未分割遺産は共同相続人の共有とされているから、共有財産から生ずる賃料等の法廷果実は、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って包括受遺者を含む相続人に帰属する。
遺産分割の効果は相続開始に遡り生ずるが、未分割遺産から生ずる法廷果実は遺産とは別個の財産であり、包括受遺者を含む相続人が相続分の割合により確定的に取得し、賃料債権はその後になされた遺産分割の影響を受けない。
ただし、相続人及び包括受遺者全員の合意により、当該法定果実を遺産分割の対象に含めることは可能である。
未分割遺産は共同相続人の共有とされているから、共有財産から生ずる賃料等の法廷果実は、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って包括受遺者を含む相続人に帰属する。
遺産分割の効果は相続開始に遡り生ずるが、未分割遺産から生ずる法廷果実は遺産とは別個の財産であり、包括受遺者を含む相続人が相続分の割合により確定的に取得し、賃料債権はその後になされた遺産分割の影響を受けない。
ただし、相続人及び包括受遺者全員の合意により、当該法定果実を遺産分割の対象に含めることは可能である。
保険契約者(保険料の負担者)である被相続人が、自己を被保険者、死亡保険金の受取人を相続人等としていた生命保険契約は、他人のためにする保険契約であり、支払われた保険金は民法上の相続財産ではない。
受取人を被相続人としていた場合、被相続人が取得した保険金請求権が相続財産となり、分割協議の対象となる。
いずれのケースにおいても、被相続人が負担していた保険料に対応する死亡保険金は相続税の課税対象となる。
相続人一人につき500万円まで非課税である。この場合の相続人には相続を放棄した者及び相続権を失った者を含まない。
相続人が相続により取得したものとみなされる保険金のうち、国等に相続財産を贈与した場合の相続税の非課税規定の適用を受ける部分があるときは、前記非課税部分の金額は保険金の合計額から国等に贈与した部分の金額を控除し、控除後の保険金の合計金額を基礎として計算することとされている。
生命保険金の受取人とは、保険約款等に基づいて、保険事故の発生により保険金を受け取る権利を有するものをいう。
保険契約上の保険金受取人以外の者が現実に保険金を取得している場合、保険受取人の名義変更の手続がなされていなかったことについてやむを得ない事情があると認められる場合など、現実に保険金を取得した者が保険金を取得することについて相当の理由があると認められるときは、現実に保険金を取得した者を保険金受取人とすることとされている。
遺言がない場合や遺言があっても分割協議が必要な場合、相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わないときは、分割されていない遺産は、各共同相続人又は包括受遺者が、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合によって遺産を取得したものとして課税価格を計算する。ここにいう相続分とは、寄与分の規定を除く相続分、すなわち法定相続分、指定相続分、特別受益の規定を適用した相続分をいう。生命保険金、退職金等、民法上相続財産とされないみなし相続財産は、これを取得した者の課税価格に加算する。
相続債務を負担する者が確定していないときは、特別受益を除いた民法900条から902条までの相続分により債務控除の額(債務及び葬式費用)を計算する。債務控除を行う額が、相続又は包括遺贈により取得する財産の金額を超えるときは、相続債務を実際に負担する額が確定していないときに限り、超える部分の金額を他の相続人又は包括受遺者の相続税の課税価格の計算上控除することができる。実際に負担する金額が確定している場合は、負担する債務が遺産の取得価格を超え引き切れない債務があっても、他の相続人又は包括受遺者から控除できない。
遺産分割が前提となる小規模宅地の課税価格の特例や配偶者の税額軽減は、未分割の状態で行う申告では適用できない。配偶者の税額軽減については、法定申告期限までに分割されていない場合には適用がないこととされているが、分割されていない財産が法定申告期限から3年以内に分割される見込であるときは、期限内申告書に分割見込書の添付がある場合に限って、分割された日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行い、配偶者の税額軽減特例の適用を受けることができるとされている。
