JTMI 税理士法人 日本税務総研

ブログ

  • 原則

    原則

    被相続人が法人に対し行う遺贈

    相続税の納税義務者は相続又は遺贈(死因贈与を含む。)により財産を取得した個人である。被相続人が遺言で財産を法人に寄附すると、寄附財産は相続税の課税対象から外れ法人税の課税対象となる。

    1. 贈与した資産に含み益があれば含み益に対し譲渡所得が発生するので、相続人や受遺者が譲渡所得の納税義務者となる(所法59①一)。
    2. 受贈法人に対する課税は、法人の種類により異なる。

    相続人が行う遺産の贈与

    相続又は遺贈(死因贈与を含む。)により財産を取得した相続人は相続税の納税義務を負う。相続後に取得財産を他に贈与しても、相続税の計算に影響はない(例外あり)。

  • 登録免許税・不動産取得税・印紙税

    登録免許税・不動産取得税・印紙税

    信託受益権を売買により取得した場合、不動産を売買により取得した場合に比べて登録免許税・不動産取得税、印紙税の負担が非常に少なくなる。

    そのため、特に高額の事業用不動産の場合、当該不動産を信託財産としたうえで信託受益権の売買が行われることが多くある。

    ただし、信託を終了した場合には登録免許税・不動産取得税が課税されるので、売主による信託登記を経て信託受益権を取得しても、その後信託が終了した場合は、実質的な税負担の軽減はないということになる。信託受益権を取得し、信託受益権のまま譲渡して初めて実質的な負担の軽減が発生することになる。

    図表Ⅴ-11 信託受益に対する課税

    売買による取得信託受益権の取得
    登録免許税最大2%不動産1個につき1,000円
    不動産取得税最大4%
    印紙税最大540,000円200円

    (注1)登録免許税:土地の売買について、H24.4.1~H29.3.31は1.5%。

    (注2)不動産取得税:住宅の売買について、H18.4.1~H30.3.31は3%。

    (注3)印紙税:受益権の譲渡契約書は、譲渡金額が1万円未満の場合は非課税。

    なお、不動産所有権の信託登記をする場合は、最大0.4%の登録免許税が発生する(不動産取得税は課税されない。信託契約書の印紙税は200円)。

    図表Ⅴ-12 不動産所有権の信託登記にかかる登録免許税

    土地建物
    登録免許税0.4%0.4%

    (注)土地について、H24.4.1~H29.3.31は0.3%。

  • 信託税制の概要

    信託税制の概要

    信託収益に対する課税の概要

    信託収益に対する課税の方法

    信託収益に対しては、受益者と信託財産の結びつきの程度によって、次の1~3の三つの方法のうちいずれかの方法により課税される。

    1. 受益者段階課税(発生時課税)
      信託収益の発生時に受益者に対して課税される。いわば原則的な課税方法であり、信託財産は受益者が所有しているとみなされる。
    2. 受益者段階課税(受領時課税)
      信託収益を現実に受領した時に受益者に課税される。たとえば投資信託の受益者など、受益者と信託財産の結びつきが希薄で、受益者が信託財産を所有しているとみなすのは適当でないものに適用される。
    3. 信託段階法人課税
      受託者を納税義務者として、いわば信託財産に対して法人税が課税される。受益者が存しない信託など、受益者に課税するのが適当でないと考えられるものに適用される。

    信託の税法上の区分

    税法上、信託については課税方法ごとに次のように区分することとされた。

    1. 受益者等課税信託
      次の2から5までのいずれにも該当しない信託をいう。財産の管理又は処分を行う一般的な信託がこれに該当し、信託財産に帰せられる収益及び費用は受益者等の収益及び費用とみなして法人税の規定を適用することとされている(法法12①)。
    2. 集団投資信託
      合同運用信託、証券投資信託等一定の投資信託及び特定公益証券発行信託をいう(法法2二十九)。受託者段階では課税されず、受益者に信託収益が分配された段階で課税されることとされている。
    3. 法人課税信託
      特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託、受益者等が存しない信託、法人が委託者となる一定の信託、投資信託及び特定目的信託のうち、2、4、5に該当しないものをいう(法法2二十九の二)。受託者段階で受託者の固有資産に帰属する所得とは区分して法人税を課税することとされている。
    4. 退職年金等信託
      厚生年金基金契約、確定給付年金資産管理運用契約、確定給付金基金資産運用契約、確定拠出年金資産管理契約、勤労者財産形成給付契約若しくは勤労者財産形成基金給付契約、国民年金基金若しくは国民年金基金連合会の締結した国民年金法128条3項若しくは137条の15第4項に規定する契約又は適格退職年金契約に係る信託をいう(法法12④一、法令15⑤)。拠出段階で拠出額が拠出者の損金の額に算入され、受託者段階では国民年金にかかるものを除き退職年金等積立金に対する法人税の課税対象とされ、分配段階では公的年金等に係る雑所得とされている。
    5. 特定公益信託等
      特定公益信託及び社債等の振替に関する法律2条11項に規定する加入者保護信託をいう(法法12④二)。拠出段階で初出額が寄付金(法法37⑥)又は負担金(措法66の11①五)とされ、受託者段階では課税されないこととされている。

    (出典:財務省「平成19年度税制改正の解説」)

    図表Ⅴ-5 信託法の改正を踏まえた信託税制の整備

    信託法の改正を踏まえた信託税制の整備
    信託法の改正を踏まえた信託税制の整備

    (注1)点線の枠内が平成19年度税制改正により措置されるもの。原則として、新信託法の適用を受ける信託について適用。

    (注2)「受益者等」とは、受益者としての権利を現に有する受益者及びみなし受益者(信託の変更権限を現に有し、かつ、その信託財産の給付を受けることとされている者)をいう。

    (財務省「平成19年度税制改正パンフレット」「平成19年度税制改正の解説」を一部改編)

    損益通算の規制

    所得税

    発生時課税される信託の受益者等である個人のその信託に係る不動産所得の損失は、その損失が生じかなったものとみなされる。

    法人税

    発生時課税される信託につき、受益者等である法人のその信託による損失の額のうちその信託の信託財産の帳簿価額を基礎として計算した金額を超える部分の金額は、損金の額に算入されない。

    また、信託の最終的な損益の見込が実質的に欠損となっていない場合に、損失補填契約等により信託による損益が明らかに欠損とならないと見込まれるときには、その損失の全額が損金の額に算入されない。

    後継ぎ遺贈型信託(受益者連続型信託)と相続税・贈与税

    受益者連続型信託とは

    受益者連続型信託とは、「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託(信託法91)」をいい、後継ぎ遺贈型信託ともいわれている。

    図表Ⅴ-6 後継ぎ遺贈型信託

    後継ぎ遺贈型信託
    後継ぎ遺贈型信託

    また、受益者の死亡にかかわらず、受益者指定権を有する者の定めのある信託(信託法89①)を設定することにより、受益者の死亡以外の事由を定めることによって、受益者が準じ入れ替わる信託を設定することができる。相続税法ではこれらも含めて受益者連続型信託と定義されている(相法9の3①、相令1の8)。

    ■相続税法における受益者連続型信託

    1. 信託法91条に規定する受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託
    2. 信託法89条1項に規定する受益者指定権等を有する者の定めのある信託
    3. 受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者との有する信託に関する権利が消滅し、他の者が新たな信託に関する権利を取得する旨の定め(受益者等の死亡その他の事由により順次他の者が信託に関する権利を取得する旨の定めを含む。)のある信託
    4. 受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者等の有する信託に関する権利が他の者に移転する旨の定め(受益者等の死亡その他の事由により順次他の者に信託に関する権利が移転する旨の定めを含む。)のある信託
    5. 1から4までの信託に類する信託

    後継ぎ遺贈型信託の期間制限

    信託期間は、信託がされたときから30年を経過したとき以後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでとされている(信託法91)。

    図表Ⅴ-7 後継ぎ遺贈型信託の期間制限

    後継ぎ遺贈型信託の期間制限
    後継ぎ遺贈型信託の期間制限

    つまり、30年を経過した後は、受益権のあたらな承継は一度しか認められない。そのため、委託者死亡により効力が発生する遺言信託の方が、信託設定時に効力が発生する遺言代用信託よりも信託期間が長くなる。

    遺留分減殺請求の対象

    委託者の死亡により取得される受益権は委託者の相続財産及び遺留分算定基礎財産に算入される。一方、第一受益者の死亡により第二受益者が取得した受益権は、第一受益者の相続財産・遺留分算定基礎財産に算入されないと考えられている。(1)

    (1)中小企業庁「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」平成20年9月5日。

    図表Ⅴ-8 遺留分減殺請求の対象

    遺留分減殺請求の対象
    遺留分減殺請求の対象

    受益者連続型信託に対する課税の概要

    受益者連続型信託では、最初の受益者(第一受益者)の死亡その他の事由により、第二受益者が新たな受益権を取得することがある。

    受益者連続型信託に関する権利を受益者が適正な対価を負担せずに取得した場合は次のような課税関係が生じる。

    1. 第一受益者等は、受益権を委託者から贈与又は遺贈により取得したとみなされて、信託の効力発生時に贈与税又は相続税が課税される(相法9の2①)。
    2. 次の受益者等以降の者は、直前の受益者から贈与又は遺贈により受益権を取得したものとみなされて、贈与税又は相続税が課税される(相法9の2②)。

