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  • 遺言による財産処分の三類型

    遺言による財産処分の三類型

    一口に遺言といっても、遺言により行う財産処分には次の三つの種類がある。

    1. 相続分の指定(民法902)
    2. 遺産分割方法の指定(民法908)
    3. 遺贈(民法904)

    このうち、①相続分の指定と②遺産分割法方法の指定は、遺言者が相続人に対して遺産の分け方をどうすべきか意思を示す方法である。

    遺言者は、遺言で共同相続人の各相続分を指定することができる。法定相続分と異なった割合を決めることができるのである。これを相続分の指定という(民法902)。

    遺言者は、遺言で遺産の分割方法を指定することもできる(民法908)。特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続させる遺産分割方法の指定の遺言と解すべきであり、その場合には、特定の資産につき、相続による承継を特定の相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らかの行為を要せずして、特定の遺産は被相続人の死亡時に直ちに相続により承継される(最判平3.4.19民集45巻477頁)。遺言で分割方法の指定がなければ、共同相続人全員の協議で分割する(民法907①)。協議で分割できないときは、請求により家庭裁判所が審判で定める(民法907②)。

    遺贈は、遺言によって自分の財産を無償で他人に与えることである。遺贈の相手方は相続人でなくてもかまわない。自然人だけでなく法人に対する遺贈ももちろん可能である。

    相続分の指定と遺産分割方法の指定は、遺贈と非常によく似た機能を果たすため、遺贈との区別が問題となる。いずれも遺言でなされるため遺言の解釈という形で問題となる(1)

    (1)内田貴『民法Ⅳ』p.483。

    判例は、上記のように、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言についてであるが、「遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、いぞうとかいすべきではない」としている。

    図表Ⅱ-13 遺言の三類型と取得者区分

    遺言による財産処分の三類型法定相続人法定相続人以外の者
    相続分の指定×
    遺産分割方法の指定×
    遺贈
  • 更正の請求

    更正の請求

    相続税又は贈与税の申告に誤りがあり過大納付となっていたときには法定申告期限から五年以内に国税通則法の規定により更正の請求をすることができる。また、同法は、法定申告期限後に生じた後発的事由等による場合には、それらの事由が生じた日の翌日から二ヶ月以内に更正の請求をすることができることとしている(通法23)。

    (注)平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する国税について、更正の請求ができる期間が法定申告期限から五年に延長された。平成23年12月1日いz選に法定申告期限が到来するものは法定申告期限から一年以内とされている(通法23)。

    相続税法においては、さらに未分割財産が分割されたこと、強制認知が行われ相続人に異動が生じたことなど相続税特有の事由があることから、それらの事由が生じた日の翌日から四ヶ月以内に更正の請求をすることができる特別規定を置いている(相法32)。なお、相続税法32条と国税通則法23条の規定が重複する場合は、特別法である相続税法の規定が優先する。

    相続税法による更正の請求事由

    (1) 共同相続人によって分割されていない財産の分割が行われ課税価格が変動したこと

    (2) 強制認知の訴え又は推定相続人の廃除等の規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、相続回復請求権に規定する相続の回復、相続の承認及び放棄の取消しの規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと

    (3) 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと

    (4) 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと

    (5) 条件を付して物納の許可がされた場合(同法48条2項の規定によりその許可が取り消され、又は取り消されることとなる場合に限る。)において、その条件に係る物納に充てた財産の性質その他の事情に関して以下に掲げるものが生じたこと

    • 物納財産が土地である場合において、その土地の土壌が土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質その他これに類する有害物質により汚染されていることが判明したこと(相令8①一)
    • 物納財産が土地である場合において、その土地の地下に廃棄物の処理及び清掃に関する法律2条1項に規定する廃棄物その他の物で除去しなければその土地の通常の使用ができないものがあることが判明したこと(相令8①二)

    (6) 上記(1)から(5)に準ずる次の事由が生じたこと

    • 相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと(相令8②一)
    • 民法910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払い請求権)の規定による請求があったことにより弁済すべき額が確定したこと(相令8②二)
    • 条件付の遺贈について、条件が成就したこと(相令8②三)

    (7) 相続税法4条《特別縁故者に対する財産分与》に規定する事由が生じたこと

    (8) 法定申告期限までに配偶者が取得する遺産が確定していないため配偶者の相続税額の軽減(相法19の2)を受けることができず、三年以内分割見込書を提出していた場合、分割が行われた時以後においてその分割により取得した財産に係る課税価格又は相続税額が分割の行われた時前において確定していた課税価格又は相続税額と異なることとなったとき

    (注)この場合、相続税法32条の規定による更正の請求のほか国税通則法23条の規定による更正の請求もできるので、その更正の請求の期限は、当該分割が行われた日から四ヶ月を経過すると相続税法27条1項に規定する申告書の提出期限から五年を経過する日とのいずれか遅い方となるのであるから留意する(相基通32-2)。

    (9) 贈与税の課税価格の基礎に算入した財産のうち相続開始前三年以内の贈与税の加算(相法21の2④)の規定に該当するものがあったとき

    図表Ⅱ-4 国税通則法と相続税法により更正の請求ができる事由と期間(平成23年12月2日以後に法定申告期限の到来する場合)

    区分事由等期間根拠条文
    国税通則法による更正の請求一般的な場合申告書に記載した課税価格又は税額(更正があった場合には更生後の課税価格又は税額)に誤りがあったことにより納付すべき税額が過大であるとき法定申告期限から五年以内(法定申告期限が平成23年12月1日以前の時は一年以内)通法23①
    後発的事由による場合申告、更正又は決定に係る課税価格又は税額の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決等により、その事実が計算の基をとしたところと異なることが確定したときその確定した日の翌日から起算して二ヶ月以内通法23②一
    申告、更正又は決定に係る課税価格又は税額の計算にあたって、その申告をし又は決定を受けた者に帰属するとされていた財産が他の者に帰属する者とする当該他の者に係る故行成の更正又は決定があったとき当該更正又は決定があった日の翌日から起算して二ヶ月以内通法23②二
    法定申告期限後に生じた①又は②に類する国税通則法施行令6条に定めるやむを得ない理由があるとき当該事由の生じた日の翌日から起算して二ヶ月以内通法23②三、通令6
    相続税法による更正の請求相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者で本文の「相続税法による更正の請求事由」(1)から(9)に掲げる寿有のいずれかに該当することによってその申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったとき。修正申告書の提出又は更正があった場合には、修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったとき。当該事由が生じたことを知った日の翌日から四ヶ月以内相法32、相令8

    国税通則法に定める更正・決定のできる期間

    (1)から(4)は平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する相続税には適用されない旧規定であり、平成23年12月1日以前に法定申告期限が到来している相続税に適用される(附則(平成23年)37)。なお、現行の国税通則法では、(1)から(6)のいずれにおいても、相続税の更正は法定申告期限から五年を経過した日以後においてすることはできない。

    1.国税通則法70条の規定による場合(旧規定の扱い)(原則規定)

    (1)期限内申告のあった場合

    期限内申告に対する更正は、その更正に係る相続税の法定申告期限から三年を経過した日以後においてはすることはできない。

    期限内申告があった場合において、後に修正申告があり、その修正申告に対して更正を行うとき及び更正に対し再更正を行うときも同様である。

    図表Ⅱ-5

    期限内申告のあった場合
    期限内申告のあった場合

    (2)申告期限後一年以内に期限後申告書の提出があった場合(旧規定の扱い)

    この場合における更正(期限後申告書の提出があったあとにされた修正申告に対する更正及び更正に対する再更正を含む。)は、その更正に係る相続税の法定申告期限から三年を経過した日以後においてはすることができない。