遺産分割に争いがあるなどして、調停の申し立て、相続について訴えの提起がされたことなど、やむを得ない事情により3年以内に分割されなかった場合には、申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署長の承認を得たときは、判決の確定、訴えの取り下げ、和解・調停の成立、審判の確定等の日から4ヶ月以内に分割された場合には適用できることとされている。分割された日から4ヶ月以内に限り更正の請求をすることができる。
「申告期限後3年以内の分割見込書」に関する相続税法19条の2第4項には宥恕規定があるが、「承認申請書」の提出期限に関する相続税法施行令4条の2第2項には宥恕規定はない。申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに承認申請書を提出しない場合は、配偶者の税額軽減特例の適用はなくなるので注意が必要である(1)。
(1)東地判平成13年8月24日判決は、「本来、法令の規定によって負担すべきものとされる租税債務の軽減等に関し、当事者の手続上の懈怠について定められた宥恕の規定は、原則に対する例外を定めたものであり、宥恕を認めるべき場合には、手続における恣意性を廃除した公平な取扱いを行う意味からも、法規に明文を持って規定されるのが通令であり、それ故、明文の規定の有無によって、宥恕の取扱いを異にするのは当然である」と述べ、相続税法19条の2第4項の規定を準用し又は類推適用することは困難であるとしている。
法定相続分に応じて遺産分割協議を行う時において、必ずしも全ての財産について遺産分割協議が必要なわけではない。金銭債権は可分債権であるから、法律上、当然分割され、共同相続人は各々の相続分に応じて承継する(相続人全員が合意すれば遺産分割の対象とすることは可能である)。したがって、遺産分割協議が成立していないときでも、「配偶者が金融機関に対し配偶者の相続分相当額について払戻請求を行い、相続税の申告期限までに実際に払戻を受けたときは、配偶者は当該金員を実効支配するに至っていることから、払戻を受けたその相続分相当額については、配偶者の税が軽減の特例に規定する『分割されていない財産』からは除外されると解するのが相当」とされている。
相続開始時点で被相続人が保有していた現金は、分割協議を経る必要がある。他の相続人は、保管している相続人に対し法定相続分に従い支払を求めることはできないこととされている。
相続開始後、遺産分割までの間に遺産の形態が変わった場合には、分割協議を経なくとも法定相続分で分割が確定するものがある。たとえば、相続財産であるマンションを他のマンションと交換した場合、交換取得したマンションは相続財産ではないので遺産分割の対象にならない。交換によって取得したマンションは共同相続人の法定相続分による共有となる(2)。
(2)『実務家族法講義』p.330。
遺産を構成する不動産は分割協議を経ないと分割が確定しない財産であるが、共同相続人が全員の合意で遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、法定相続分の割合による共有持分に基づく譲渡が行われたものであり(3)、「その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる」ものとされている。このような場合も、配偶者が取得した代金債権を配偶者の税額軽減の特例の対象財産とすることが可能である。
(3)東地裁平成8・8・29。
なお、相続人全員の合意があればいったん分割協議対象財産から離脱した売却代金も「売却代金を一括して共同相続人の一人に保管させ遺産分割の対象に含める合意」があれば分割対象財産とすることが可能である。
相続税の法定申告期限後に遺産分割が行われ、全部又は一部未分割状態で申告した当初申告額と異なる割合で遺産の分割が行われた場合には、分割された内容に従って課税価格の計算をやり直し、それに基づいて申告書の提出、更正の請求又は更正若しくは決定をすることができることとされている。分割確定により納税額が増加する者は修正申告をすることができる。減少する者は、分割が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができる。税務署長は、更正の請求が提出された翌日から1年又は本来の更生・決定期限のどちらか遅い日までに更正又は決定をすることができる。
未分割状態で民法上の相続分に基づき申告及び納税を行っていた場合、共同相続人全員で納税すべき相続税の総額は当初申告において納税しているから、分割協議が調った場合の更正の請求や修正・期限後申告は義務的規定ではない。相続人全員で納税する相続税の総額が変わらなければ、更正の請求や修正申告を行わず、相続人間で納税額に相当する金銭をやりとりすることで調整することも可能である。実務上、税務署長は、更正の請求に基づき更正をした場合において、他の相続人につき更正又は決定をすることになるので、更正の請求さえ提出しなければ、税務署長が更正又は決定をすることはない。