    図表Ⅴ-9 受益者連続型信託に対する課税

    受益者連続型信託に対する課税
    受益者連続型信託に対する課税

    受益権が複層化されている場合

    たとえば、信託期間中に信託財産から生ずる収益については配偶者に、信託終了時に残っている信託財産は子にそれぞれ与える、という信託行為の定めを置くこともできる。このように受益権を質的に分割することを「受益権の複層化」という。受益者連続型信託の受益権が収益受益権と元本受益権の二種類である場合もある。

    受益者連続型信託の課税にあたっては、収益受益権の価値は、当該受益者連続型信託の信託財産そのものの価値と等しいものとして計算され、当該元本受益権の価値はゼロとなる。なお、収益受益者が法人である場合は、故人の持つ元本受益権の価値はゼロとはならない(相法9の3①)。

    下の例では、元本受益者は、信託が修了し残余財産を取得した時に収益受益者から贈与又は遺贈により当該残余財産を取得したものとみなされて、贈与税又は相続税が課税される(相法9の2④)。

    図表Ⅴ-10 受益者連続型信託の元本受益権の課税時期

    受益者連続型信託の元本受益権の課税時期
    受益者連続型信託の元本受益権の課税時期

    負担付遺贈等との比較

    受益者連続型信託の場合、相続税・贈与税の課税においては、受益権の取得等の回数に応じて数度の贈与又は遺贈が擬制されることになる。そのため、例えば一度の課税で済む負担付遺贈で目的を達せられる場合は、後継ぎ遺贈型信託によらない方が課税上有利になる。

  • 遺言信託と遺言代用信託

    遺言信託と遺言代用信託

    遺言信託

    遺言信託とは、信託法では遺言により信託を設定することをいうが(信託法3二)、一般には信託銀行の提供する遺言書の作成・保管・執行に関するサービスのことを指す。

    信託銀行の「遺言信託」は、信託銀行が遺言書の作成についてアドバイスし、相続開始時まで遺言書を保管、さらに遺言の執行まで行うサービスである。遺言信託を利用することにより、遺産相続がスムーズに行えるようになる。(2)

    (2)出典:全国銀行協会 https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-e/7449/

    図表Ⅴ-4 遺言関連業務(保管業務と遺言執行)のしくみ

    遺言関連業務(保管業務と遺言執行)のしくみ
    遺言関連業務(保管業務と遺言執行)のしくみ

    遺言については、次の次の相続を指定する後継ぎ遺贈型の遺言の効力についてはこれを否定する説が有力とされている。したがって、次の次の相続まで財産の取得者を指定したい場合は、遺言者のみならず推定相続人も遺言を作成する、若しくは、後継ぎ遺贈型信託を設定する必要がある。

    遺言代用信託

    遺言代用信託とは、委託者が生前に自己を受益者とする信託を設定し、委託者が死亡したときは指定されている者が受益権を取得する旨の定めのある信託など、遺言に代えて遺言(死因贈与)と同様の機能を持たせた信託を言う。

    遺言がいつでも撤回できるのと同様に、委託者は受益者を変更できる。しかしながら、この委託者の受益者変更権については別段の定めによることもできるので(信託法90①)、遺言の場合とは異なり、委託者が単独で変更できない遺言代用信託を設定することも可能である。

  • 信託制度の概要

    信託制度の概要

    信託とは

    信託とは、委託者が受託者に財産を移転し、受託者が信託の目的に従って、受益者のためにその信託財産の管理・処分をすることである。

    図表Ⅴ-1 信託のイメージ図

    信託のイメージ図
    信託のイメージ図

    信託財産の所有権

    信託することによって信託財産の所有権は受託者に移転する。一方で、受益者は受益権を取得する。受益権とは、受託者に対して信託財産の給付等を求める受益権及びこれを確保するために受託者に一定の行為を求めることができる権利をいい(信託法2⑦)、信託受益権の法的性質は、基本的には信託財産について受託者に対して有する債権と考えられる。

    例えば、A(委託者)が甲不動産を受託者Bに信託し、自らを受益者とする信託を設定したとする。この場合、甲不動産の所有権は受託者であるBに移転するが、信託財産からの給付を受けるのは委託者兼受益者であるAであり、信託財産の経済的価値はAに帰属したままとなる。

    以上のようなことから、課税上は原則として受益者が信託財産の所有者とみなされる(受益者等課税信託)。従って、例えば、委託者であるAが自分の妻であるCを受益者とする信託を設定した場合、原則としてCに贈与税が課税されることになる。

    信託の機能

    財産の転換機能

    信託の場合、財産の管理・処分を任せるために財産を預けるだけでなく、信託財産の所有権を受託者に移転し、信託財産の所有権が信託受益権に転換する点に大きな特徴が有るといえる。信託には信託財産の所有権を信託受益権に転換する機能(転換機能)があるとされているが、所有権が信託受益権に転換されることにより所有権ではできなかったことが可能になる。たとえば、①非公開会社の株式について、剰余金配当請求権等の経済的権利と議決権を分離して別々の人に取得させたり(図表Ⅴ-2)、②自分の死後に財産を取得する者を指定する(図表Ⅴ-3)ことなどが可能になる。

    図表Ⅴ-2 複数の受益者のうち特定の者に議決権行使の指図権を付与する信託

    遺言代用信託を利用した自益信託スキーム

    複数の受益者のうち特定の者に議決権行使の指図権を付与する信託
    複数の受益者のうち特定の者に議決権行使の指図権を付与する信託
    Aの生存中Aの死亡後
    受益者A(100)B(50)
    C(50)
    議決権行使の指図権者A(100)C(100)

    (出典:中小企業庁「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」平成20年9月5日)

    図表Ⅴ-3 後継ぎ遺贈型信託

    後継ぎ遺贈型信託
    後継ぎ遺贈型信託

    財産管理機能と倒産隔離機能(1)

    転換機能以外の信託の主な機能としては、財産管理機能と倒産隔離機能が挙げられる。

    財産管理機能

    委託者や受益者に代わって、専門家である受託者に財産の管理・処分を委ねることができる。

    なお、受託者は、信託目的の範囲内で、これを行使しなければならない。

    倒産隔離機能

    信託された財産は、委託者の名義ではなく、受託者の姪御となることから委託者の倒産の影響を受けない。

    また、信託財産は、受託者の相続財産にはならず、さらに受託者の債権者による強制執行が禁じられているため、受託者の倒産の影響を受けない。

    (1)出典:信託協会HP https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/more/function.html

  • 受遺者の中に法人や人格のない社団がある場合の相続税の計算

    受遺者の中に法人や人格のない社団がある場合の相続税の計算

    甲が死亡した。相続人は配偶者乙、長男丙、長女丁の3人である。総資産の相続税評価額は5億円である。甲が残した遺言によれば、次のとおりである。

    1. 500万円を同窓会館の建設費用として同窓会に寄附する。
    2. 3,000万円を、長男丙が株主となっている同族会社A株式会社に寄附する。
    3. 自宅(相続税評価額5,000万円、時価8,000万円)は育英事業を行っている育英会(人格なき社団)に遺贈する。ただし、自宅の遺贈に係る譲渡所得税額相当分の金員を育英会が負担すること。
    4. 売却代金及び預金の合計額から、相続債務、遺言の執行に要する費用等を除いた残金で奨学金給付事業を行う公益信託を設定する。
      なお、遺言に基づき設定される公益信託は、特定公益信託である(所令217の2①)。

    この相続税の計算はどのようにするべきか。

    また、遺贈を受けた育英会及び同族法人Aに対する課税はどのようになるか。

    なお、丙が100%所有しているA株式会社の相続税評価額は、3,000万円の遺贈により総額1,600万円増加した。

    自宅の取得価額等は2,000万円(減価償却費控除後)。

    1 納税義務及び相続税法の非課税規定

    1. 同窓会は、代表者の定めのある人格なき社団であるから、個人とみなされ、相続税の納税義務者となる(遺贈による受贈益に法人税等が課税されるときがあればこれを控除する。)。相続税の申告が必要である(相法66①③)。
    2. 株式会社である同族法人Aは、相続税の納税義務者となることはない。同族法人Aに対する遺贈は、Aの益金に算入され法人税の課税対象となる(相法1の3、法法22②)。
    3. 育英会は、代表者の定めのある人格なき社団であるから、個人とみなされ相続税の納税義務者となるが、公益を行うことを目的とする事業体である育英会は相続税法12条の非課税要件を具備するならば、遺贈財産は非課税財産となり、相続税の申告義務は生じない。相続税の申告書第14表に遺贈財産の明細並びに育英会の所在地及び名称を記載するだけでよい。

    2 同族法人Aへの遺贈を基因とする同族株主へのみなし遺贈

    同族法人Aに対する3,000万円の遺贈により、A株式会社の株式の評価額が1,600万円増加した。これは、甲から、同族法人Aの株主に対し、株式の価額の増加額相当の遺贈があったものとみなされる(相法9、相法9の3準用)。

    3 育英会に遺贈した自宅の譲渡所得課税(準確定申告)

    被相続人が不動産を遺贈し、これにより被相続人に譲渡所得が発生するときは、相続人は準確定申告を行わなければならない。

    育英会は譲渡所得相当額を負担する負担付遺贈を受けている。育英会が負担すべき金額は次のとおりである。

    収入金額8,000万円-取得価額等2,000万円-居住用特別控除3,000万円=3,000万円

    3,000万円×10%=300万円…負担付遺贈を受けた育英会が負担する金額

    (注)ここでは復興税は計算していない。

    そうすると、甲の相続開始による相続税額は、5億円からA株式会社へ遺贈された3,000万円及び育英会に遺贈された自宅5,000万円を差し引いた4億2,000万円に丙への遺贈1,600万円(A株式会社への遺贈を基因とした丙所有株式の価額増加相当額のみなし遺贈)及び育英会に対する未収金300万円(育英会の負担金)を加算した4億3,900万円から準確定申告で発生した未払所得税300万円を債務控除した金額4億3,600万円を基とし、乙、丙、丁及び同窓会の4者は相続税の申告書を提出しなければならない。

    なお、同窓会は、想像税の申告書に名称、主たる事務所等の所在地、代表者の氏名、住所(居所)を記載し、代表者が押印しなければならない(相規13①三、通法124②一)(参考文献:『相続相談事例集(平成25年版)』大蔵財務協会)。

  • 遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係

    遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係

    被相続人甲は、次の遺言を残して亡くなった。遺言執行者として指定されていた信託銀行は、相続人の同意のうえ遺言執行者に就任し、遺産である不動産の処分、信託の設定等を行った。相続税及び譲渡所得の課税関係はどうなるか。

    1. 遺産の全てである不動産と預貯金、有価証券等を遺言の目的とする。
    2. 遺言施工者は、遺産のうちの不動産及び有価証券を売却処分し、その売却代金と預金の合計額を基に次のとおり遺贈及び信託の設定を行う。
      • 相続人2名に各5,000万円(合計1億円)を相続させる。
      • 売却代金及び預金の合計額から、相続債務、遺言の執行に要する費用等を除いた残金で奨学金給付事業を行う公益信託を設定する。
        なお、遺言に基づき設定される公益信託は、特定公益信託である(所令217の2①)。

    (参考:国税庁質疑応答事例)

    1 相続税

    遺言に基づき特定公益信託を設定した場合、相続人が取得するのは特定公益信託の委託者としての権利である。委託者は法定残余財産帰属者であるので、相続税法上は特定委託者とされ、相続人は委託者としての権利を相続するものとされる。適正な対価を負担せずに信託の受益者及び特定委託者となる者がある場合には、遺言により信託の効力が生じたときにおいて、その受益者及び特定委託者がその信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされ相続税の課税対象となる(相法9の2)。受益者の定めのない信託である公益信託の委託者(その相続人その他の一般承継人を含む。)は、相続税法9条の2第5項に規定する特定委託者に該当するものとみなして、相続税法の規定を適用するとされている(相法附則24)。公益信託の委託者において相続が開始した場合には、附則24により特定委託者とみなされる相続人は公益信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされ、その権利は相続税の課税対象となる。

    しかしながら、委託者の権利を相続した相続人は、特定公益信託が修了する場合に残余財産を取得することはできず、特定公益信託の特定委託者としての権利に係る財産的価値は無に等しい。

    そこで、相続税法基本通達9の2-6では、特定公益信託の委託者の地位が移動した場合には、当該信託に関する権利の価額は零として取り扱うことを留意的に明らかにしている。

    換価された遺産のうち、特定公益信託の信託財産とされた金額に相当する部分以外の価額について相続税の課税対象とすることとなる。

    なお、その区分は、換価された遺産の価額(評価額)に、換価代金から換価費用を除いた金額のうちに占める特定公益信託に充てられた金額又は充てられなかった金額のそれぞれの割合を乗じて計算する。

    遺産のうち特定公益信託の信託財産とされた部分の計算
    遺産のうち特定公益信託の信託財産とされた部分の計算

    2 譲渡所得

    遺産の換価処分は遺言執行者において行われるが、この換価処分は遺言執行者の職務(民法1012)としてなされるものであり、また、遺言執行者は相続人の代理人とみなされる(民法1015)ので、遺産の換価処分に係る譲渡所得については、法定相続分に応じて各相続人が申告する必要がある。

    【関係法令通達】
    相続税法9条の2
    相続税法附則24
    相続税法基本通達9の2-6
    所得税法施行令217条の2第1項
    民法1012条、1015条

    (注)「公益信託」とは、信託法258条1項に規定する受益者の定めなき信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものにして主務官庁の許可を受けた信託であり(公益信託に関する法律1条)、公益信託は主務官庁の監督に属している(同法3条)。

    (参考文献:国税庁ホームページ)

  • 租税特別措置法40条の要件

    租税特別措置法40条の要件

    個人が、土地、建物、株式などの財産を法人に寄附(法人に対する贈与若しくは遺贈又は法人を設立するための提供をいいます。)をした場合には、寄附時の時価により譲渡があったものとみなされ、これらの財産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所法59①一)。

    *これは、個人から法人に土地、建物などの財産が無償で移転するときに、個人に帰属する値上がり益に対する所得税を清算する必要があるためです。

    ただし、これらの財産を公益法人等に寄附した場合に、その寄附が「一般特例」又は「承認特例」の要件を満たすものとして国税庁長官の承認(以下「非課税承認」)を受けたときは、所得税を非課税とする制度があります(措法40①後段)。

    この非課税制度には「一般特例」と「承認特例」の二つが有り、対象となる法人の種類や承認要件が異なります。

    制度の種類一般特例承認特例
    対象となる法人公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人*1、その他の公益を目的とする事業を行う法人(社会福祉法人、学校法人、宗教法人、NPO法人など)
    (以下、「公益法人等」という。)
    公益法人等のうち、国立大学法人等*2、公益社団法人、公益財団法人、学校法人*3、社会福祉法人及び認定NPO法人等*4
    (以下、「承認特例対象法人」という。)
    承認要件
    (概要)
    次の要件を全て満たすこと*5次の要件を全て満たすこと*6
    要件1
    寄附が公益の増進に著しく寄与すること
    要件1
    寄附をした人が寄附を受けた法人の役員等及び社員並びにこれらの人の親族等に該当しないこと
    要件2
    寄附財産が、寄附日から2年を経過する日までの期間内に寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込であること
    要件2
    寄附財産について、一定の基金若しくは基本金に組み入れる方法により管理されていること又は不可欠特定財産に係る必要な事項が定款で定められていること
    要件3
    寄附により、寄附をした人の所得税又は寄附をした人の親族等の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること
    要件3
    寄附を受けた法人の理事会等において、寄附の申出を受け入れること及び組入又は不可欠特定財産とすることが決定されていること
    自動承認なし*7あり

    *1「特定一般法人」とは、一般社団法人及び一般財団法人のうち法人税法に掲げる一定の要件を満たすものをいいます。

    *2「国立大学法人等」とは、国立大学法人、大学共同利用機関法人、公立大学法人、独立行政法人国立高等専門学校機構及び国立研究開発法人をいい、国立大学法人等のうち法人税法別表第一に掲げるものを「特定国立大学法人等」といいます。

    *3 私立学校振興助成法第14条第1項に規定する学校法人で学校法人会計基準に従い会計処理を行うものに限ります。

    *4「認定NPO法人等」とは、特定非営利活動促進法第2条第3項に規定する認定特定非営利活動法人及び同条第4項に規定する特例認定特定非営利活動法人をいいます。

    *5 法人税法別表第一に掲げる独立行政法人、国立大学法人などに対する寄附である場合の一般特例の承認要件は、要件2のみになります。

    *6 特定国立大学法人等に対する寄附である場合の承認特例の承認要件は、要件2及び要件3となります。

    *7 博物館等を運営する独立行政法人等(法人税法別表第一に掲げる独立行政法人並びに博物館等の設置及び管理の業務を主たる目的とする地方独立行政法人をいいます。)に対する寄附について、次の事項を証明する文部科学大臣の書類を添付した承認申請書の提出があった場合において、その承認申請書の提出があった日から一ヶ月以内にその申請について非課税承認が無かったとき、又は非課税承認をしないことの決定が無かったときは、その申請について非課税承認があったものとみなされます(措令25の17⑧一)。

    • その寄附財産が、一定の有形文化財(建造物等を除く。)に該当すること
    • その寄附財産が、その寄附があった日から2年を経過する日までの期間内に、その寄附を受けた独立行政法人等の公益目的事業(文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律に基づく認定を受けた一定の事業としてその認定を受けた独立行政法人等が有する文化観光拠点施設において行うも荷に限ります。)の用に直接供され、又は供される見込であること

    一般特例と承認特例

    一般特例は、公益法人等に財産を寄附した場合に、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなどの要件を満たすものとして非課税承認を受けたときは、この寄附に対する所得税を非課税とする制度です(措法40①後段)。

    承認特例は、承認特例対象法人に財産を寄附した場合に、寄附した人が寄附を受けた承認特例対象法人の役員等に該当しないなどの要件を満たすものとして非課税承認を受けたときは、所得税を非課税とする制度です。申請書を提出した日から1か月「特定国立大学法人等」以外の承認特例対象法人に対する一定の株式等の寄附の場合には、3か月)以内にその申請について非課税承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったときは,その申請について非課税承認があったものとみなされます(自動承認)

    承認要件

    一般特例

    一般特例に係る非課税承認を受けるためには、要件1から要件3の全ての要件を満たすことが必要です。(措令25の17⑤一,二,三)なお、法人税法別表第一に掲げる独立行政法人国立大学法人などに対する寄附である場合には、要件2のみです。