    図表Ⅱ-6

    申告期限後1年以内に期限後申告書の提出があった場合
    申告期限後1年以内に期限後申告書の提出があった場合

    (3)申告期限後一年間経過日から申告期限後三年を経過する日までの間に期限後申告書の提出があった場合(旧規定の扱い)

    期限内申告書又は期限後申告書の提出があった場合において、法定申告期限から三年を経過した日以後においては、全て更正できないとする三年経過日の近くに期限後申告書の提出があった場合の更正ができないこともあるので、申告期限後一年経過日から申告期限後三年を経過する日までの間に期限後申告書の提出があった場合に更正(期限後申告書の提出があったあとにされた修正申告書に対する更正及び更正に対する再更正を含む。)は、期限後申告書の提出があった日から二年を経過する日まですることができる。

    図表Ⅱ-7

    申告期限後1年間経過日から申告期限後3年を経過する日までの間に期限後申告書の提出があった場合
    申告期限後1年間経過日から申告期限後3年を経過する日までの間に期限後申告書の提出があった場合

    (4)法定申告期限から三年を経過した日以後に期限後申告書の提出があった場合(旧規定の扱い)

    更正の除斥期間を一般的に申告期限から三年とすれば、この場合には全く更正をすることができず、適正な課税ができなくなるので、このような場合の更正(期限後申告書の提出があったあとにされた修正申告に対する更正又は更正に対する再更正を含む。)は、法定申告期限から五年を経過する日まで行うことができる。

    図表Ⅱ-8

    法定申告期限から3年を経過した日以後に期限後申告書の提出があった場合
    法定申告期限から3年を経過した日以後に期限後申告書の提出があった場合

    (5)減額更正の場合

    納付すべき税額を減少させる更正は、法定申告期限から五年を経過した日以後においてすることはできない。

    図表Ⅱ-9

    減額更正の場合
    減額更正の場合

    (6)決定の場合

    国税通則法25条(決定)による決定又はその決定後にする更正(決定の痕に提出された修正申告に対する更正又は更正に対する再更正を含む。)は、その決定又は更正に係る相続税の法定申告期限から五年を経過した日以後はすることができない。

    2.国税通則法71条による場合(期間制限の特例)

    遺産分割の調停の成立や遺留分の減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したことなど相続税法32条(更正の請求の特則)に該当する事由による税務署長が職権で行う減額更正は、32条所定の事由が生じたときが国税通則法70条に規定する更正又は決定をすることができる期間の満了の日より後に到来する場合においても三年間はすることができる(通法70、71①二、通令30、通令24④、通法23②一・三、相法32、相令8②)。

    3.国税徴収権の消滅時効の特則(相法50①)

    更正の請求の特則(相法32一から六)に規定する事由が生じた者は期限後申告書を提出することができ、期限後申告書の提出がなければ税務署長が決定処分を行う。期限後申告又は決定処分による国税の徴収権は申告又は決定を行った日から五年間は消滅しない。

    図表Ⅱ-10 更正・決定及び賦課決定のできる期間一覧表(23.12.1以前に法定申告期限が到来する相続税に適用)(税大校本より)

    区分起算日期間根拠条項
    申告納税方式通常の更正期限内申告書の提出があった場合法定申告期限の翌日3年通法70①一
    期限後申告書の提出があった場合1年以内通法70①本分の括弧書き
    1年超~3年以内提出があった日の翌日2年
    3年超法定申告期限の翌日5年通法70②四
    決定期限内申告書の提出がなかった場合通法70③
    決定後にする更正の場合
    減額更正通法70②一、二
    純損失などの金額についての更正通法70②三
    偽りその他の不正があった場合の更正・決定法定申告期限の翌日7年通法70⑤一
    賦課課税方式通常の賦課決定課税標準申告書の提出を要するもの提出があった場合提出期限の翌日3年通法70①二
    提出がなかった場合5年通法70④一
    課税標準申告書の提出を要しないもの納税義務生立の日の翌日通法70④二
    減額賦課決定課税標準申告書の提出を要するもの課税標準申告書の提出期限の翌日通法70②一
    課税標準申告書の提出を要しないもの納税義務生立の日の翌日通法70④二
    偽りその他の不正があった場合の賦課決定課税標準申告書の提出を要するもの課税標準申告書の提出期限の翌日7年通法70⑤二
    課税標準申告書の提出を要しないもの納税義務生立の翌日通法70⑤三

