遺贈の放棄

特定遺贈の放棄

特定遺贈は、遺言者の死亡後、いつでも放棄することができる(民法986①)。特定遺贈とは、「妻に自宅と全ての上場株式を与える」というように、特定の具体的な財産的利益を遺贈することである。受遺者に債務だけを負担させる遺言は遺贈ではない(大判大6.7.5.民録23.1276)。「長男に貸している貸付金を免除する」というように債務の免除をすることもできる。遺贈の効果は遺言者死亡の時に遡及する(民法986②)。

受遺者が遺贈を放棄せずに死亡すると、その相続人が承認又は放棄をすることができる(民法986。ただし、遺言者が別段の意思を表示したときはそれに従う。)(1)。特定遺贈の内容が可分であるときは、一部放棄もできる。しかし、一部放棄を禁ずる遺言であればそれに従うべきである(2)

(1)受遺者が遺贈者の死亡以前に死亡した場合は遺贈の効力が生じない(民法994①)。ここは、遺贈者が死亡し遺贈の効力が生じた後に受遺者が死亡した場合のことである。

(2)『新版注釈民法(28)』p.210。

債務免除の遺贈について放棄できるか否かについては争いがある。生前における債務免除が、債権者の単独行為により効果が生ずる(民法519)のに対し、遺言による債務免除についてだけ放棄することができるのは均衡がとれないことと、債務免除は受遺者にとり経済的利益に働くことから多数説は放棄できないとしている(3)

(3)『新版注釈民法(28)』p.210。遺贈されたものは確定的に受遺者に帰属する。理論上、受遺者から他の相続人への分配は贈与税の課税対象となる。

放棄により、受遺者が受け取るべきであったものは、遺言に別段の定めがない限り、相続人に帰属する(民法995)。受遺者がいったん遺贈を承認した後に個々の受遺物についての権利を放棄することは自由だが、これは遺贈の放棄ではない(4)。放棄の効果は遺言者の死亡の時に遡及する(民法986②)。撤回できない(民法986①)。法律行為の規定による取消の主張は短期間に限って認められる(民法989条による919条3項の準用)。

(4)『新版注釈民法(28)』p.209。

遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者)その他の利害関係人には、受遺者に放棄するかどうか催告する権利が与えられている(民法987)。

特定遺贈を受けた受遺者が相続人ならば、遺贈を放棄しても法定相続人として遺産分割協議に参加することができるが、受遺者が法定相続人以外の者ならば、放棄をした部分は相続する権利がなくなる。

包括遺贈の放棄

包括遺贈とは、「遺産の全部を与える」とか「遺産の三分の一を与える」というように、遺産(積極財産及び消極財産)の全部又は一部の割合を持ってする遺贈をいう。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)。相続人と共に遺産を共有する状態になり、債務も承継し、具体的にどの財産をもらうか決めるために遺産分割協議にも参加することになる。

相続人と異なる点は、包括受遺者には遺留分がないこと、条件や負担をつけることができることである。受遺者が相続開始以前に死亡すると、原則として遺贈は失効する。代襲相続も生じない(民法994)。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)から包括遺贈の承認・放棄は特定遺贈と異なり法定相続人が行う相続放棄・承認・限定承認と同じ手続きで行う(民法915)。もし、遺贈者(被相続人)が債務超過であるときは、包括受遺者には、受遺者固有の財産で承継した債務を支払う義務が生じる(民法920)。

このように、包括遺贈を受けた者は相続人と同様の立場に立つ。包括受遺者が複数いる場合や、財産の三分の一を与えるというような割合的包括遺贈を受けた場合は他の相続人と遺産分割協議をすることにより、承継したい財産を選ぶことができる。ところが、「財産の全部をあなたにあげる」という全部包括遺贈を受けた場合は、他の相続人と遺産分割協議ができない。全部包括受遺者は全ての権利義務を承継するか家庭裁判所で放棄手続きをとるかの二者択一選択権しかない。

遺贈を受けた財産のうち一部だけをもらうことができないので、仲のいい家族が遺産を相続するのに包括遺贈が障害となることがある。被相続人(遺贈者)が法定相続人以外の家族に全ての財産を包括遺贈したところ、法定相続人である家族が遺産の一部を必要とするような場合である。

【設例】

被相続人甲は独身で亡くなった。親族は、母Aと妹Bである。甲は全財産を妹Bに遺贈する遺言を残したところ、甲の遺産の仲に母Aが居住している土地と建物があった。母Aは、自分が住んでいる家は自分が相続したいと言い出した。相続人は母Aであり、妹Bは受遺者だが相続人ではない。全財産をBに与えるという内容の遺言であるから、この遺贈は、特定遺贈ではなく包括遺贈である。包括遺贈の受遺者は特定遺贈のように自由に遺贈の一部放棄ができない(5)

(5)『新版注釈民法(28)』p.221。遺贈に関する民法986条ないし989条は特定遺贈に関する規定であり、包括遺贈には適用されない。

図表Ⅱ-14 妹に遺産全部の包括遺贈があったケース

妹に遺産全部の包括遺贈があったケース
妹に遺産全部の包括遺贈があったケース

包括遺贈は相続人と同一の権利義務を有するから、相続放棄をするならば自己のために包括遺贈があったことを知ったときから三ヶ月以内に承認又は放棄をしなければならない(民法915)(6)。期間内に限定承認又は放棄をしないと、包括遺贈を単純承認したものとみなされる(民法921②)(7)

(6)限定承認をすることもできるが、他に相続人や包括受遺者がいる場合には、これらの者と共同でなければ限定承認をすることはできない(民法923)。

(7)遺産が債務超過の時は、包括受遺者は自己の固有財産を持ってしても弁済の責を負わなければならない(無限責任)ことになる(民法920)。 『新版注釈民法(28)』p.221。

Bは、母Aと争う気持ちも必要もない。母Aの住んでいる家は母Aに相続してもらいたい。しかし、裁判所で相続放棄をすると、全ての遺産が唯一の相続人である母Aに帰属してしまう。もちろん、母Aが亡くなれば、娘Bが相続するが相続税を二度負担することになりかねない。

母Aは、遺留分権利者である(8)。このケースでの遺贈は相続人である母Aの遺留分を侵害している。ただ、遺留分を侵害しても遺贈そのもは有効である(9)。母Aは遺留分権利者として遺留分減殺請求をしないかぎり、遺産について何らの権利も取得しない。

(8)民法は、兄弟姉妹を除く相続人(配偶者・子・直系尊属)を遺留分権利者としている(民法1028)。

(9)全財産を第三者に全部遺贈する遺言も有効である(最判昭25.4.28民集4・4・152)。

問題は、母Aは遺留分の範囲(この場合、被相続人の財産の三分の一(10))で家屋と敷地を相続することが(取り戻すことが)できるかどうかということである。

(10)遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人となるときは被相続人の財産の三分の一、その他の場合は被相続人の財産の二分の一とされている(民法1028)。

遺留分を侵害された相続人が遺留分減殺請求権を行使したことにより取り戻した財産(取戻財産)が相続財産に復帰し遺産分割対象となるかについて最高裁は、共同相続人の一人に対する全部包括遺贈に対し他の相続人が遺留分減殺請求権を行使したという事案につき「遺留分減殺請求権行使の結果遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産の性質を有しない」としている(最判平8.1.26民集50・1・132判時1559・43)。

一人の受遺者に遺産の全てを遺贈するという全部包括遺贈がなされると、遺産は遺言が効力を生ずると同時に(遺産分割協議を行う必要はないので)当然に受遺者の固有財産となる。全部包括受遺者に対して遺留分減殺を行った場合は、受遺者個人に帰属した財産の一部が減殺者に帰属することになり、減殺者と被減殺者(包括受遺者)の物件共有状態を生ずることになる(11)。遺贈された全ての遺産が減殺者と包括受遺者と共有になるのである。