    【具体的な判定基準】

    次の1~4までの全てを満たしているときは、要件1に該当するものとされます。

    1. 寄附を受けた公益法人等のその寄附に掛かる公益目的事業が、その事業の内容に応じ、その公益目的事業を行う地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有すること
    2. 寄附を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする人の現在又は将来における勤務先、職業などにより制限されること無く、公益を必要とする全ての人に与えられるなど公益の分配が適正に行われること
    3. 寄附を受けた公益法人等のその寄附に係る公益目的事業について、その公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大で無いことその他その公益目的事業の運営が営利企業的に行われている事実が無いこと
    4. 寄附を受けた公益法人等の事業の運営について、法令に違反する事実その他公益に反する事実が無いこと

    【具体的な判定基準】

    次の1~5までの全てを満たしているときは、要件3に該当するものと認められます。

    1)寄附を受けた公益法人等の運営組織が適正であると共に、その寄附行為、定款又は規則(以下「定款等」という。)において、理事、監事及び評議員(以下「役員等」という。)のうち親族関係がある人及びこれらの人と特殊の関係がある人(以下「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあること

    (注)「理事、監事及び評議員」には、名称の如何を問わず実質的に見てこれらと同様の役職(例えば、宗教法人の「責任役員」など)も含まれます。

    「運営組織が適正である」とは

    運営組織が適正であるかどうかの判定は、次に掲げる事実が認められるかどうかによります。

    1. 定款等において、一定の事項が定められていること
    2. 寄附を受けた公益法人等の事業の運営及び役員等の選任などが、法令及び定款等に基づき適正に行われていること
    3. 寄附を受けた公益法人等の経理については、その公益法人等の事業の種類及び規模に応じて、その内容を適正に表示するに必要な帳簿書類を備えて、収入及び支出並びに資産及び負債の明細が適正に記帳されていると認められること
    「特殊の関係がある人」とは

    特殊の関係がある人とは、次に掲げる一定の関係を有する人を言います。

    1. その人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある人
    2. その人の使用人及び使用人以外の人でその人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している人
    3. 1又は2に掲げる人の親族でこれらの人と生計を一にしている人
    4. 以下に掲げる法人の法人税法第2条第15号に規定する役員又は使用人
      1. その人が会社役員となっている他の法人
      2. その人及び1~3までに掲げる人並びにこれらの人と法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人

    2)寄附をした人、寄附を受けた公益法人等の役員若しくは社員又はこれらの人の親族等に対し、施設の利用、金銭の貸付、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと

    3)寄附を受けた公益法人等の定款において、その公益法人等が解散した場合の残余財産が国若しくは地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定めがあること

    4)寄附を受けた公益法人等につき公益に反する事実が無いこと

    5)寄附により公益法人等が株式の取得をした場合には、その取得によりその公益法人等の保有することとなるその株式の発行法人の株式(寄附前から保有する株式を含む。)が、その発行済株式の総数の2分の1うぃ越えないこと

    承認特例

    承認特例に係る非課税承認を受けるためには、要件1から要件3まで全ての要件特定国立大学法人等に対する寄附である場合には、要件2及び要件3に掲げる要件)を満たすことが必要です(措令25の17⑦一,二,三)。

    国立大学法人等の場合

    寄附財産が、研究開発の実施等の公益目的事業に充てるための基金に組み入れる方法(基金が公益目的事業に充てられることが確実であることなどの一定の要件を満たすことについて、寄附を受けた法人が所管庁の証明を受けたものに限ります。)により管理されていること

    公益社団法人・公益財団法人の場合

    次の(a)又は(b)のいずれかの方法によります。

    (a)寄附財産が、寄附を受けた法人の不可欠特定財産であるものとして、その旨並びにその維持及び処分の制限について、必要な事項が定款で定められていること

    「不可欠特定財産」とは、公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産をいい、法人の目的、事業と密接不可分な関係にあり、その法人が保有、使用することに意義がある特定の財産をいいます。例えば、一定の目的の下で収集、展示され、再収集が困難な美術館の美術品や、歴史的文化価値があり、再生不可能な建造物等が該当します。

    (b)寄附財産が、一定の公益目的事業に充てるための基金に組み入れる方法により管理されていること

    ※上記の国立大学法人等の場合と同様です。

    学校法人の場合

    寄附財産が、寄附を受けた法人の財政基盤の強化を図るために、学校法人会計基準第30条第1項第1号から第3号までに相当する金額を同項に規定する基本金に組み入れる方法により管理されていること

    社会福祉法人の場合

    寄附財産が寄附を受けた法人の経営基盤の強化を図るために、社会福祉法人会計基準第6号第1項に規定する金額を同項に規定する基本金に組み入れる方法により管理されていること

    認定NPO法人等の場合

    寄附財産が、一定の特定非営利活動に係る事業に充てるための基金に組み入れる方により管理されていること

    ※上記の国立大学法人等の場合と同様です。

    承認特例の適用を受けるための必要書類

    承認特例の適用を受けるためには、以下の添付書類を添付した申請書等を承認申請書の提出期限までに提出する必要があります(措令25の17⑦)。

    申請書等

    承認申請書「第1表」、「第2表」、「第3表(承認特例用)」(「第3表ー付2」を含む。)、「第5表」及び「第6表」

    承認申請書各表における必要な書類

    承認申請書及び添付書類の記載事項が事実に相違ない旨の確認書

    贈与又は遺贈をした者が法人の役員等及び社員並びにこれらの者の親族等に該当しない旨の誓約書、贈与又は遺贈をした者が法人の役員等及び社員並びにこれらの者の親族等に該当しないことを確認した旨の証明書

    *特定国立大学法人等に対する寄附の場合は不要。

    添付書類

    次の事項の記載のある寄附を受けた法人の理事会等の議事録の写し

    1. 寄附の申出を受け入れることを決定した旨
    2. 寄附財産について基金若しくは基本金に組み入れること又は不可欠特定財産とすることを決定した旨
    3. その決定に係る財産の種類、所在地、数量などの事項

    *議事録に3の事項が記載されていない場合は、1及び2の事項の記載のある理事会等の議事録の写しと3の事項が記載された書類。

    国立大学法人等、公益社団法人若しくは公益財団法人又は認定NPO法人等に対する寄附の場合

    基金に組み入れる方法により管理することを証する所轄庁の証明書の写し

    *寄附財産を基金に組み入れる方法により管理している公益社団法人又は公益財団法人に限ります。

    「承認特例」に係る非課税承認を受けた人が提出しなければならない書類

    「承認特例」に係る非課税承認を受けた人(寄附をした人)は、寄附を受けた法人の区分に応じ、その寄附をした日の属する事業年度において、寄附財産について、基金若しくは基本金に組み入れる方法により管理されたこと又は不可欠特定財産とされたことが確認できる以下の書類を、その事業年度終了の日から3ヶ月以内(その期間の経過する日後に承認申請書の提出期限が到来する場合には、その提出期限まで)に、所得税の納税地を所轄する税務署に提出する必要があります(措令25の17⑨)。

    この書類が提出すべき期限までに提出されなかった場合、非課税承認が取り消されます。

    寄附を受けた法人の区分書類
    国立大学法人基金明細書の写し
    公益社団法人
    公益財団法人
    (寄附財産を不可欠特定財産とした場合)
    定款及び財産目録の写し
    (寄附財産を基金に組み入れた場合)
    基金明細書の写し
    学校法人基本金明細表などの写し
    社会福祉法人基本金明細書などの写し
    認定NPO法人等基本金明細書の写し

    非課税承認の取消

    非課税承認を受けた後であっても、寄附財産が、寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供されなくなった場合等には、国税庁長官は、その非課税承認を取り消すことが出来ることとされています(措法40②③)。

    非課税承認が取り消された場合には、その取り消されることとなった事実の内容に応じ、寄附をした人又は寄附を受けた公益法人等に対して、原則として、その取り消された日の属する年分の譲渡所得等として所得税が課されます。

    【非課税承認が取り消される例】

    課税対象者取り消される場合
    寄附をした人「承認特例」に係る非課税承認を受けた人が、寄附財産について、基金若しくは基本金に組み入れる方法により管理されたこと又は不可欠特定財産とされたことが確認できる書類を、提出すべき期限までに提出しなかった。
    寄附財産が寄附日から2年を経過する日までの期間内に寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供されなかった。
    寄附を受けた公益法人等寄附財産が寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供されなくなった。

    租税特別措置法40条後段の承認の対象となる資産

    国税庁長官の承認申請の対象となる譲渡資産は次のとおりである。

    山林(事業所得の基因となるものを除く)

    山林とは販売を目的として伐採適齢期まで相当長期間にわたり管理育成を要する立木の集団をいう。販売を目的として育成している立木や苗木は、事業所得の棚卸し資産となり山林に該当しない。

    譲渡所得の基因となる資産

    譲渡所得の基因となる資産は、棚卸し資産、棚卸し資産に準ずる資産、山林及び金銭債権以外の一切を資産をいう。金銭債権は譲渡所得の基因となる資産ではないのでみなし譲渡の対象となる資産には該当しない。金銭債権の譲渡により生じた利益は、元本価値の増加というよりは金利に相当するものであると考えられているからである。借地権の設定は含まず、借地権の無償返還は59条の対象となる場合がある(注)。国外にある土地、借地権等、建物、附属設備、構築物を除く(措法40①、措令25の17②)。

    (注)所得税基本通達59-5《借地権等の設定及び借地の無償返還》。所得税法59条1項に規定する「譲渡所得の基因となる資産の移転」には、借地権等の設定は含まれないのであるが、借地の返還は、その返還が次に掲げるような理由に基づくものである場合を除き、これに含まれる(昭56直資3-2、直所3-3追加)。