    図表Ⅱ-11 更正の期間制限改正一覧表(税目別)(税大校本より)

    対象税目改正前改正後
    (増額・減額)
    増額減額
    申告所得税3年(通法70①一)5年(通法70②一)5年(新通法70①一)
    純損失等の金額に係る更正5年(通法70②三)5年(通法70②二)5年(新通法70①一)
    法人税5年(通法70①一)5年(通法70②一)5年(新通法70①一)
    純損失等の金額に係る更正7年(通法70②三)7年(通法70②二)9年(新通法70②)(注2)
    移転価格税制に係る更正6年(措法66の4⑮)6年(措法66の4⑮)6年(新措法66の4⑱)
    相続税3年(通法70①一)5年(通法70②一)5年(新通法70①一)
    贈与税6年(相法36①)6年(相法36①)6年(相法36①)
    消費税及び地方消費税3年(通法70①一)5年(通法70②一)5年(新通法70①一)
    酒税3年(通法70①一)5年(通法70②一)5年(新通法70①一)
    上記以外のもの(注1)3年(通法70①一)5年(通法70②一)5年(新通法70①一)

    (注1)揮発油及び地方揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、たばこ及びたばこ特別税、電源開発促進税、航空燃料税、印紙税(印11、12に掲げるもの)、地価税をいう。

    (注2)平成20年4月1日以後に終了した事業年度又は連結事業年度において生じた純損失等の金額から適用される(新通法附則37)。

    図表Ⅱ-12 更正・決定及び賦課決定のできる期間一覧表(現行法)

    区分通常の過少申告・無申告の場合脱税の場合
    更正5年(通法70①一)(注)7年(通法70④)
    決定5年(通法70①一)(注)
    純損失等の金額に係る更正5年(法人税については9年)(通法70①一、②)
    増額賦課決定課税標準申告書の提出を要するもの提出した場合3年(通法70①)
    不提出の場合5年(通法70①二)
    課税標準申告書の提出を要しないもの5年(通法70①三)
    減額賦課決定5年(通法70①二、三)

    (注)移転価格税制に係る法人税の更正・決定等及び贈与税の更正・決定等については6年(措法66の4⑰、相法36①)。また、更正の除斥期間終了の6月以内になされた更正の請求に係る更正又はその更正に伴って行われる加算税の賦課決定については、当該更正の請求があった日から6月を経過する日まですることができる(通法70③)。

    (出典:税大校本)

  • 法定申告期限後に分割協議が調ったとき

    法定申告期限後に分割協議が調ったとき

    納税額が減少する者は、法定申告期限後五年を経過していたときにも、分割協議が調った日の翌日から、四ヶ月以内に更正の請求をすることができる(相法32一)。税額が増える者は、更正を受けるまでは、いつでも修正申告を行うことができる(相法31①③)。過少申告加算税は課税されず、延滞税は申告書を提出する日までに納付すれば課税されない(通法65④、相法51②一ハ)。

    ■実務アドバイス

    Q 四ヶ月以内に更正の請求を提出していないときはどうすればよいか。

    A 諦めないで嘆願書を提出する。

    1. 相続税の申告書の提出期限後に、遺産の分割、相続人の異動、遺留分の減殺請求、遺言書の発見又は遺贈の放棄等により納付税額が減少する者はそれらの事情が生じたことを知った日の翌日から四ヶ月以内に限り更正の請求をすることができるとされている(相法32)。
    2. 更正の請求を四ヶ月以内にすることができない場合でも、これらの事情が生じた日から三年以内ならば税務署長は職権更正ができるので、納税額が増加する者の修正申告を行うとともに、相続税法32条所定の自由を明らかにする書類を添付して嘆願書を提出することが有効な方法である。
  • 遺留分減殺請求と遺言に基づく申告

