帰属するとされる金銭債権などの可分債権であっても、当事者の総意により分割対象財産とすることができることから(現に遺産分割の実務ではそのように扱っていることの方が多い)、単に可分債権であるから分割不要な財産(相続分で分割されている財産)とみるのではなく、配偶者が現実に取得していることが必要である。配偶者が実際に取得していない段階では相続税法19条の2第2項に規定される「分割されていない財産」に含まれ、配偶者の税額軽減の対象とならないと解されている。

    遺産を構成する不動産は分割協議を経ないと分割が確定しない財産であるが、たとえば、相続財産であるマンションを他のマンションと交換した場合、交換取得したマンションは相続財産ではないので遺産分割の対象にならない。交換によって取得したマンションは共同相続人の法定相続分による共有となる(3)。交換取得したマンションを分割するには、遺産分割協議ではなく共有物分割を行うこととなる。

    (3)『実務家族法講義』p.330。

    相続財産に含まれる不動産を売却した結果、不動産が代金債権や現金に姿を変えたときにつき最高裁は次のように判示している。

    共同相続人が全員の合意で遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、法定相続分の割合による共有持分に基づく譲渡が行われたものであり、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる。

    最判昭52・9・19第二小法廷 判例時報868号29

    売却代金はこれを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特段の事情がない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得する。

    最一小昭和54・2・22家月32巻1号149

    包括受遺者を含む相続人全員の合意により、分割対象財産を譲渡した場合においては、法定相続分又は当事者の合意が認められる金額につき、配偶者が現実に取得した時は、配偶者の税額軽減の対象財産となると解される。

    配偶者の税額軽減については、原則として法定申告期限までに分割されていない場合には適用がないこととされている。
    分割されていない財産が法定申告期限から3年以内に分割される見込であるときは、期限内申告書に分割見込書の添付がある場合に限って、分割された日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行い、配偶者の税額軽減特例の適用を受けることができる。

    遺産分割に争いがあるなど、調停の申し立て、相続について訴えの提起がされたこと等、やむを得ない事情により3年以内に分割されなかった場合には、申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署長の承認を得たときは、判決の確定、訴えの取り下げ、和解・調停の成立、審判の確定等の日から4ヶ月以内に分割された場合には適用できることとされている。
    分割された日から4ヶ月以内に限り更正の請求をすることができる。

    「申告期限後3年以内の分割見込書」に関する相続税法19条の2第4項には宥恕規定があるが、「承認申請書」の提出期限に関する相続税法施行令4条の2第2項には宥恕規定はない。申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに承認申請書を提出しない場合は、配偶者の税額軽減特例の適用の余地はなくなるので注意が必要である(4)

    (4)東地判平成13年8月24日判決は、「本来、法令の規定によって負担すべきものとされる租税債務の軽減等に関し、当事者の手続上の懈怠について定められた宥恕の規定は、原則に対する例外を定めたものであり、宥恕を認めるべき場合には、手続における恣意性を廃除した公平な取扱を行う意味からも、法規に明文を持って規定されるのが通令であり、それ故、明文の規定の有無によって、宥恕の取扱を異にするのは当然である」と述べ、相続税法19条の2第4項の規定を準用し又は類推適用することは困難であるとしている(相令4の2②)。

  • 特別縁故者が財産分与を受けた場合

    特別縁故者が財産分与を受けた場合

    被相続人と特別の縁故があった者で、相続人の不存在が確定した際、請求により家庭裁判所から相続財産の分与を受けることができる者を特別縁故者という。具体的には、内縁の妻、未認知の子、事実上の養子など、被相続人と生計を一にし、あるいは被相続人の療養看護に努めた者などが特別縁故者に該当する。自然人に限らない。被相続人が世話になっていた老人ホームなどでもよい。

    財産分与の請求は相続人捜索の公告期間の満了後3ヶ月以内にしなければならず、家庭裁判所は相当と認めればこれらの者に清算後の相続財産の全部又は一部を分与する。

    相続税法は、特別縁故者が財産の分与を受けた審判があったときの時価(相続税評価額)に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなしている。特別縁故者が被相続人の葬儀費用や被相続人の入院費用等の未払費用を支払った場合、別途、相続財産から支払を受けていなければ、分与を受けた財産からこれらの価額を控除した価額が取得した財産の価額として扱われる。

    なお、所得税法には分与財産について遺贈を受けたものとみなす規定がないので、譲渡所得の計算上の取得費も当該価額となる。

    基礎控除は法定相続人がいないので3,000万円となる。特別縁故者の相続税は、相続税の2割に相当する金額が加算され、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から受けた贈与があれば、受贈時の価額で相続税の課税価格に加算される。

    相続人の不存在が確定するのに数年を要し、家庭裁判所から財産の分与を受けるのが、相続開始後数年を経、その間に相続税法が改正されていた場合でも、相続税を算出するにあたっては、被相続人が亡くなったときの相続税法の規定が適用される。