(11)埼玉弁護士会『遺留分の法律と実務』p.142。

このような共有状態から脱する方法として、包括受遺者は減殺請求された財産の時価に相当する金銭を支払う方法を選択することができる。これを価額弁償という。

母Aは自宅だけが欲しく、他の遺産は必要がないのである。ところが、遺留分減殺請求の結果、理論上、①全ての遺産について三分の一がA、残りの三分の二がBという物件共有状態になるか、②受遺者の判断でAの三分の一に対応する価額弁償を行うかの二つしか選択肢はないのである。理論上、Aは遺留分減殺請求を行って自宅だけを相続で取得することができないのである。

減殺者において、減殺すべき財産を選択特定して減殺請求することができればよいのだが、多数説・判決例(徳島地判昭46.6.29判時643・84、東京地判昭61.9.26判時1214・116)は減殺者の選択権を否定している。

包括受遺者が複数いた場合はどうであろう。上の例で、妹が二人(BとC)いた場合である。被相続人(兄:遺贈者)が妹BとCに各々二分の一ずつ包括遺贈した場合である。

図表Ⅱ-15 妹B、Cに部分的包括遺贈が行われたケース

妹B、Cに部分的包括遺贈があったケース
妹B、Cに部分的包括遺贈があったケース

「各々二分の一ずつあげる」という遺贈であるから、現実に分けるためにはBとCが遺産分割協議を行って誰がどの財産を取得するかを決めなければならない。遺産は分割協議が終わるまでB、Cの固有財産とはならない。遺産分割協議を経て初めて具体的相続財産が受遺者の個人財産となるのである(内田貴『民法Ⅳ』p.523、『親族法相続法講義案』p351、『改訂遺産分割実務マニュアル』p.236)。

BとCに対し法定相続人である母Aが遺留分減殺請求を行った場合は、被減殺者(包括受遺者B、C)が有する権利(遺産に対する割合的権利)の一部(この場合は三分の一)が減殺者Aに帰属することとなる。遺産共有状態になるから、A、B、Cが分割協議を行い、母Aが住んでいる土地建物が遺留分侵害額の範囲ならばA、B、Cの合意によりAは自宅を相続により取得することができる。

【遺留分減殺請求の効果と課税関係】

上述のとおり、割合的包括遺贈(複数の受遺者に割合的に遺贈)は、特定の遺産を誰が相続するかが定まっていない遺産共有状態となるから全ての遺産が分割協議の対象となるが、全部包括遺贈(全ての遺産を一人に遺贈)に対し減殺請求が行われた場合は、遺留分権利者と受遺者により個々の遺産が共有となり、改めて遺産分割協議の対象とならないというのが前掲平成八年判例の考え方であろう(内田貴『民法Ⅳ』p.523)。判決文の詳細は131頁参照。

遺産が甲土地と乙土地しかない単純なケースで考えてみれば、遺産をAとBに各々二分の一ずつ与えるという遺贈(割合的包括遺贈)がなされた場合、AとBは甲土地と乙土地をどのように分けるかを話し合いで決めなければならない。この状態を遺産共有という。

全ての遺産をAに与えるという全部包括遺贈があり、相続人Bが遺留分減殺請求権を行使すると甲土地と乙土地は各々遺留分の範囲でAとBの共有になる。Bの遺留分が四分の一だとすると、甲土地も乙土地もAの持分は四分の三、Bの持分は四分の一の共有となる。A、Bが話し合って分割教護をする余地はない。この状態を物件共有という。

このような状態は不便なので、被減殺者は遺留分に相当する財産の時価を金銭で支払うことを選択し共有状態を解消することができる(民法1041)。これを価額弁償という。被減殺者が価額弁償を選択すると、遺留分権利者は、価額弁償金を相続により取得したものとされる(東京地判平2.2.27税務訴訟資料175・802、東京高判平3.2.5税務訴訟資料182・286、最判平4.11.16判時1441・66)。平成4年11月16日、最高裁判例の事案概要は、次のようなものである。

