相続人が取得した遺産を相続税の申告期限までに国等に贈与した場合の相続税非課税財産(措法70)

図表Ⅵ-10 相続税の非課税財産となる遺産の寄附(贈与)

相続税の非課税財産となる遺産の寄附(贈与)
相続税の非課税財産となる遺産の寄附(贈与)
相続税の非課税特例

受贈法人が次の法人であり、相続税・贈与税の負担の不当な減少にならないなど一定の要件に該当する場合、相続人が相続税の申告期限までに贈与した遺産は相続税の課税価格に算入しない。

  1. 国又は地方公共団体
  2. 限定列挙された次の法人
措法70条、施令40条の3
  1. 独立行政法人
  2. 国立大学法人及び大学共同利用機関法人
  3. 一定の地方独立行政法人
  4. 公立大学法人
  5. 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興、共済事業団及び日本赤十字社
  6. 公益社団法人及び公益財団法人
  7. 一定の私立学校法人
  8. 社会福祉法人
  9. 更生保護法人
  10. 認定NPO法人

相続税及び贈与税の不当な減少となる場合は、原則に戻り、相続人に相続税が課税される。

相続又は遺贈により財産を取得した者が相続した財産を相続税の申告期限までに租税特別措置法70条所定の法人(限定列挙された公益性の高い事業を行う法人(措法70条、措令40条の3))に寄附した場合、寄附をした者やその親族・特別関係者の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合を除き、寄附をした財産の価額を相続税の課税価格に算入しないことができる(非課税となる)。

なお、受贈法人(以下のA~J)が、次の要件に該当する場合は非課税にならず、相続又は遺贈に係る相続税の課税価格に算入する(措法70②)。

  1. 贈与があった日から2年を経過した日までにA~Jの法人に該当しないこととなった場合
  2. 贈与により取得した財産を2年を経過した日までに公益目的事業の用に供していない場合
【受贈法人】
  1. 国又は地方公共団体
  2. 限定列挙された次の法人

A.独立行政法人

B.国立大学法人及び大学共同利用機関法人

C.一定の地方独立行政法人

D.公立大学法人

E.自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興、共済事業団及び日本赤十字社

F.公益社団法人及び公益財団法人

G.一定の私立学校法人

H.社会福祉法人

I.更生保護法人

J.認定NPO法人

図表Ⅵ-11 相続税の非課税特例

相続税の非課税特例
相続税の非課税特例

制度創設の趣旨

国等に対して相続財産を贈与した場合の相続税の非課税規定は、昭和38年3月(法律第65号)に新設された。この規定ができる前は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業を行い、かつ、取得した財産をその公益事業の用に供する場合にその財産を相続税の非課税財産とする規定(相法12①3)があるのみであった。財産を相続又は遺贈により取得した相続人や受遺者が、取得した財産を公益事業の用に供するため公益法人などに贈与しても、その財産には相続税が課税されていた(1)

(1)ただし、その贈与がその被相続人の意思によったことが遺言に準ずる書面等で明らかに推定された場合に限り、直接遺贈したものとして取り扱われた(直資90(例規):昭和35年10月1日 被相続人の意思に基づき公益法人を設立する場合等の相続税の取扱いについて)。

この制度の立法の趣旨は次のとおりである(2)

  1. 相続開始直後に相続又は遺贈により取得した財産を公益法人などに贈与する場合は、被相続人の生前の意思に基づいて行われることも多いと推定されること
  2. 我が国の現状では、直教育や科学の振興等公益性の高い事業の保護育成が重要であること

(2)参考:国税庁直税部「昭和38年直税関係改正税法の解説」。

相続又は遺贈により取得した財産の範囲

特例の対象となる「相続又は遺贈により取得した財産」(措通70-1-5)