    遺留分減殺請求と遺言に基づく申告

    兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を持つ(民法1028)。遺言が有効であっても、相続人が配偶者、直系尊属、子又は子の代襲相続人などの遺留分権利者であれば遺留分減殺請求権を行使し、遺留分に相当する財産を取り戻すことができる。

    遺留分減殺請求権は形成権であり、裁判外又は裁判上の減殺請求の意思表示により直ちに物権的効果(1)が生ずるというのが判例(2)通説であるが、減殺請求があっただけでは具体的な金額が確定せず、実務上、確定までに長期間を要することが多い。減殺請求を行った側は減殺請求の意思表示を行っただけでは遺産を手にしているわけではなく、遺留分減殺請求を受けた側は、減殺請求による返済額又は価額弁償(民法1041)の金額などが定まらなければ財産計算をすることが実務上困難であり、更正の請求期限である四ヶ月では対応できない。このことから平成15年の改正により遺留分減殺請求権を行使した者は、持戻額が確定するまで相続税の申告義務はないこととされ、遺留分減殺請求を受けた者(非減殺者)は、遺留分の減殺請求により返済すべき又は弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から四ヶ月以内に限り更正の請求ができるとされている(相法32①三)。減殺請求者には、取戻額が確定した時点で新たな納税義務が生じる。この場合、相続税法30条(期限後申告の特則)により、取戻額が確定したときから決定処分を受けるときまで期限後申告書を提出することができる。

    (1) 目的物情の権利は当然に遺留分権者に復帰する。

    (2) 最判昭35.7.15民集14・9・1779他。

    減殺請求者が死亡保険を取得しているなどの理由により当初申告書を提出しているときは、取戻額が確定し納税額に不足が生じたときから更正処分を受けるまではいつでも修正申告書を提出することができる(相法31①③)。

    税務署長は、減殺請求者が自主的に期限後申告書又は修正申告書を提出しないときは、更正又は決定を行う。税務署長が更正又は決定できる期間は相続税法32条3号《更正の請求の特則》による更正の請求が行われて日から一年を経過した日と国税通則法70条《国税の更正、決定等の期間原則》の規定により更正又は決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日までとされている(相法35③)。

    加算税は課税されない。延滞税も期限後申告又は修正申告を行う日までに納付すれば課税されない(通法66①ただし書き、相法51②二ハ、相続税個別通達課資2-264 相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)題1・1・(3)・イ 参考通達等3)。相続税の計算の基礎となる権利関係が変動したことによる修正申告や期限後申告であり、過少又は無申告に関し正当事由があるためである。

    図表Ⅱ-3 遺留分権利者と遺留分一覧表

    相続人の範囲遺留分権利者遺留分
    配偶者だけ配偶者相続財産の2分の1
    配偶者・子配偶者・子 相続財産の2分の1
    配偶者と直系尊属配偶者・直系尊属 相続財産の2分の1
    配偶者と兄弟姉妹配偶者相続財産の2分の1
    子だけ相続財産の2分の1
    直系尊属だけ直系尊属相続財産の3分の1
    兄弟姉妹だけなしなし
  • 遺言無効確認の訴えと遺言に基づく申告

    遺言無効確認の訴えと遺言に基づく申告

    遺言は無効であるとして、遺言無効確認の訴えが提起されているときでも、一見、形式上有効な遺言があれば遺言に基づき申告を行えばよい。遺言により一切の財産を取得しないとされている者(みなし相続財産である死亡保険金や死亡退職金も取得していない者)が遺言の無効を主張している当事者であるとき、税務上は遺言が無効であることが裁判で確定するまでは申告を行う必要はない。