    特別縁故者は、遺産の分与を受けることができることを知った日の翌日から10ヶ月以内に、被相続人の死亡の時における住所地を管轄する税務署長に相続税の申告書を提出しなければならない。

  • 各相続人の相続税額を算出する場合の端数計算

    各相続人の相続税額を算出する場合の端数計算

    各人の相続税額は、相続税の総額(A)を課税価格の合計額(B)に占める各人の課税価格(C)の割合(按分割合)により按分計算する(A×C÷B)。

    この計算は、各人の課税価格(C)/課税価格の合計額(B)という分数で行えば端数は生じないものの、小数計算を行うと端数が生じる。相続税法は按分割合を分数とするか小数とするか規定していない。

    課税実務では、小数点以下2位未満の端数がある場合において、財産の取得者全員がその割合を小数処理することに合意し、その割合の合計が1となるように端数処理をしているときは、これを認めるとしている。

    税務署長が決定又は更正処分をするときは原則として分数処理を行うが、納税者が小数処理をして申告しているときは、選択に従って端数処理をすることができるとしている。

    しかしながら、配偶者の税額軽減の計算においては、配偶者の納付すべき相続税額に直接的な影響を及ぼすことから、仮に小数点以下2位未満の端数処理であっても、控除する金額にかなりの差額が生ずることになることから、この計算においては、一切端数処理を行わず円単位まで正確に計算することとされている。

  • 相続財産の一部が未分割となっている場合の相続税の課税価格の計算

    相続財産の一部が未分割となっている場合の相続税の課税価格の計算

    共同相続人や包括受遺者の間で相続財産の一部が未分割となっている場合の相続税の課税価格の計算について、相続税法55条は、「相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。」と規定している。

    この「民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合」をどのように解するかによって二通りの考え方がある。

    一つは、単純に「未分割財産の価額×法定相続分」で計算した額を分割済み財産の価額に加算する方法である。
    この方法で計算すると多くの財産を分割協議で取得している相続人は、分割協議済み財産に「未分割財産×(法定又は指定)相続分」を加算するので、より多くの遺産を取得した形で申告を行うこととなる。

    これに対し、「遺産の総額×(法定又は指定)相続分-分割取得済財産」で各々の相続人・包括受遺者の未分割財産の割合を計算する方法が考えられる。

    相続税法55条にいう相続分の割合とは、「共同相続人が他の相続人にその権利を主張できる持分的な権利の割合をいい、相続財産の一部の分割がされ、残余が未分割である場合には、各共同相続人は、他の相続人に対し、遺産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から、既に分割を受けた遺産の価額を控除した価額相当分についてその権利を主張できるものと解される(昭62.10.26東京地裁)」から、後説による計算が合理的である。

    なお、いずれの計算方法によっても相続税の総額が変わることはないので、前説により計算して相続税の申告書を提出しても課税庁から修正を求められることはない。

  • 未分割遺産の課税価格と分割後の納税者の選択

    未分割遺産の課税価格と分割後の納税者の選択

    相続税の課税価格は、各々の納税義務者が相続又は遺贈により取得した財産の価額を基に、また、債務及び葬式費用は各々の納税者(相続人及び包括受遺者に限る。)が実際に負担する額を債務控除して申告することとなっているが、遺言による分割方法の指定がなく、また、法定申告期限までに遺産分割が調わないときは、各納税者は法定相続分によって申告することとされている。

    ここでいう法定相続分とは、財産については民法900条から903条まで、負債については民法900条から902条までの規定による相続分又は包括遺贈の割合によって計算したものである。「民法900条から903条」は特別受益を考慮した相続分及び包括遺贈に割合について規定している(注)。 「民法900条から902条」は特別受益を考慮しない相続分及について規定している。特別受益を考慮しない相続分とは、遺言により相続分の指定があればこれに基づき、指定がなければいわゆる「法定相続分」によるという意味である。

    (注)寄与分は考慮しない。被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人があるときは、被相続人の財産から共同相続人の協議又は家庭裁判所の審判で定めた寄与分を控除したものとみなし、民法900条から902条までの規定によって算出した相続分に寄与分を加えた額が寄与した者の民法の規定による相続分とされている。未分割時点では協議又は審判による寄与分の決定がなされていないので、相続税法55条は、寄与分の規定を適用しないで計算したところによる相続分で課税価格を計算することとしている。

    相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を首位得した者としてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定することを妨げない。

    相続税法55条《未分割遺産に対する課税》

    未分割で申告した後、分割が行われた場合には納税者は次の行為を行うことができ、納税者から更正の請求が出された場合には税務署長は更正若しくは決定をすることができる。

    1. 納税額が減少する相続人は、分割が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができる。
    2. 更正の請求が行われた場合、税額が増加する納税者は修正申告を行うことができる。
    3. 当初は取得財産がなかった者が法定申告期限後に財産を取得することとなる場合などは、新たに期限後申告を行うことができる。

    注意すべきは、この相続税の再調整となる更正の請求は、納税者の選択によって行われるものである点である。法定相続分で計算された申告書と遺産分割後の課税価格及び納税額に差があっても、納税者は更正の請求を提出しないこともできるのである。