代償分割とは、遺産の分割を行う際に、ある相続人や包括受遺者が相続財産を現物で取得する代わりに、他の共同相続人や包括受遺者に対して債務を負担する分割方法である。相続財産のうちに農地や事業用の資産、自宅など処分が困難な財産があるとき、その不動産を所有し使用する必要がある相続人が当該財産を取得し、他の相続人には自己が所有する現金や不動産などの相続財産ではない財産を交付する債務を負担する方法である。現物を分割したり売却換価処分したりすることが困難な場合に行われる。
代償分割を行った場合、税務面で注意する点は2点ある。
一つは、相続税の申告における代償債務の評価である。代償分割の目的物(以下、「代償分割物」という。)の評価額は当事者においては時価であるが相続税の申告では財産評価基本通達が定める相続税評価額である。代償分割において、当事者である相続人は、代償分割物を時価評価し、それに対する代償債務を支払うこととするので、代償債務は時価と相応するが、代償分割物の相続税評価額とは相応しない結果となる。
相続税評価額は時価の80%水準とされているので、時価(実勢価額)より低額となり、時価を基準に算出された代償債務もまた代償分割物の相続税評価額を上回ることとなる。
国税庁の取扱いは、原則として時価との乖離を調整することなく通常の評価方法、すなわち財産評価基本通達の定める評価方法で代償分割物と代償債務を評価する方法を原則とする。ただし、当事者である相続人間で申告書に計上する代償債務の金額を「代償分割物の相続税評価額と時価との比率」で按分し減額した額で申告することも認めている。相続税の負担に関し当事者間の公平を図ったものである。
詳細は次のとおりである。
この場合の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人などに対して負担した債務の額の相続開始の時における金額になる。
(1)代償分割の対象となった財産(相続財産)を取得する者が、将来、譲渡するときに負担するであろう譲渡所得に係る税金を考慮して対象代償財産を評価し代償債務を決定することも可能である。
(2)配偶者に対する相続税額の軽減制度を利用して相続税の負担を不当に減少させることを目的として不合理な方法によって代償財産の価額を計算している場合などは原則による事になる 。
なお、時価按分法によっても、小規模居住用宅地や特定事業用資産の課税価格の計算の特例などにより、実際に負担する相続税に不均衡が生じる場合があるが、小規模宅地や特定事業用資産の課税価格の計算特例は、評価額の特例ではなく、課税価格の特例であるから、時価按分法においても考慮することはできない。
いま一つの注意事項は、所得税(譲渡所得)の申告である。代償財産として交付する財産が相続人固有の不動産や有価証券など譲渡所得の基因となる資産である場合には譲渡所得の課税対象となる。代償債務を負う者が、代償債務を支払う代わりに自己固有の資産(土地、有価証券など)を譲渡したと認定されるためである。代償債務を履行した相続人・包括受遺者は、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したことになり、所得税が課税される。一方、代償財産として不動産を取得した相続人は、その履行があったときの時価により、その資産を取得したことになる。
相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続の放棄の申述を行い、受理審判された者は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされる。相続の放棄が行われると、次の順位の相続人が、亡くなった者の財産、債務を相続することになる。
相続を放棄した者でも基礎控除の計算では相続人の数に含む。基礎控除の計算は3,000万円+法定相続人数×600万円である。この法定相続人の数は、相続の放棄がなかったものとした場合の民法上の相続人の数に依ることとされているので、相続の放棄は基礎控除の計算に影響を与えない。法定相続人である養子が相続を放棄した場合も同様に基礎控除の計算では相続の放棄がなかったものとして計算する。
遺産に係る基礎控除の計算上の「相続人の数」は民法第5編第2章の規定による相続人の数とされる。ただし、その被相続人に養子がある場合の相続人の数に算入する養子の数は、次の区分による。
なお、次の養子は実子とみなされ養子の数の制限の対象から除外される。
相続税法15条2項に規定する相続人の数が零である場合における同条1項に規定する遺産に係る基礎控除は3,000万円である。