  1. 乙株式会社は、被相続人甲から土地の遺贈を受け、所有権移転登記を完了した。
  2. 甲の相続人の一人であるXは、乙株式会社への土地の遺贈により生ずる譲渡所得の申告(甲の準確定申告)を行った(所法59①)。
  3. 甲の他の相続人B1、B2、B3、B4(以下、「B1ら」という。)は、乙株式会社への遺贈がB1らの遺留分を侵害したとして、遺留分減殺請求を行い、乙株式会社から合計4,000万円を価額弁償として受領した。
  4. そこで、Xは、乙株式会社へ遺贈した額が4,000万円過大であったとして、更正の請求を行ったが、税務署長は、更正の請求をすべき理由はない旨の通知を行うと共にXに対し、譲渡所得の計算に誤りがあったとして、増額更正処分を行った。
  5. Xは、この処分を不服として取消を求め提訴した。
  6. 東京地裁及び東京高裁は価額弁償金の控除を認めなかった。

判旨は次のとおりである。

本社土地の遺贈に対する遺留分減殺請求について、受遺者が価額による弁償を行ったことにより、結局、本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないこととなり、したがって、右遺留分減殺請求が遺贈による本件土地に係る被相続人の譲渡所得に何ら影響を及ぼさないこととなるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

判旨の「本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がない」という意味は次のとおりである。

遺留分を侵害する特定遺贈は減殺請求権が行使されると減殺者の遺留分を侵害する限度で遺贈の効力が失われ、目的物の一部が遺留分減殺の対象となったときには、減殺の目的物は、減殺請求者と受遺者との共有となるが、価額弁償によりいったん失効した遺贈の効果は相続開始時まで遡り復活する結果、遺贈の目的物は被相続人から受遺者に譲渡された事実には何ら変動がない(12)

(12)これに対し、少数意見は「遺贈の目的とされた当該権利は、(中略)遺留分権利者から受遺者に移転するというべきであり、遺贈により被相続人から受遺者に移転するということはできない」としている。

この考え方に従えば、受遺者が価額弁償金を遺留分権利者に支払った場合は、受遺者は遺贈を受けた財産を相続により取得したものとして申告を行えばよく、遺留分権利者は価額弁償金を相続により取得したものとして相続税の申告を行えばよいこととなる。

価額弁済によらず、遺留分権利者が特定の遺産を取得しようとするとどうなるか。前掲平成8年判例の立場に立てば、遺留分権利者が所有する個々の遺産に対する持分と、受遺者が所有する特定の遺産の持分との交換が行われたことになる。個々の遺産の持分に含み益があれば譲渡所得の課税が起こることが想定される(13)

(13)名古屋国税局に対し行われた事前照会事例(平成22年3月2日)及び回答は、「相続財産の全部についての包括遺贈に対して遺留分減殺請求に基づく判決と異なる内容の相続財産の再配分を行った場合の課税関係について」は、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対する遺留分減殺請求の提訴に基づく判決とは異なる内容の相続財産を再配分する旨の書類を作成して合理的な再配分を行った場合、相続人間で贈与又は交換等その態様に応じて贈与税又は所得税の課税関係が生ずることとなると解すべきであるとしている。

もっとも、元々、被相続人の所有に属していた財産を相続人(遺留分権利者)が取得するものだから、取得原因は相続に他ならないと考えれば、細部に拘泥することなく遺留分権利者が取得した財産は、相続により取得した財産であるということで相続税の申告を行えば足りると解することも可能だと思われるが、最高裁判例に従うべき行政庁としてそのような柔軟な解釈ができるかという点については疑問の余地もあり、このような事例には注意が必要である。

■参考判例:全遺産を包括して一人の相続人に相続させる旨の遺言
平成8年1月26日 最高裁判所第二小法廷判決 平成3(才)1772 遺留分減殺

遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ(最高裁昭和50年(才)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁)、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないとするのが相当である。その理由は、次のとおりである。

特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者の遺志に委ね(1031条、1043条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(1036条、1039条、1040条、1041条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有する者で、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。

図表Ⅱ-16 遺留分減殺請求権行使の結果生じる権利関係

遺留分減殺請求権の結果遺贈の種類効果
遺産共有状態を生ずる場合割合的包括遺贈遺産分割協議が可能
相続分の指定遺言
相続分の指定を伴う分割方法の指定遺言
割合的包括「相続させる」旨の遺言
物権法上の共有関係のみとなる場合生前贈与遺産分割の余地はない
特定遺贈
特定の財産についての「相続させる」旨の遺言
全部包括遺贈
全部包括「相続させる」遺言

(参考文献:『改訂遺産分割実務マニュアル』p.235)

図表Ⅱ-17 法定相続分一覧表

順位法定相続人の状況法定相続分
配偶者直系尊属兄弟姉妹
1子がいる場合配偶者がいる場合1/21/2
配偶者がいない場合1
2子がいない場合配偶者がいる場合2/31/3
配偶者がいない場合1
3子と直系尊属がいない場合配偶者がいる場合兄弟姉妹がいる場合3/41/4
兄弟姉妹がいない場合1
配偶者がいない場合1

図表Ⅱ-18 遺留分権利者と遺留分一覧表

相続人の範囲遺留分権利者遺留分
配偶者だけ配偶者相続財産の2分の1
配偶者・子配偶者・子相続財産の2分の1
配偶者と直系尊属配偶者・直系尊属相続財産の2分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者相続財産の2分の1
子だけ相続財産の2分の1
直系尊属だけ直系尊属相続財産の3分の1
兄弟姉妹だけなしなし

図表Ⅱ-19 個別的遺留分の例示

遺留分権利者個別的遺留分(相対的遺留分率×法定相続分)
配偶者と子供二人配偶者が4分の1(2分の1×2分の1)
子供が8分の1(2分の1×2分の1×2分の1)
配偶者と直系尊属(父母二名)配偶者が3分の1(2分の1×3分の2)
父母が各々12分の1(2分の1×3分の1×2分の1)
直系卑属(子供二人)それぞれの個別遺留分は4分の1(2分の1×2分の1)
直系尊属(父母二名)のみが相続父母各々の個別的遺留分はそれぞれ6分の1(3分の1×2分の1)
配偶者だけが遺留分権利者の場合配偶者の遺留分は2分の1

(注) 平成25年12月5日、民法の一部を改正する法律が成立し、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になった(同月11日公布・施行)。

  1. 法定相続分を定めた民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の二分の一と定めた部分(900条4号ただし書前半部分)を削除し、嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にした。
  2. 改正後の民法900条の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとしている。
  • 「嫡出でない子」とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいう。

(注) 平成25年9月4日の最高裁判所決定(以下「本決定」という。)においては、(1)嫡出でない子の相続分に関する規定(以下「本件規定」という。)が遅くとも平成13年7月においては違憲であった、(2)その違憲判断は、平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない、と判示している。
 最高裁判所により違憲判断がされると、その先例としての事実上の拘束力により、その後の同種の紛争は最高裁判所で示された準則に従って処理されることになる。
 そのため、平成13年7月1日から平成25年9月4日(本決定の日)までの間に開始した相続について、本決定後に遺産の分割をする場合は、最高裁判所の違憲判断に従い、嫡出子と嫡出でない子の相続分は同等のものとして扱われることになる。
 他方、平成13年7月1日から平成25年9月4日(本決定の日)までの間に開始した相続であっても、遺産の分割の協議や裁判が終了しているなど、最高裁判所の判示する「確定的なものとなった法律関係」にあたる場合には、その効力は覆らない。