    1. 借地権等の設定に係る契約書において、将来借地を無償で返還することが定められていること。
    2. 当該土地の使用の目的が、単に物品置場、駐車場等として土地を更地のまま使用し、又は仮営業所、仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用していたものであること。
    3. 借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情が生じたこと。

    有価証券の譲渡による所得のうち、公社債等の譲渡による所得は非課税(措法37の15)となるが、それ以外の有価証券を不お陣に贈与又は遺贈した場合には、原則として承認申請の対象となる。

    (注)平成28年1月以降は、公社債等に対する課税方式が、上場株式等と同様、税率が20%(所得税15%、住民税5%)の申告分離方式に変更された上で、公社債等の譲渡所得が非課税から課税とされる一方、上場株式等と損益通算できる範囲が公社債等にまで拡大される。この結果、平成28年1月以降は、全ての有価証券につき、原則として承認申請の対象となる。

    租税特別措置法37条の15《公社債等の譲渡等による所得の課税の特例》

    次に掲げる所得については、所得税を課さない。

    1. 公社債(第37条の10第2項第3号に規定する新株予約権付社債を除く。)並びに公社債投資信託、公社債等運用投資信託及び貸付信託の受益権並びに第8条の2第1項第2号に規定する社債的受益権(次項第1号において「公社債等」という。)の譲渡(所得税法第57条の4第3項第4号に掲げる新株予約権付社債についての社債の譲渡で同号に定める事由によるものを除く。次項第1号において同じ。)による所得
    2. 公社債投資信託、公社債等運用投資信託及び特定目的信託(以下この号及び次項第2号において「子公社債投資信託等」という。)の終了又は公社債投資信託等の一部の解約によりその公社債投資信託等の受益権(特定目的信託の受益権については、第8条の2第1項第2号に規定する社債的受益権に限る。以下この号及び次項第2号において同じ。)を有する者に対して支払われる金額とその公社債投資信託等について信託された金額(所得税法第2条第1項第14号に規定するオープン型の証券投資信託については、当該金額のうち同法第9条第1項第11号に掲げる収益の分配に充てられるべき部分の金額を控除した金額。次項第2号において同じ。)のうち当該受益権に係る部分の金額とのうちいずれか低い金額が当該受益権の取得に要した金額を超える場合におけるその超える部分の金額

    次に掲げる金額は、所得税法の規定の適用については、ないものとみなす。

    1. 公社債等の譲渡による収入金額が当該公社債等の所得税法第33条第3項に規定する取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計又はその譲渡に係る必要経費に満たない場合におけるその不足額
    2. 前項第2号に規定する事由により同号の公社債投資信託等の受益権を有する者に対して支払われる金額とその公社債投資信託等について信託された金額のうち当該受益権に係る部分の金額とのうちいずれか低い金額が当該受益権の取得に要した金額に満たない場合におけるその不足額

    租税特別措置法37条の16《割引の方法により発行される公社債等の譲渡による所得の課税の特例》

    次に掲げる所得については、前条第1項の規定は、適用しない。

    1. 割引の方法により発行される公社債で国外において発行されるものを国内において譲渡した事による所得として政令で定めるもの
    2. 利子が支払われる公社債で割引の方法により発行される公社債に類するものとして政令で定めるものを国内において譲渡した事による所得として政令で定めるもの
    3. 国内において割引の方法により発行される公社債で政令で定める者により発行されるものを譲渡した事による所得として政令で定めるもの
    4. 利子が支払われない公社債(割引の方法により発行されるものを除く。)を譲渡した事による所得として政令で定めるもの

    前項各号に規定する公社債の譲渡については、前条第2項の規定は、適用しない。

    租税特別措置法40条の適用を受けるための承認要件

    国税庁長官の承認を受けるための一定の要件(承認要件)は、次のとおりである(法人税法別表第一に掲げる独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人、地方独立行政法人(介護老人保健施設、公立大学など一定のもの)などに対する寄附である場合には、【承認要件2】を具備すれば足りる)。(措令25の17⑤)。また、私立学校法人助成法に規定する大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対する贈与、遺贈については別途異なる要件が定められている(措令25の17⑦、措規18の19④)。

    承認要件1

    贈与又は遺贈が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与すること(措令25の17⑤一)

    この要件は、公益を目的とする法人に対する贈与又は遺贈で、公益の増進に著しく寄与する贈与又は遺贈であるかどうかにより判定するが、公益法人等の事業活動が次の1から4までの全てに該当するときは、この要件を満たすものとして取り扱われる(租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて:例規通達:昭和55年4月23日直資2-181(以下、「40条通達」という。))。なお、贈与、遺贈が法令の規定に違反したものであるときは、この要件を満たさないこととされている(40条通達11)。

    1.公益目的事業の規模

    受贈法人が営む公益時報の規模が事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有すること。なお、たとえば、学校教育法や社会福祉法に規定する一定の事業、宗教の普及や信者の教化育成に寄与する事業、30人以上の学生等に対して学資の支給若しくは貸与を行う事業又は科学技術その他の学術に関する研究者に助成金を支給する事業などが受贈法人の主たる目的として行われる場合には、その公益目的事業は社会的存在として認識される程度の規模を有するものとして取り扱われる(40条通達12(1))。

    2.公益の分配

    受贈法人の事業の遂行により与えられる公益の分配は、特定の者に限られることなく、適正に行われていること(40条通達12(2))。

    3.事業の営利性

    贈与又は遺贈を受ける法人の公益目的事業について、公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でないこと、その他当該事業の経営が営利企業的に行われている事実がないこと(40条通達12(3))。

    4.法令の遵守等

    受贈法人の事業の運営につき、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと(40条通達12(4))。

    承認要件2

    贈与又は遺贈に係る財産が贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内(贈与又は遺贈を受けた土地の上に建設する当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供する建物の建設に要する期間が通常2年を越えることその他やむを得ない事情があるため、当該期間内に財産の贈与又は遺贈を受けた法人の事業の用に供することが困難である場合には、国税庁長官が認める日までの期間)に、財産を受けた法人の贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に直接供され又は供される見込であること(措法40①、措令25の17⑤二)

    公益法人に贈与・遺贈された財産は、その贈与を受けた公益法人が直接、公益を目的とする事業の用に供さない場合には非課税とされない。ただし、次に挙げるやむを得ないと認められる理由がある場合に限り、その贈与に係る財産の譲渡を認めることとされている(措令25の17③)

    1. 贈与・遺贈された財産を収用や換地処分などにより譲渡する場合
    2. 贈与・遺贈された財産で公益目的事業の用に直接供する施設につき、災害、震災、風水害、火災等があった場合において、その復旧を図るためにその財産を譲渡する場合
    3. 贈与又は遺贈により取得した財産を直接公益目的事業に供している施設における公益目的事業の遂行が①公害や周辺において行われるキャバレー、ナイトクラブなどの営業により著しく困難となった場合、または、②施設の規模を拡張する場合において、施設の移転をするために施設を譲渡する場合
    4. 国又は地方公共団体に贈与する目的で資産の取得、制作、建築をする場合において、その費用に充てるため贈与又は遺贈を受けた財産を譲渡する場合
    5. その他これに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由、また、公益法人が贈与に係る財産をやむを得ない理由で譲渡した場合であっても、この譲渡による収入金額の全部に相当する金額を持って代替資産(減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利に限る。)を取得しなければ、この特例の適用が受けられないこととされている(措法40②、措令25の17③、措規18の19③)。

    なお、株式、著作権などのように、財産の性質上その財産を直接公益事業に供されないものは、毎年の配当金、印税収入などその財産から生ずる果実の全部が当該公益事業の用に供されるかどうかにより、その財産が当該公益事業の用に供されるかどうかを判定して差し支えないものとされている。この場合において、各年の配当金、印税収入などの果実の全部が当該公益事業の用に供されるかどうかは、たとえば、学校援護法人によって学資として支給され、研究助成を行う法人によって助成金として支給されるなど、果実の全部が直接、かつ、継続して、公益事業の用に供されるかどうかにより判定される(40条通達13)。

    なお、次のような使い方は寄贈された財産が公益事業に使われているとはいえないとされていることに注意が必要である。

    1. 建物を賃貸の用に供し、当該賃貸にかかる収入を公益事業の用に供する場合
    2. 配当金などの果実が毎年定期的に生じない株式等

    承認要件3

    公益法人に財産を贈与又は遺贈することにより、贈与者・遺贈者の所得税の負担を不当に減少させ贈与者・遺贈者又はその親族等の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと(措令25の17⑤三)

    次の要件(1~4)を満たすときには、贈与者・遺贈者の所得税の負担を不当に減少させ又は贈与者・遺贈者又はその親族等の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められる(措令25の17⑥)。また、受贈法人の理事、監事、評議員その他これらの者に準ずる者や職員の中に、贈与・遺贈した者又はこれらの者と親族その他特殊関係がある者が含まれておらず、かつ、これらの者が受贈法人の財産の運用及び事業の運営について私的に支配している事実がなく、将来においても私的に支配する可能性がないと認められる場合には、次の2から4までの要件に該当していれば、所得税又は想像税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められるとして取り扱われる(40条通達17ただし書き)。

    1. 組織運営が適正であり、役員等のうち親族等の数が3分の1以下と定められていること(措令25の17⑥一)。
    2. 贈与者・遺贈者、受贈法人の役員等若しくは社員又はそれらの者の親族等に対し、施設の利用、金銭の貸付、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと(措令25の17⑥二)。
    3. 寄附行為、定款又は規則において、受贈法人解散後の残余財産は、国、地方公共団体又は他の公益法人に帰属する旨の定めがあること(措令25の17⑥三)。
    4. 受贈法人につき公益に反する事実がないこと(措令25の17⑥四)

    私立学校法人特例

    平成15年の税制改正で、私立大学等を設置する学校法人に対する財産の贈与又は遺贈に係る国税庁長官の承認手続等の特例が次のとおり創設された。

    その贈与又は遺贈が、法律の規定により自主的にその財政基盤の強化を図るべき事とされている私立大学等を設置する学校法人で文部科学省の定める基準に従い会計処理を行う者に対する者である場合の国税庁長官の承認要件は次に掲げる要件とすることとされた(措令25の17⑦、措規18の19④~⑨)。

    1. 贈与又は遺贈(以下、「寄附」という。)をした者が、寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないこと
    2. 寄附財産(寄附財産を譲渡した場合には、その譲渡による収入の全額又はそれによって取得した財産を含む。)が、寄附された学校法人において学校法人会計基準30条1号から3号までの基本金に組み入れて管理されていること
    3. 寄附の受入れ及び当該寄附財産の基本金への組入について理事会において決定されていること

    この結果、私立大学等(私立学校振興助成法に規定する大学又は高等専門学校を設置する学校法人)に贈与又は遺贈したケースならば、受贈者たる私立大学法人等は、受贈財産をいったん、基金に組み入れた後に譲渡し、譲渡代金を基金に組み入れることにより租税特別措置法40条の要件を満たすこととなる。国立大学法人では、この規定がないので、国立大学法人に対し現物資産を贈与又遺贈する場合には、譲渡所得の課税対象となる可能性が高いことに留意する必要がある。

    平成15年4月28日付で文部科学省私学部長通知「文部科学大臣所轄学校法人への現物寄附に係る租税特別措置法第40条第1項後段の規定に基づく国税庁長官の非課税承認を受けるための要件の緩和等について(通知)15文科高第103号」が発遣されている。以下の記載は主に同通達による。

    平成15年4月1日より文部科学大臣所轄学校法人に対する現物寄附について、国税庁長官の承認を受けるための要件が緩和されると共に、手続が簡素化された。今般の変更点については下記の通りで有る。

    a 私立学校法人助成法に規定する大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対する現物寄附については、国税庁長官の承認を受けるための申請書にbの書類を添付することにより、承認要件を次のとおりとすることができる。

    1. 寄附をした者が、寄附を受ける学校法人の理事、監事又は評議員並びにその親族等に該当しないこと
    2. 寄附財産(当該寄附財産を譲渡した場合には、その項とによる収入の全額又はそれによって取得した財産を含む。)が、寄附された学校法人において学校法人会計基準第30条第1号から第3号までの基本金に組み入れられていること
    3. 寄附の受入れ及び寄附財産の基本金への組入について理事会において決定されていること

    ただし、申請書の提出時に1の要件に該当していなかった場合、又は申請書の提出時に1の要件に該当しないこととなることが明らかであると認められ、かつ、提出後aの要件に該当しないこととなった場合には、租税特別措置法第40条第2項に基づき承認が取り消されることがある。

    b この特例を受けるために、寄附者が国税庁長官の承認を受けるための申請書には、寄附を受ける学校法人から交付された次の書類を添付する必要があること。

    1. 寄附をした者が寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないことについて寄附者が誓約した旨及び寄附をした者が寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないことについて寄附を受ける学校法人において確認した旨を記載した書類
    2. 寄附の受入れ及び寄附財産の基本金への組入について理事会において決定されていることを証明するための議事録その他これに相当する書類の写し及び決定に係る財産の種類、所在地、数量、価額その他の事項を記載した書類

    c この特例を受けて国税庁の承認を受けた場合には、寄附を受けた事業年度に寄附財産を基本金に組み入れたことを確認できる基本金明細表を、当該事業年度終了日以後3ヶ月以内に税務署長を経由して、国税庁長官に提出しなければならず、この提出がない場合には、租税特別措置法40条第2項に基づき承認が取り消されることがあること。

    したがって、基本金明細表の作成にあたっては、この特例を受けた寄附財産が明確になるよう、この特例を受ける資産である旨を摘要の欄に記載すること。

    d この特例を受けるためには、譲渡を予定している場合であっても、寄附を受けた財産について一旦基本金に組み入れることが必要であり、その旨の決定がb2の議事録に掲載されている必要があること。なお、「寄附の受入れ」、「基本金への組入」、「譲渡の決定」、「譲渡により取得した資産の基本金への組入の決定」を同時に行うことは可能であり、その旨の決定を理事会において行う必要があること。

    e 一旦基本金に組み入れた寄附財産について、国税庁長官の承認を受けた後に、譲渡及び譲渡による収入により取得した財産を基本金に組み入れる際に、改めて国税庁長官の承認を得る必要はないこと。ただし、基本金の管理状況を記録しておくため、当該決定に係る議事録は作成しておく必要があること。

    f 上述bの書類を添付した申請書の提出があった場合において、提出の比からヶ月以内に承認又は承認をしない旨の決定がなかった場合には、承認があったものとみなされること。このため、申請の期限(寄附後4ヶ月以内)を厳守すると共に、下記申請書及び添付書類について遺漏の内容にする必要がある。

    g この特例を受ける場合に、提出すべき申請書及び添付書類(bに掲げる書類を含む。)は図表Ⅳ-1の通りであり、下記に記載のない各表等は、原則として不要である。

    図表Ⅳ-1 私立学校法人特例申請書・添付書類一覧表

    表番号内容添付書類
    第1表寄附者の住所、氏名、生年月日、職業等
    寄附を受けた学校法人の住所、名称、設立年月日等
    寄附者が死亡している場合、寄附者と申請者の関係(親子等)が確認できる戸籍謄本
    第2表寄附を受けた学校法人の設立年月日及び事業の目的・寄附の目的学校法人の登記簿謄本
    第3表寄附財産の明細及び使用目的
    (使用目的は、基本金に組み入れる旨記載すれば足り、付表1・2の添付は不要。)
    寄附を申し込んだ事実が確認できる書類(寄附申込書、遺言書の写し等)
    寄附財産の明細を確認できる書類(寄附財産に応じたもの。登記簿謄本等。)
    第5表
    第6表
    理事、監事及び評議員の氏名及び寄附者との関係
    (「氏名」及び「寄附者との親族その他特殊関係」の欄のみの記載で可。)
    (第5表、第6表に代えて、既存の理事、監事及び評議員の名簿に寄附者との関係を加筆したものでも可。)
    理事、監事及び評議員の名簿(住所が分かるもの。第5表、第6表の「住所」の欄に記載があれば添付は不要。)
    第18表添付書類一覧表

    その他
    ①承認申請補及び添付書類の記載事項が事実に相違ない旨の確認書
    ②当該寄附をした者が寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないことを誓約した旨及び当該寄附をした者が寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないことの確認をした旨を記載した書類
    ③寄附の受入れ及び寄附財産の基本金への組入について理事会等において決定されていることを証明するための議事録その他これに相当する書類の写し(他の議題の部分を省略したもので可。ただし、理事会等において決定した日が確認できる部分は省略不可。)
    ④学校法人会計基準に準拠し処理されている旨を確認した監査報告書の写し(ない場合には、私立学校振興助成法14条1項に規定する文部科学大臣の定める基準(学校法人会計基準)に従い会計処理を行う旨の確認書又はその旨が記載されている寄附行為の写し)

    法人の機関の構成と親族等制限規定

    Q 公益財団法人の理事(10名)に、財産の寄附者と寄附者が代表取締役を務める株式会社の役員2名及びその従業員1名が含まれていますが、この場合、受贈法人の理事の構成は親族等制限規定に抵触することになりますか。

    A 受贈法人の機関の構成が親族等制限規定に抵触するかどうかの判定は、役員等とその親族等の合計数が、それぞれの役員等の数の3分の1以下であるかどうかにより行われることとなりますが、この場合の親族等は、親族及びその者と特殊の関係があるものを指し、特殊の関係があるものには、理事が役員となっている他の法人の役員や使用人などが含まれます。

    したがって、照会の場合、受贈法人の理事に、財産の寄附者と寄附者が代表取締役を務める株式会社の役員2名及びその従業員1名が含まれており、親族等の関係を有するものの合計数が4名となることから、理事の構成が親族等制限規定に抵触することになります。

    国税ホームページ質疑応答事例

    【関連法令通達】
    租税特別措置法40条
    租税特別措置法施行令25条の17第6項1号

    国税庁長官の承認取消が有った場合の譲渡所得の課税について

    イ 次の承認取消事由に該当する場合は、贈与又は遺贈した個人に譲渡所得、山林所得又は雑所得が課税される(措法40②、措令25の17⑩⑫)。課税年分は、非課税承認が取り消された日の属する年分(その日までに贈与をした者が死亡していた場合には、その死亡の日の属する年分)又は遺贈のあった日の属する年分とされている(措法40②、措令25の17⑩⑫)。

    1. 2年を経過する日内に公益法人等に贈与又は遺贈された財産又は代替財産が公益目的事業の用に直接供されなかったとき
    2. 公益目的事業の用に直接供される前に不当減少要件に該当することとなったとき
    3. 学校法人に対する非課税承認を受けた者が学校法人会計基準の基本金への組入が有ったことを確認できる書類を事業年度終了の日から3ヶ月以内に提出しなかったこと