相続税の規定(相法3、7~9、第一章第3節)により相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金、退職金等の財産及び信託に関する権利を含む(ただし、集団投資信託等の信託に関する権利(相法9の2⑥ただし書き)及び受益者等が存在しない信託の受託者が遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利(相法9の4①②)を除く。)。

特例の対象とならない「相続又は遺贈により取得した財産」(措通70-1-5)

相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産で相続税法19条の規定により相続税の課税価格に加算されるもの並びに相続時精算課税の適用を受ける財産で相続税法21条の5第1項により課税価格に算入されるもの及び21条の16第1項の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされるものは含まれない(相法19、21の15①、21の16①)。

特例の対象となる「相続又は遺贈により取得した財産」(措通70-1-6)

相続した建物等が火災により焼失したことにより取得した火災保険金(被相続人又は遺贈者が契約者であるものに限る)は、相続又は遺贈により取得した財産に該当するが、相続した財産を売却した代金は対象にならない。証券投資信託や貸付信託を解約した金銭も対象にならないため、証券投資信託や貸付信託を贈与する場合は特に注意が必要である(措通70-1-6)。

公益の増進に著しく寄与するかどうかの判定

公益事業の規模

当該贈与又は遺贈を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益事業が、その事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有すること。

この場合において、たとえば、次の1から10までに掲げる事業がその法人の主たる目的として営まれているときは、当該事業は、社会的存在として認識される程度の規模を有するものに該当するものとして取り扱う。

  1. 学校教育法(昭和22年法律第26号)1条《学校の範囲》に規定する学校を設置運営する事業
  2. 社会福祉法(昭和26年法律第45号)2条2項各号及び3項各号《定義》に規定する事業
  3. 更生保護事業法(平成7年法律第86号)2条1項《定義》に規定する更生保護事業
  4. 宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業
  5. 博物館法(昭和26年法律第285号)2条1項《定義》に規定する博物館を設置運営する事業
    (注)上記の博物館は、博物館法10条《登録》の規定による博物館としての登録を受けたものに限られているのであるから留意する。
  6. 図書館法(昭和25年法律第118号)2条1項《定義》に規定する図書館を設置運営する事業
  7. 30人以上の学生若しくは生徒(以下、「学生等」という。)に対して学資の支給若しくは貸与をし、又はこれらの者の修学を援助するための寄宿舎を設置運営する事業(学資の支給若しくは貸与の対象となる者又は寄宿舎の貸与の対象となる者が都道府県の範囲よりも狭い一定の地域内に住所を有する学生若しくは当該一定の地域内に所在する学校の学生等に限定されているものを除く。)
  8. 科学技術その他の学術に関する研究をお粉炒めの施設(以下、「研究施設」という。)を設置運営する事業又は当該学術に関する研究を行う者(以下、「研究者」という。)に対して助成金を支給する事業(助成金の支給の対象となる者が都道府県の範囲よりもさまい一定の地域内に住所を有する研究者又は当該一定の地域内に所在する研究施設の研究者に限定されているものを除く。)
  9. 学校教育法82条の2《専修学校》に規定する専修学校又は同法83条1項《各種学校》に規定する各種学校を設置運営する事業で、次の要件を具備するもの
    1. 同時に授業を受ける生徒定数は、原則として80人以上であること。
    2. 法人税法施行規則(昭和40年大蔵省令第12号)7条1号及び2号《学校において行う技芸の教授のうち収益事業に該当しないものの範囲》に定める要件
  10. 財団たる医療法人又は社団たる医療法人で出資持分の定めのないものの行う事業で、その法人の開設する医療施設が租税特別措置法施行令39条の25第1項1号に規定する厚生労働大臣が財務大臣と協議して定める基準を満たすもの
公益の分配

当該贈与又は遺贈を受けた法人の事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とする全ての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。

事業の営利性

当該法人の当該贈与又は遺贈に係る公益事業について、その公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でないことその他当該事業の経営が営利企業的に行われている事実がないこと。

法令の遵守等

当該法人の事業の運営につき、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと。