相続の放棄

相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続の放棄の申述を行い、受理審判された者は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされる。相続の放棄が行われると、次の順位の相続人が、亡くなった者の財産、債務を相続することになる。

相続を放棄した者でも基礎控除の計算では相続人の数に含む。基礎控除の計算は3,000万円+法定相続人数×600万円である。この法定相続人の数は、相続の放棄がなかったものとした場合の民法上の相続人の数に依ることとされているので、相続の放棄は基礎控除の計算に影響を与えない。法定相続人である養子が相続を放棄した場合も同様に基礎控除の計算では相続の放棄がなかったものとして計算する。

遺産に係る基礎控除の計算上の「相続人の数」は民法第5編第2章の規定による相続人の数とされる。ただし、その被相続人に養子がある場合の相続人の数に算入する養子の数は、次の区分による。

  1. 被相続人に実子がある場合又は被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合・・・一人
  2. 被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合・・・二人

なお、次の養子は実子とみなされ養子の数の制限の対象から除外される。

  1. 民法上の特別養子縁組による養子となった者
  2. 配偶者の実子で被相続人の養子となった者
  3. 被相続人との婚姻前に、被相続人の配偶者の特別養子となった者で、婚姻後にその被相続人の養子となた者
  4. 実子若しくは養子又は直系卑属が相続開始以前に死亡又は相続権を失ったため相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)となったその者の直系卑属

相続税法15条2項に規定する相続人の数が零である場合における同条1項に規定する遺産に係る基礎控除は3,000万円である。

相続を放棄した者が、生命保険医金、退職金、生命保険に関する権利、定期給付契約に関する権利、保証期間付定期給付契約に関する権利、契約に基づかない定期金に関する権利の6種類のものを取得した場合には、相続税法は、これらの権利を取得した者が相続人ならば相続により、相続人以外の者ならば遺贈により取得したとみなして相続税を課税することとしている。この相続人の中には、相続を放棄した者及び相続権を失った者は含まれないので、相続を放棄した者及び相続権を失った者は遺贈により取得したものとみなされる。

退職金や生命保険金に対する非課税規定は、相続人が相続により取得したものとみなされる場合に一定の金額まで非課税にする規定であるから、遺贈により取得したとみなされる場合には適用がない。

相次相続控除については、相続又は被相続人からの遺贈により財産を取得した相続人に限って適用があり、相続を放棄した者は相続人ではないので、相次相続控除の規定の適用はない。

相続を放棄すると被相続人の債務を承継することはないから、相続を放棄した者が被相続人の債務を支払っても、債務者として支払っているわけではないので債務控除はできない。これに対し、葬式費用は、相続を放棄した者は、被相続人の子供など被相続人の近親であるので、その者が葬式費用を負担した場合には遺贈により取得した価格の中から控除しても差し支えないこととされている。

配偶者の相続税の軽減、未成年者控除、障害者控除の規定は、配偶者であること、未成年者であること、障害者であることという人的要素に着目した規定であるから、相続を放棄した者でもこれらの人的要件さえ具備していれば適用を受けることができる。

図表Ⅲ-10 相続権を失った者と相続税法の規定一覧表

項目条文遺贈を受けた者
放棄した者欠格者廃除された者
民法に規定する相続人民法886~895×××
放棄者の子は代襲相続人にならない欠格者の子は代襲相続人となる被廃除者の子は代襲相続人となる
相続税法の規定死亡保険金の非課税規定相法12①五イ×××
死亡退職金の非課税規程相法12①六イ×××
相次相続控除相法20、相基通20-1×××
基礎控除の計算相法15××
法定相続分による相続税の総額の計算相法16××
相続人の数に算入される養子の数の制限相法63××
相続税の2割加算対象者相法18、相基通18-1、18-3△注△注△注
配偶者の税額軽減特例相法19の2①××
未成年者控除相法19の3①③××
障害者控除相法19の4①③××
相続時精算課税に係る相続税の納税義務の承継相法21の17×××
申告期限前に相続人が死亡した場合の申告義務者相法27②×××

(注)相続放棄をした者、欠格若しくは廃除の事由により相続権を失った者が遺贈や死亡保険金を取得した場合、これらの者が配偶者や一親等の血族ならば、2割加算の対象にはならない(ただし、代襲相続人が相続放棄をし遺贈等を受けた場合は、2割加算の対象となる。)。