    ロ 次の承認取消事由に該当する場合は、贈与又は遺贈を受けた法人を個人とみなして譲渡所得、山林所得又は雑所得が課税される(措法40③、措令25の17③、措規18の19⑩)。課税年分は、非課税承認が取り消された日の属する年分(その日までに贈与をした者が死亡していた場合には、その死亡の日の属する年分、遺贈があった場合には遺贈のあった日の属する年分)とされる(措法40③後段、措令25の17⑮)。

    1. 贈与又は遺贈を受けた財産を公益目的事業の用に直接供しなくなったこと
    2. 公益目的事業の用に直接供された後に不当減少要件に該当することとなったとき
    3. 学校法人特例の申請書の提出時において、贈与・遺贈をした者が公益法人等の役員及び親族等に該当しないことという要件に該当していなかったこと及び提出時において要件に該当しないこととなることが明らかであると認められ、かつ、提出後に要件に該当しないこととなったこと

    非課税承認の取り消し

    Q 特別養護老人ホームを設置運営する社会福祉法人に土地を寄附し、その土地を社会福祉法人が特別養護老人ホームの敷地として使用していましたが、社会福祉法人の規模縮小に伴い、その特別養護老人ホームが閉鎖され、土地は貸駐車場として使用されています。

    この場合、租税特別措置法第40条の非課税承認が取り消され、所得税が課税されることとなりますか。

    A 受贈法人が、租税特別措置法第40条の非課税承認に係る寄附財産を受贈法人の公益目的事業の用に直接供しなくなったなど一定の事実が生じた場合には、非課税承認が取り消されることとなります。

    この場合、受贈法人が寄附財産を受贈法人の公益目的事業の用に直接供する前に非課税承認が取り消されたときは、寄附者に対して所得税が課税されますが、公益目的事業の用に直接供した後に非課税承認が取り消されたときは、受贈法人に対して所得税が課税されます。

    したがって、照会の場合は、受贈法人が寄附財産を公益目的事業の用に直接供した後に非課税承認が取り消されることになりますので、受贈法人に対して所得税が課税されます。

    国税ホームページ質疑応答事例

    【関連法令通達】
    租税特別措置法40条2項、3項
    租税特別措置法施行令25条の17第10項、11項、12項、13項、14項、15項

    非課税承認を受けた寄附財産を譲渡した場合

    Q 租税特別措置法第40条の規定の適用を受ける寄附財産を受贈法人が譲渡し、その譲渡代金をもって他の資産を取得した場合、引き続きこの規定の適用が受けられますか。

    A 受贈法人が、租税特別措置法第40条の規定の適用を受けた寄附財産を譲渡した場合、次に掲げる要件を全て満たせば、引き続きこの規定の適用が受けられます。

    1 譲渡する寄附財産は、受贈法人の公益目的事業の用に2年以上直接供していること。

    2 寄附財産の譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって他の資産(以下「買換資産」といいます。)を取得すること。

    3 買換資産は、受贈法人の寄附財産に係る公益目的事業の用に直接供することができる寄附財産と同種の資産、土地及び土地の上に存する権利であること。

    4 買換資産は、原則として、譲渡に日の翌日から1年を経過する日までの期間内に、受贈法人の公益目的事業の用に直接供すること。

    5 受贈法人が、寄附財産の譲渡の日の前日までに、その譲渡の日など一定の事項を記載した書類を、受贈法人の所在地を所轄する税務署長に提出すること。

    国税ホームページ質疑応答事例

    【関連法令通達】
    租税特別措置法40条5項
    租税特別措置法施行令18条の19第11項、12項

    図表Ⅳ-2 個人から法人に対し贈与・遺贈が行われた場合

    個人から法人に対し贈与・遺贈が行われた場合
    個人から法人に対し贈与・遺贈が行われた場合
  • 所得税法59条と租税特別措置法40条

    所得税法59条と租税特別措置法40条

    (1)相続、遺贈、贈与、低額譲渡に係る基礎理論と譲渡所得課税の歴史

    譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりにより、資産の所有者に帰属する増加益(capital gains)を所得として、資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものとされている(最判第一小法廷昭40.10.31判決(1))。このことから、理論上は、相続や贈与があった場合でも、「資産が所有者の支配を離れて他に移転する」事に該当することから、支配権の移転を契機に値上がり益に対して譲渡所得を課税する法体系をとることもできる。現にシャウプ税制においては相続、遺贈又は贈与並びに低額譲渡により資産の移転があった場合においては、相続、遺贈又は贈与並びに低額譲渡の時において、その時の価額により、資産の譲渡があったものとみなすとしていた(昭和25年法律第71号所得税法5条の2)。この規定は、生前中によると死亡によるとを問わず、資産が無償等で他に移転する場合には、その時までにその資産について生じていた利得又は損失は、その年の所得税の申告書に計上しなければならないとするシャウプ勧告の考え方に基づくものであった。

    (1)昭和43年10月13日 最高裁判所第一小法廷(昭和41(行ツ)8 所得税賦課決定等取消請求)は、次のように説示している。「譲渡所得に対する課税は、原判決引用の第一審判決の説示するように、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを精算して課税する趣旨のものと解すべきであり、売買交換等によりその資産の移転が対価の受入れを伴うときは、右増加益は対価のうちに具体化されるので、これを課税の対象として捉えたのが旧所得税法(昭和二二年法律第二十七号、以下同じ。)九条一項八号の規定である。そして対価を伴わない資産の移転においても、その資産につき既に生じてから、同じくこの移転の時期において右増加益を課税の対象とするのを相当と認め、資産の贈与、遺贈のあった場合においても、右資産の増加益は実現されたものとみて、これを前記譲渡所得と同様に取り扱うべきものとしたのが同法五条の二の規定なのである。またいわゆる応能負担の原理を無視したものとも言いがたい。のみならず、このような課税は、所得試算を時価で売却してその代金を贈与した場合などとの釣り合いからするも、又無償や低額の対価による譲渡にかこつけて資産の譲渡所得税を回避しようとする傾向を防止する上からするも、課税の公平負担を生じない場合に納税を強制するものとする非難も又あたらない。」

    しかしながら、相続や贈与の場合に、被相続人や贈与者に譲渡所得を課税し、相続人や受贈者に相続税や贈与税を課税するのは国民感情から乖離する課税形態であるとの理由で昭和27年、昭和37年、昭和48年の改正を経て、現行法は、相続や贈与があった場合、所得税法59条1項に規定する次の①②の場合を除き、譲渡所得の課税対象とすることなく取得価額の引き継ぎによる課税の繰り延べが行われている(所法33、59①一、二)。

    1. 法人に対する贈与、遺贈、著しく低い対価(時価の2分の1未満:所令169)での譲渡
    2. 相続のうち限定承認に係るものや、個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るもの

    (2)所得税法33条と59条の関係

    ここで注意しなければならないことは、上述(1)の1は、所得税法33条に規定する「譲渡」であるが、2は同上に規定する譲渡ではないということである。

    『所得税法逐条解説』(大蔵財務協会)によれば、課税実務は、原稿所得税法33条の規定する「資産の譲渡」という条文の「譲渡」を次のように解しているようである。

    現行、所得絵時報33条に規定する「譲渡」とは、通常、法律行為による所有権の移転と解されているので、相続のように一定の事実(相続)に基づいてその効果(権利、義務の包括的承継)が生ずる場合は「譲渡」に含まれないが、贈与、遺贈による資産の移転は同条に規定する「譲渡」に該当する。(2)

    (2)『所得税基本通達逐条解説(平成21年版)』p.644。

    すなわち、「譲渡」とは有償無償を問わず法律行為による所有権の移転をいう。法律行為である贈与、遺贈は譲渡食との課税対象となる譲渡に該当するが、相続は譲渡に含まれない。このように解しても、無償の譲渡である贈与、遺贈を課税対象とするためには、時価で譲渡したものとみなす所得税法59条1項の適用要件を具備する必要がある。

    所得税法59条を注意深く読むと、同条は、「譲渡所得の基因となる資産の『移転』があった場合」と規定し、資産の「譲渡」とは規定していない。この意味するところは、同法1項1号は限定承認に係る「相続」という事由により資産の「移転」があった場合に、これを「譲渡」とみなしている点にある。本来、所得税法33条の規定する資産の「譲渡」に該当しない「相続」を基因とする資産の移転を譲渡とみなしているわけである。加えて、同項1号は法人に対する贈与及び遺贈並びに個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものを原因として資産の譲渡(この場合は、本来の譲渡である。)について、「時価」で譲渡があったものとみなしている。さらに同項2号は法人対する著しく低い価額(時価の2分の1未満)による譲渡については、「時価」で譲渡したものとみなしている。このように所得税法59条は、本来譲渡所得の課税規定では譲渡に該当しない相続を原因とする資産の移転を譲渡とみなすと共に、無償の譲渡である贈与、遺贈や低額譲渡について、一定の場合においては、時価で譲渡したものとみなす規定である。

    (3)所得税法59条と租税特別措置法40条

    法人に対する寄付(贈与・遺贈)が行われた場合に適用される上述のみなし譲渡の規定は、譲受者が国又は地方公共団体である場合は、一般の法人と同じように適用することは適当でなく、また、相手が公益を目的とする事業を営む法人である場合にも、公益位事業の保護育成という政策的観点から適用するのは適当でない場合もあると考えられる。