    納税者が更正の請求を提出しなければ、税額が増加する他の納税者は修正申告や期限後申告を行う義務はなく、税務署長も更正若しくは決定を行うことはない。

    遺産分割について長期間の争いがあり、最終的に当初申告よりも多くの遺産を取得することが可能となった納税者においても、係争中に不動産や株式が大幅に下落し修正申告や期限後申告を行っても納税することができない場合がある。遺産分割に関する係争において、このようなケースでは更正の請求さえ行わなければ修正申告等の義務は発生しないことに留意することが必要である。

    なお、相続税法55条ただし書きに規定するこれらの期限後申告、修正申告、更正又は決定は、国税通則法に定める通常の期限後申告等とは異なり、相続人の責めに帰せない原因に基づくものであるとされているので、法定申告期限の翌日から期限後申告を行った日、又は税務署長が更正若しくは決定処分の通知を発した日までの延滞税は課されない。無申告加算税も課税されない。

  • 遺産分割のやり直し

    遺産分割のやり直し

    共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然に妨げられるべきものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される

    平2.9..27最判一小

    平成2年9月27日の最高裁第一小法廷判例は、共同相続人全員による合意解除による遺産分割協議のやり直しが法律上可能であることを認めているが、国税庁は、一貫して、無効原因の伴わない単純な遺産分割協議のやり直しを原因とする財産の移転については、相続による承継ではなく、相続人が取得した遺産の贈与であるとしている。

    遺産分割の無効に関する判例としては次のものがある。

    共同相続人に一部を欠く遺産分割協議は、除外された相続人が追認しない限り無効だから、全ての当事者が改めて遺産分割を請求することができる。相続回復請求権の消滅時効の援用はできない

    最判昭53.12.20、最判平7.12.5家月48巻7号52

    一部の当事者が欠けた無効な遺産分割協議に基づいた申告があった場合、税務署長は追認の有無を確認し、追認がなされない場合には、更正・決定ができる期間内であれば税額が減少する者には職権で減額更正を行い、税額が発生し、自己のために相続が開始していたことを知っていて法定申告期限を徒過してなお無申告の者に対しては法定申告分による期限後申告を慫慂し、提出がない場合には決定処分を行う。

    無効な遺産分割に代わる有効な遺産分割が共同相続人・包括受遺者全員により行われた結果、取得財産が変動し納付すべき税額が過大となった相続人や包括受遺者は、有効な遺産分割が行われた日の翌日から2ヶ月以内に更正の請求をすることができる。

    納付税額が減少する者がある一方、相続税を納付しなければならない者や追加で納付しなければならない者がでた場合

    1. 自己のために相続が開始していたことを知っていた相続人や包括受遺者は、修正申告又は期限後申告を行わなければならない。この場合は義務的申告となるので加算税や延滞税が加算される。
    2. 遺産分割に参加できなかった者が自己のために相続が開始したことを知らなかった場合には、知った日から10ヶ月以内に相続税の申告を行う必要がある。
  • 相続人による換価分割

    相続人による換価分割

    換価分割

    相続財産のうち分割が確定していない財産を換価し、換価代金を分割する方法。

    換価分割が行われた場合の譲渡所得の申告

    未分割状態の遺産は潜在的に法定相続分で各相続人に帰属している相続共有状態なので、原則として、未分割で処分する場合は、法定相続分の割合による共有持分に基づく譲渡があったこととなる。
    判例は、共同相続人が全員の合意により遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、法定相続分の割合による共有持分に基づく譲渡がなされたものであり、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、売却代金を一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特段の事情がない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得するとしている。

    これとは異なり、売却する相続財産自体は未分割であっても、共同相続人間であらかじめ換価代金の取得割合を決めているときは、換価財産の相続による取得割合は、換価代金の取得割合と同じ割合とする合意があると解するのが合理的である。

    さらに、換価代金を遺産分割の対象に含める合意があり、換価後に換価代金を分割協議や遺産分割審判で法定相続分と異なる割合で分割することは少なくない。このような場合は、現実に譲渡代金の配分を受けた者が取得した代金に応じ譲渡所得の申告をすべきであるという考え方もあるが、譲渡所得の課税時期は資産の移転の時期であり、未分割財産を譲渡したのは遺産共有の状態下であるから、理論的には法定相続分で申告すべきとなる。

    ただし、国税庁は、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告を認めるとしている。申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合には、法定相続分により申告することとなるが、法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではないから、更正の請求等をすることはできないというのが国税庁の取扱い方針である(1)

    判例は、上述の通り、遺産の「共有」の性質について古くから一貫して共有説を採っている(2)。国税庁の取扱い方針は判例に則しているわけである。

    (1)国税庁HP 質疑応答事例「未分割遺産を換価した事による譲渡所得の申告とその後分割が確定した事による更正の請求、竣成申告等」

    (2)『親族法相続法講義案(六訂再訂版)』p.267。