相続を放棄した者が、生命保険医金、退職金、生命保険に関する権利、定期給付契約に関する権利、保証期間付定期給付契約に関する権利、契約に基づかない定期金に関する権利の6種類のものを取得した場合には、相続税法は、これらの権利を取得した者が相続人ならば相続により、相続人以外の者ならば遺贈により取得したとみなして相続税を課税することとしている。この相続人の中には、相続を放棄した者及び相続権を失った者は含まれないので、相続を放棄した者及び相続権を失った者は遺贈により取得したものとみなされる。
退職金や生命保険金に対する非課税規定は、相続人が相続により取得したものとみなされる場合に一定の金額まで非課税にする規定であるから、遺贈により取得したとみなされる場合には適用がない。
相次相続控除については、相続又は被相続人からの遺贈により財産を取得した相続人に限って適用があり、相続を放棄した者は相続人ではないので、相次相続控除の規定の適用はない。
相続を放棄すると被相続人の債務を承継することはないから、相続を放棄した者が被相続人の債務を支払っても、債務者として支払っているわけではないので債務控除はできない。これに対し、葬式費用は、相続を放棄した者は、被相続人の子供など被相続人の近親であるので、その者が葬式費用を負担した場合には遺贈により取得した価格の中から控除しても差し支えないこととされている。
配偶者の相続税の軽減、未成年者控除、障害者控除の規定は、配偶者であること、未成年者であること、障害者であることという人的要素に着目した規定であるから、相続を放棄した者でもこれらの人的要件さえ具備していれば適用を受けることができる。
項目 | 条文 | 遺贈を受けた者 | |||
放棄した者 | 欠格者 | 廃除された者 | |||
民法に規定する相続人 | 民法886~895 | × | × | × | |
放棄者の子は代襲相続人にならない | 欠格者の子は代襲相続人となる | 被廃除者の子は代襲相続人となる | |||
相続税法の規定 | 死亡保険金の非課税規定 | 相法12①五イ | × | × | × |
死亡退職金の非課税規程 | 相法12①六イ | × | × | × | |
相次相続控除 | 相法20、相基通20-1 | × | × | × | |
基礎控除の計算 | 相法15 | ○ | × | × | |
法定相続分による相続税の総額の計算 | 相法16 | ○ | × | × | |
相続人の数に算入される養子の数の制限 | 相法63 | ○ | × | × | |
相続税の2割加算対象者 | 相法18、相基通18-1、18-3 | △注 | △注 | △注 | |
配偶者の税額軽減特例 | 相法19の2① | ○ | × | × | |
未成年者控除 | 相法19の3①③ | ○ | × | × | |
障害者控除 | 相法19の4①③ | ○ | × | × | |
相続時精算課税に係る相続税の納税義務の承継 | 相法21の17 | × | × | × | |
申告期限前に相続人が死亡した場合の申告義務者 | 相法27② | × | × | × |
(注)相続放棄をした者、欠格若しくは廃除の事由により相続権を失った者が遺贈や死亡保険金を取得した場合、これらの者が配偶者や一親等の血族ならば、2割加算の対象にはならない(ただし、代襲相続人が相続放棄をし遺贈等を受けた場合は、2割加算の対象となる。)。
相続又は遺贈により財産を取得した相続人のうち債務控除が認められるのは、相続人と包括受遺者に限られ、控除できる債務はその者の負担に属する部分であり、かつ、確実と認められるものに限られる。
また、控除すべき債務等の範囲は、無制限納税義務者(居住無制限納税義務者と非居住無制限納税義務者)である場合、制限納税義務者である場合、特定納税義務者である場合によって異なる。
債務控除が認められるのは相続人と包括受遺者に限られるので、特定遺贈に負担が付されていても債務控除はできないが、受遺者の課税価格の計算において、遺贈により取得した財産の合計額から負担の金額を控除することができる。
無制限納税義務者については、相続又は遺贈により取得した財産及びその者が相続時精算課税の適用を受けている相続人の場合は相続時精算課税の適用を受ける財産の合計額から債務控除を行う。
無制限納税義務者が控除できる債務は、被相続人の債務で相続開始の際に現に在するもの(公租公課を含む。)のうち、その者の負担に属する部分の金額及び被相続人に係る葬式費用の金額のうち、その者の負担に属する部分の金額である。
民法885条は、「相続財産に関する費用は相続財産の中から支弁すること」と規定している。同条のいう相続財産に関する費用とは、相続開始から遺産分割により共有状態が解消されるまでの間に相続財産に生ずる固定資産税、地代、賃料、水道料金などの公共料金及び火災保険並びに相続財産の換価、弁済及び精算などに係る費用をいう。これらの費用は相続開始後に発生するものであるから被相続人の債務でもなく相続の際に現に在する債務でもないから債務控除できる債務にはあたらない。
遺言執行に関する費用も相続財産の中から支弁すべき費用であるが、被相続人の債務ではなく、葬式費用にもあたらないから債務控除の対象とはならない。
また、被相続人の生存中に墓碑を買い入れた代金が未払であるような、非課税財産の取得、維持、管理のために生じた債務も控除されない。
制限納税義務者は、相続又は遺贈により取得した財産で相続税法施行地にあるもの及び相続時精算課税制度の適用を受ける財産の価額から相続税法13条2項に規定する債務で相続開始の際現に在する被相続人の債務のうち、各相続人の負担に属する部分の金額を各々の相続人が控除できる。制限納税義務者は相続税法施行地の財産だけが課税されるので、13条2項は、次のとおり、控除できる債務を課税される財産に関するものだけに限定している。
(1)民法306条の一般の先取特権は対象とならない。
被相続人を特定贈与者として相続時精算課税の適用を受けていた特定受贈者が相続又は遺贈により財産を取得しなかった場合、その特定受贈者を特定納税義務者という。特定納税義務者の債務控除は、相続開始時の住所により次の区分となる。
相続開始後に、被相続人が行った確定申告に誤りがあり、相続人が修正申告を行ったときは、被相続人が納付すべき所得税、住民税は被相続人の債務として債務控除できる。過少申告加算税、死亡時までの延滞税等の付帯税も過少申告を行ったのが被相続人であるから債務控除できる。
被相続人が年の初めに確定申告書を提出せずに法定申告期限前に亡くなり、相続人が行った被相続人の準確定申告に誤りがあった場合には、所得税は債務控除できるが申告書を提出したのは相続人なので、無申告加算税、過少申告加算税及び延滞税等の附帯税は債務控除できない。
保証債務については、原則として債務控除できないが相続開始時点において主たる債務者が資力を喪失し弁済不能の状態にあり、保証債務を履行しなければならない場合であり、かつ、主たる債務者に対する求償権の行使が不能である場合は、その不能部分について保証債務者の債務として控除することができる。他に保証人がいる場合は、他の保証人に求償可能な金額は控除できない。
相続人及び包括受遺者が被相続人の債務をどのように承継するかについて、判例は、可分債務は相続開始と同時に相続分に応じ各相続人に帰属するとしている。しかし、このことは相続人間の協議で法定相続分と異なる遺産債務の引受を取り決めることを妨げるものではない。相続人間の協議は共同相続人間においては有効である。ただ、債務者との関係においては一種の免責的債務引受であるため、その同意なくしてこれを対抗できないだけである。債権者は、各相続人に対しその本来的相続分によって債権を行使してもよいし、分割協議を援用して債務引受をした相続人から支払を受けることも差し支えないとされる(2)。相続税の申告においては、相続人間の協議は有効であるとの考え方から、債務控除できる金額は「その者の負担に属する部分の金額」であり、相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。)によって財産を取得した者が「実際に負担する金額」をいうとされている。
(2)『親族法相続法講義案(六訂再訂版)』p.280。
各相続人及び包括受遺者について、各々実際に負担する金額が確定していないときの考え方は二通りある。一つは相続債務を単純に法定相続分で按分する方法である。遺言により相続分の指定が行われているときは指定された相続分で按分する。いま一つの方法は相続開始時点の遺産に特別受益を加算して民法上の「みなし相続財産」を計算した後、みなし相続財産を法定相続分で按分した金額から特別受益を受けている者は特別受益を控除した金額を各相続人や包括受遺者の具体的相続分とする方法である(図表Ⅲ-7、Ⅲ-8参照)。
(注)ここでいう「みなし相続財産とは」民法上のみなし相続財産をいい、被相続人が相続開始の時において所有していた財産に特別受益の額を加算したものである。
図表Ⅲ-8を見ると分かるように、特別受益者は特別受益を控除した後の金額が相続開始時点の遺産に対する取得額となるので、法定相続分による按分額よりも取得額が少なくなる(図表Ⅲ-9参照)。この結果、特別受益を考慮した割合で相続債務を按分すると、特別受益者の負担割合は特別受益を受けていない相続人に比べ少なくなる。生前に贈与を受けている方が債務の負担割合が軽くなる結果となり、相続人間に著しい不公平を生ずることとなる可能性がある。
相続税法は55条で未分割の財産については特別受益を考慮した按分方法をとるべき事を定めているが、相続債務については何ら規定を置いていない。