    そこで、租税特別措置法40条により、国又は地方公共団体に対して財産の贈与又は遺贈があった場合には、その財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなし、譲渡益に相当する部分については所得税が課税されないこととされ(措法40①前段:所得税法59条1項1号の特例規定)、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(注1)(3) その他 公益を目的とする事業を行う法人(注2)に対する贈与・遺贈についても、一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについては、国等に対する財産の贈与又は遺贈と同様に、その財産の贈与又は遺贈はなかったものとみなされ、譲渡益に相当する部分については所得税が課税されないこととされている(措法40①後段)。

    (3)「現行条文において、「特定一般法人」を「公益を目的とする事業を行う法人」の例示としているのは、その社会実態に照らしても誤りである(民間法制・税制調査会 税制部会 平成21年10月15日「公益法人税制について、早急に改善すべき事項の提言」)。」

    (注1)特定一般法人とは、法人税法別表二に掲げる一般社団法人及び一般財団法人で法人税法2条9号のイ及び法人税法施行令3条1項に掲げる次の全ての要件を満たす法人をいう。

    1. 剰余金の分配を行わない旨が定款に定められていること。
    2. 解散時の残余財産が、国若しくは地方公共団体、公益社団法人若しくは公益財団法人、又は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年6月2日法律第49号)5条17号イからトまでに掲げる法人に帰属する旨が定款に定められていること。
    3. 各理事について、その理事及びその理事の配偶者又は三親等以内の親族等である理事の数の合計数が理事総数の3分の1以下であること。
    4. 1や2に掲げる定款の定めに反した行為を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。

    (注2)学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、宗教法人、博物館や図書館を運営する法人、学生に奨学金を支給したり、寄宿舎を提供する法人、科学技術等の研究施設を営んだり、研究者に助成金を支給したりする法人、専修学校などを営む法人等公益を目的とする事業を行う法人(外国法人を除く)。

  • 受遺法人等に対する課税

    受遺法人等に対する課税

    相続税の納税義務者は原則として自然人たる個人である。株式会社など営利法人が遺贈を受けた場合、受贈益に対し法人税が課税される。営利法人が相続税の納税義務者となることはない。ただし、営利法人に対する遺贈があった場合には、間接的に営利法人の株主に対する利益供与となる場合がある。営利法人に対する利益の供与(遺贈)により、その法人の株価が上昇するときには、遺贈者から営利法人の株主に対し株価上昇分の経済的利益の遺贈があったと認定され相続税の課税が行われる(1)(相法9、相基通9-2の準用)。

    (1)債務超過の法人に対し遺贈が行われた場合は、債務超過部分を補填し純資産評価額が一円以上にならない場合は、マイナスの資産が0円になるだけなので経済的利益を認識することはない。

    株価上昇分の経済的利益の算定については、財産評価基本通達に定める評価方式で評価すべきであるのか、遺贈による法人の財産の増加額を直接反映する純資産評価方式によるべきか、という二つの考え方が在するが、財産評価基本通達は多数の納税者が画一的に評価を行う基準として合理性を有するものとされているので、受遺財産による株価上昇に係る経済的利益を算出する場合でも、遺贈前の株価と遺贈後の株価の算定にあたり財産評価基本通達に定める方法で評価を行うことができると解する。このような見解を採用すると類似業種比準価額を採用して評価を行うことができるケースでは、遺贈による法人資産の増加が株価にほとんど影響しない事態も生ずるが、そもそも類似業種比準価額は、評価対象会社の規模等を勘案し、同種同業の上場会社の株価を基準に、上場会社(標本会社)と評価会社の株価を算定する市場価額比準方式であり、解散価値を基準にしたものではないから、遺贈による株価上昇がわずかしか評価に反映しないことが直ちに評価の適性を損じることにはならないと解する。

    株価の上昇分の経済的利益を算出する場合、遺贈により取得した財産の価額から受贈益にかかる法人税相当額(2)を控除することができる。ただし、繰越欠損金がある法人では繰越欠損金を考慮することが必要である。受贈法人に法人税法上の繰越欠損金がある場合には、繰越欠損金を控除した残額に対する法人税等相当額を控除する。繰越欠損金が受贈益よりも多く、課税される法人所得が算出されない場合は、受贈益に対する法人税等相当額は控除しない。

    (2)この場合の法人税等相当額は財産評価基本通達186-2に定める42%を使用しても差し支えないものとされている。

    受遺者が人格なき社団・財団(以下、「人格なき社団等」という。)である場合、人格なき社団等は、法人税法では、34種類の収益事業から生じた所得に対して法人税の納税義務者とされ法人税が課税される。人格なき社団等が遺贈を受けても、受贈益は収益事業に該当しないので法人税が課税されることはないが、相続税法では人格のない社団等は個人とみなされ受遺財産に対し相続税が課税される(法法3、4①、7、相法66①)。ただし、人格のない社団等が公益事業を行い、かつ、一定の要件を満たす場合には遺贈を受けた財産は相続税の非課税財産となる(相法12③、相令2)。

    人格なき社団等は、任意に作ることができ、何ら法的規則なくその態様は千差万別である。中には、特定の者や特定の一族に支配され、特定の者が特別の利益を得ている人格のない社団等が存在する可能性があることは否めない。そこで相続税法は、この仕組みを使った不当な相続税や贈与税の租税回避が行われることを防止するため、人格なき社団等に対し遺贈があった場合には、人格のない社団等を無条件に個人とみなし、相続税の納税義務者にしている(相法66①)。人格なき社団等をセル散るするために財産の提供があった場合についても同様の取り扱いとなる(相法66②)。人格なき社団等に遺贈があり、遺贈財産が譲渡所得の基因となる資産であれば、遺贈者に所得税(譲渡所得)が課税され(3)、遺贈を受けた人格なき社団等には相続税が課税されるのが原則である。

    (3)租税特別措置法40条1項の適用はない。同条には人格なき社団等を法人とみなして同法を適用する旨の規定は存在しないからである(同旨:平成10.6.26東京地裁)。

    例外的に、人格なき社団等が宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で次の要件に該当するものにあたる場合、遺贈された財産は相続税の非課税財産となる(相法12③、相令2)。

    1. 人格なき社団等が専ら公益を目的とする事業を行うこと
    2. 公益の増進に寄与することが著しいこと
    3. 事業運営が特定の者又は特別関係者の支配に服していないこと
    4. 受遺者や受遺者の特別関係者又は被相続人若しくは遺贈者若しくはこれらの者の特別関係者に対し事業に関して特別の利益を与えないこと

    受遺者が持分の定めのない法人である場合、持分の定めのない法人(注)は、特定の場合に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66④⑥)。特定の場合とは、遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるときをいう(相法66④⑥、相令31①)。

    (注)持分の定めのある法人で、持分を有するものがいないものを含む。

    相続税等の負担が不当に減少する結果となると認められる場合とは、次の適正条件から外れた運営組織や事業運用がなされた場合をいう(相法33③)。

    1. 運営組織が適正であり、定款等により事業運営が特定の者又はその特別関係者の支配に服さないこと
    2. これらの者に対し事業に関連して施設の利用、金銭の貸付などの特別の利益を与えないこと
    3. 定款等において残余財産を国又は地方公共団体又は公益社団法人・公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人(持分の定めのないものに限る。)に帰属させる旨の定めがあること。
    4. 法令に違反する事実等がないこと

    持分の定めのない法人を設立するために財産の提供があった場合についても同様の取り扱いとなる(相法66④)。

    持分の定めのない法人が個人とみなされ受遺財産に対し相続税が課税される場合に、公益事業用財産の非課税の特例(注)の規定の適用はない。

    (注)宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で、一定の要件に該当するものが相続又は遺贈により取得した財産で、その公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの(取得から二年以内に受遺財産をその公益事業の用に供すること)は、相続税の非課税財産とされている(相法12①三)。

    公益事業用財産の非課税規定の立法趣旨は、遺贈を受ける者が、専ら公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行う者であり、かつ、同族関係者等特別な関係にある者に対し特別の利益を与えるような事実がないものに限るというものである(相令2)。したがって、遺贈者の親族その他特別関係者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に限り相続税の納税義務者となる持分の定めのない法人が受けた遺贈財産は公益事業用財産の非課税財産の要件に該当する余地はない(4)

    (4)『DHCコンメンタール相続税法』p.1197。医療法人の例につき、昭46・7・15東地裁判、税務訴訟資料63・135。

    なお、持分の定めのない法人に対する遺贈を通じ、法人の理事等特定の者やその親族、当別関係者が法人から特別の利益を受ける場合には、法人から受ける特別の利益を遺贈者から遺贈により受けたものとみなして相続税を課税するという規定がある(相法65)。

    形式的には、個人が法人に対し遺贈を行った場合でも、遺贈を受けた法人が特定の個人に特別の利益を与えるような法人であれば、実質t期には法人に対する遺贈ではなく特定の個人に対する遺贈とみなければならないからである。

    法人から受ける特別の利益とは、事業による施設の利用、余裕金の運用、解散した場合の財産の帰属、金銭の貸付、資産の譲渡、給与の支給、役員等(理事、監事、評議員その他これらの者に準じるものをいう。)の選任、その他財産の運用及び事業の運営に関して法人から受ける利益をいう(相令32)。

    遺贈により受ける利益の価額に相当する金額とは、遺贈によって法人が取得した財産そのものの価額ではなく、法人に遺贈があったことに関して、遺贈を受けた法人から受けた特別の利益の実態により評価することとなっている(昭和39年通達21)。この規定は、受遺法人に相続税が課税されるときには適用はない(相法65)。