民法上、特別受益者がいるときに民法903条を適用して共同相続人間の債務の内部負担の割合を算定するのか、それとも903条の関係は度外視して、債務負担の割合を算出すべきかにつき争いがある。贈与、遺贈その他相続財産分配の全てを含む各自の取得した相続利益の額に応じた割合で債務を分担する方が受けた利益の割合と負担する債務の割合が一致するので相続人相互間では公平であるが、相続債権者との関係では、903条を考慮すると特別受益者の負担する割合が少なくなり相続人間に不公平が生ずることなどを理由に後説によるべきだとする見解が有力である(3)。
(3)『親族法相続法講義案(六訂再訂版)』p.252。
国税通則法5条2項は相続人が二人以上あるときは、各相続人が承継する国税の額は民法900条から902条までの規定による相続分により按分して計算した額と規定し後説を採用している。国税庁の相続債務に関する解釈も後説に依っている。
未分割で申告するときに、財産については特別受益を考慮した金額として相続税法55条により計算し、債務については単純に法定相続分(相続分の指定があるときはその割合)で算出することになる。財産と債務の按分計算が異なるので、多額の特別受益を得ている受益者は、相続税法55条の取得割合による按分財産が少額又は零となることがあり、法定相続分で単純に按分した相続債務の全額を控除しきれない結果となる可能性もある。そこで、国税庁は、相続人又は包括受遺者が未分割で申告するときに限り、特別受益者の控除しきれない相続債務を他の相続人から控除することを認めている。
ただ、このような取扱いに問題がないわけではない。相続税法55条は未分割遺産に対する申告を行った後に分割協議が調った場合、(相続税の総額はすでに納付されているので)税額が減少する相続人が更正の請求を行うか、又これを受け増加する相続人が修正申告を行うかは納税者の選択に委ねている。法定申告期限までに相続財産・債務につき分割が行われた場合には、債務控除できるのは実際に負担する債務である。債務が取得財産を上回る相続人があっても、その相続人の取得財産から控除しきれない債務を他の相続人から控除することはできないので、修正申告や更正の請求を行わなければ債務全額を控除できるが、修正申告を行うと控除できない債務が発生することとなる。
2割加算制度の立法趣旨は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人と血縁関係の疎い者である場合や全く血縁関係のない者である場合には遺産の取得に関し偶然性が高いこと、また、意図的に被相続人が子を越えて孫に遺贈し相続税の課税を一回免れようとする場合にも、配偶者や子供、親が相続する場合に比べ、多くの負担を求めることが合理的であることとされている。
相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(当該被相続人の直系卑属が相続前に死亡し又は相続権を失ったため、代襲して相続人となった当該被相続人の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合には、相続税法17条により算出した相続税額に20%を加算した金額が、その者の相続税額となる。
加算が行われる者は次の者以外の者である。
相続開始の時に被相続人の一親等の血族(被相続人の直系卑属が相続開始前に死亡し、又は相続権を失ったため、代襲して相続人となった被相続人の直系卑属を含む。)に該当しない相続時精算課税適用者については、その相続税額のうち被相続人の一親等の血族であった期間内に被相続人からの贈与により取得した相続時精算課税制度の適用を受ける財産の価額に対応する相続税額については、2割加算の対象とはならないこととされている。
代襲相続は、相続開始以前(1)の死亡、相続欠格及び相続人の廃除の三つに限られる。
(1)「以前」であるから、被相続人とその相続人である子が同時に死亡したと推定される場合には、孫が代襲相続人となる。
被相続人の子の代襲相続人は、相続権を失った者の子であると共に、被相続人の直系卑属でなければならない。この規定により、相続人である子が養子である場合に、その養子に縁組前に生まれた子があるとき、その子と養親との間には親族関係を生ぜず、相続人とはならない。
推定相続人 | 子の子 |
---|---|
(被相続人の子) | 代襲相続人となるか |
相続開始以前に死亡した場合 | ○ |
相続欠格事由に該当した場合 | ○ |
廃除により相続権を失った場合 | ○ |
相続を放棄した場合 | × |
養子は、養子縁組の日から嫡出子としての相続権を取得するから、養子縁組の日以降に生まれた養子の子は養親の直系卑属(孫)となり養親を通じて養親及びその血族との間に血族関係を生ずるが、養子縁組前に生まれた養子の子、いわゆる養子の連れ子は養親との間に親族関係は生じない。ただし、養子縁組前の養子の子が養親の実子の子であって養親の直系卑属にあたる場合には、養親を被相続人とする相続において、養子の子は養親より先に死亡した養子を代襲して相続人となる(2)。
(2)民法887条2項ただし書きにおいて、「被相続人の直系卑属でない者」を代襲相続人の範囲から廃除した理由は、血統継続の思想を尊重すると共に、親族共同体的な観点から相続人の範囲を親族内の者に限定することが相当であると考えられたこと、特に単身養子の場合において、縁組み前の養子の子が他で生活していて養親とは何ら関わりがないにもかかわらず、これに代襲相続権を与えることは不合理であるからこれを廃除する必要があったことによるものと思われるところ、本件の場合には、右Cはその母Bを通じて被相続人Aの直系の孫であるから右条項の文言上において直接に違反するものではなく、また、被相続人との家族生活の上に置いては何ら差異のなかった姉妹が、亡父と被相続人間の養子縁組届出の前に生まれたかあとに生まれたかの一事によって、長女には相続権がなく二女にのみ相続権が生ずることは極めて不合理であるから、衝平の観点からも、右Cには被相続人Aの遺産に関し代襲相続権があると解するのが相当である。
養子縁組時に胎児であった者が、養子縁組後に出生した場合、養子縁組前に生まれた養子の子(養子の連れ子)は、被相続人の代襲相続人にならないとする民法887条2項ただし書きの適用はなく、民法1条の3により被相続人の直系卑属に該当することとなる。したがって、養子の子が出生した後、養子が死亡し、その後に養親が死亡した場合、養子縁組時点で胎児であった養子の子は、養子の代襲相続人となる(3)。
(3)胎児はすでに生まれたものとみなす規定は、出生した胎児が養親の直系卑属となるかという親族関係には適用されない。
妻の子が養親と離縁している場合には 離縁した養子は離縁した養親の相続権がないので、離縁した養子が離縁した養親より先に亡くなった後に離縁した養親の相続が開始しても、離縁した養子の子は離縁した養子の代襲相続人にはならない。
養親A | 被相続人 | |||
養子B | 養親Aより先に死亡 | |||
養子Bの子C | AB縁組前に出生 | AB縁組後に出生 | AB離縁 | AとCは血縁 |
代襲相続の有無 | × | ○ | × | ○ |
養子は養子縁組の日から養親の嫡出子としての身分を取得し養親の法定血族となる。
養子は他の嫡出子と同等の相続権を取得する。
養子縁組は戸籍法に基づく届出により効力を生ずる。
養子縁組により親族関係を生ずるのは、「養子」と「養親及び養親の血族」との間である。
養子縁組により「養子縁組前に存在した養子の子供や孫」と「養親」の間には親族関係は生じない。
特別養子縁組によらない限り、養子縁組をしても養子は実父、実母との血族関係は継続するので、養親と実親双方の血族関係が併存する。
特別養子縁組の特徴は、家庭裁判所の審判によって縁組みが成立すること、養親は夫婦に限られること、養子は原則として六歳未満であること、養子と実方の父母等との親族関係が終了すること、離縁は審判によるが養親側から離縁請求はできないことなどである。
相続税の計算をするとき、①基礎控除額、②生命保険金及び死亡退職金の非課税限度額、③相続税の総額の計算については、民法の定める相続人の数(法定相続人)を基に行う。これらの計算をするときの法定相続人の数に含める養子の数は、被相続人に実子がいる場合は一人まで、実子がいない場合は二人までと制限されている。ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数を相続人の数に算入しないで計算することとされている。
なお、次のいずれかに当てはまる者は、実子として扱われ、全て法定相続人の数に含めて計算する。
■養子縁組により身分が重複する場合の相続分
・実の親が非嫡出子を養子とした後に死亡し相続が開始した場合
非嫡出子であった実子は、実の親の養子となることにより嫡出子の身分を取得し、非嫡出子の身分が消滅するので非嫡出子と養子の地位に基づく相続分が重複することはない。
・被相続人Aが「Aに先立ち死亡したAの代襲相続人であるAの子供Bの子C(孫)」を養子としていた場合
子Bが生存していれば、Aの相続には子供Bと孫Cであり、孫Cは子供Bの相続した財産を子供Bが亡くなったときに相続することができるから、養子としての相続人の地位と代襲相続した子供Bの相続人の地位とは排斥しあうものではない。重複して身分を取得する事ができる。したがって、Aの孫Cの相続分は代襲相続人としての相続分と養子としての相続分との双方の相続分を有する。ただし、このように相続人の中に代襲相続人であり、かつ、被相続人の養子となっている者がいる場合の相続税法15条2項に規定する相続人の数については、その者は実子一人として計算する。
・被相続人の配偶者が被相続人の亡父母の養子となっていた場合
いわゆる婿養子のケースである。婿養子Aは、妻X(被相続人)の両親の養子であるから、法律上は、Xの配偶者であると共にXの兄弟でもある。Xが亡くなったときに、配偶者としての相続分と、兄弟としての相続分を主張できるかという疑問が生じるが、兄弟としての相続分はない。
民法や判決文で言うところの「相続人」とは、現実に被相続人の財産債務を包括的に承継する権利を有する法定相続人のことをいう。
相続人となるためには相続能力を必要とする。相続能力とは権利義務者の主体となることが出来る能力(権利能力)とほぼ同様の意味であるが、具体的に相続し得る能力は、相続順位の範囲で第一順位に属し、相続欠格者又は被相続人に廃除されていない者であることが必要である。
民法は相続人を被相続人の一定範囲の親族に限定しているので法人には相続能力はないが、包括受遺者となることは可能である。
相続は被相続人の死亡により開始し、被相続人に帰属した一切の権利義務が直ちに相続人に移転する。したがって、相続開始時に相続人は権利能力者として存在していなければならない。これを同時存在の原則という。この原則から生じる問題が二つある。
一つは同時死亡である。一方が死亡すれば他方が相続し得る関係にある二人が同時に死亡した場合には、一方の相続開始時に他方は死亡して権利能力を失っているので、同時存在の原則によりこの両者の間では相続の問題を生じない。
今一つは胎児の相続能力である。人(自然人)は、出生により等しく権利能力を取得する。胎児は生まれていないので権利能力はないが、民法は、相続開始時に在する胎児は「すでに生まれたものとみなす。」としている。死産の場合ははじめからないものとされる。
受遺者は、遺言の効力が発生する遺贈者の死亡の時に存在していなければならないのが原則である(同時存在の原則)。存在しなければ、遺贈は無効になる。
(1)『判例タイムズ1100 家事関係裁判例と実務245題』「相続人の範囲と順位」p.314。
国税庁は、相続人となるべき胎児が申告期限までに生まれていない場合は、胎児を考慮しないで法定相続人の数を計算し、遺産に係る基礎控除を計算することとしている。
申告期限後に胎児が生まれた場合、新生児の法定申告期限は、新生児の法定代理人(親権者)が相続の開始を知った日から十ヶ月目となる。他の相続人は、胎児が出生したことを知った日の翌日から四ヶ月以内に限り、胎児の出生により相続人が増加した事による相続税の減少(注)に係る更正の請求を行うことが出来る。
(注)基礎控除の増加、相続人各人の法定相続分の減少による相続税の総額の減少。
胎児が出生する前に他の相続人だけで分割協議を行っていても、胎児が生きて生まれてきた場合には、その遺産分割協議は相続人全員の合意を欠く遺産分割であるから無効な分割協議となり、出生した胎児の法定代理人が追認しない限り、遺産は未分割の状態になる。
無効となった遺産分割協議に基づき期限内に申告を行っていた相続人は、その後に行われる新生児の法定代理人と他の相続人全員による遺産分割協議に基づき、納税額が減少する場合は、分割協議成立後四ヶ月以内に限り更正の請求をすることができ、新たな遺産分割協議により納税額が増加する相続人は修正申告をすることができると解される。
一部の相続人を除外した無効な遺産分割協議に基づく申告が行われた場合、税務署長は更正・決定を行える期間であれば、税額が減少する者に対して職権で減額更正処分を行い、税額が増加する者に対しては、期限後申告又は修正申告の指導を行い、申告書の提出がない者に対しては更正又は決定処分を行うことができる。
実務上は、胎児が出生する前にあえて遺産分割を行う必要がある場合は少なく、出生まで分割を待つか一部分割にとどめるのが現実的である。なお、胎児が生まれた場合に、相続又は遺贈により財産を取得した全ての者が相続税の申告書を提出する義務がなくなる場合には、税務署長は、胎児以外の相続人の申請に基づき、胎児が生まれた日後二月の範囲で相続税の申告期限を延長することができる。
■相続税基本通達27-6
相続開始の時に相続人となるべき胎児があり、かつ、相続税の申告書の提出期限までに生まれない場合においては、当該胎児がないものとして相続税の申告書を提出することになるのであるが、当該胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合において、相続又は遺贈により財産を取得した全ての者が相続税の申告書を提出する義務がなくなるときは、これらの事実は、通則法基本通達(徴収部関係)の「第11条関係」の「1(災害その他やむを得ない理由)の(3)」に該当するものとして、当該胎児以外の相続人その他の者に係る相続税の申告書の提出期限は、これらの者の申請に基づき、当該胎児の生まれた日後二月の範囲内で延長することができるものとして取り扱うものとする。(昭57直資2-177改正)