    裁判により(遺言の署名は本人の筆跡ではないなどの理由で)遺言が無効であることが確定したときは、法定相続による分割協議が開始される。取得する遺産が減少し、納税額も減少する者は、判決が確定した日の翌日から4花月以内に更正の請求を行う。

    新たに遺産を取得し納税しなければならない者は期限後申告書を提出することができる(相法30)。法定申告期限の翌日から期限後申告を行った日、又は税務署長が決定処分の通知を発した日までの延滞税は課されない(相法51②)。無申告加算税も課税されない(課資2-264 平成12年7月3日「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて」参考通達等3)。遺言が有効ならば取得しないはずの遺産を申告しなかったことは、その資産を申告しなかったことについて遅滞責任を問うことができない正当な理由があると認められるからである(通法65④、32⑥、通令8②)。

    このように、形式上有効な遺言があれば、遺言無効を主張する者でも遺言に基づいた財産の分配を前提として相続税の申告を行えばよく、税法もこれを正当事由とみているのだが、自己の主張に沿った申告をしておかないと訴訟上不利になるという考え方から、往々にして、遺言無効を主張する当事者は、遺言が無効であるという前提で相続税の申告を行う傾向がある。このような申告が行われると二重課税の状態が生ずる。

    ■形式上有効な遺言とは(自筆証書遺言)

    遺言は要式行為であり、法が定めた一定の様式を備えていることが必要である。遺言者が一人でこっそり書く自筆証書遺言は、次の要件を備えていなければならないとされている(民法968)。

    1. 全文の自筆…手が不自由であるため他人が添え手をする場合がある。自筆という観点からは好ましくないのだが、添え手をした場合でも、添え手をした他人の意思が介在した形跡のないことが筆跡の上で判定できるものは自筆の要件を満たすとされている(最判昭62.10.8判時1258・64)。
    2. 日付の記載…特定の日を表示するものでなければならないので「吉日」という日付の記載を欠くものとして無効であるとされている(最判昭54.5.31判時930・64)。
    3. 氏名の記載…自筆による署名が必要である。
    4. 押印…指印による押印も有効である(最判元2.16判時1306・3)。

    【設例】

    甲には、すでに亡くなっている先妻との間に二人の実子がいるが、遺言で全財産を内縁の妻Yに遺贈して亡くなった。実施X1、X2は遺言が無効であるとして遺言無効確認訴訟(1)を提起し、遺言無効を前提にすべての財産をX1、X2が相続したとして法定相続分により申告した。

    内縁の妻Yは、遺言に基づき全ての財産を相続した内容の相続税の申告を所轄税務署長に提出した。

    図表Ⅱ-1 設例関係図

    設例関係図
    設例関係図

    (1) 遺言無効確認訴訟の適法性については肯定されている(最判昭47.2.15第三小法廷民集26・1・30)。

    一つの遺産につき、二つの申告書が提出され、二重課税が生じている。このような事例で税務署長はどのような処理を行うのだろうか。

    税務署長は、遺言の有効性につき独自の事実認定を行い、課税処分をする。是しむ署長は、法令上の調査権限に基づき収集した資料を基に遺言が有効であるか無効であるかの事実認定を行い、財産の帰属者の認定し、修正申告の指導や更正処分を行うのが基本である。

    当事者が裁判所に提出している資料や調査により独自に収集した資料を基に、①形式上有効な遺言であるか、②遺贈者は作成時に遺言能力があったか、③詐欺・脅迫の事実がなかったか、④訴訟終結はいつ頃になる見通しかなどを調査し、遺言の有効性について判断したところにより課税処分を行う。税務署長は、遺言の有効性が高いと判断すればX1、X2に対して二重課税を排除するために減額更正処分を行う。

    遺言作成時に被相続人は植物状態にあるなど、遺言が無効である可能性が極めて高いと判断すれば、Yに対して減額更正処分を行うこととなる(ただし、このような事実認定は非常に難しいので、形式上有効な遺言があれば、通常は遺言に基づいた申告を認容することとなろう。)。税務署長が調査を行いどちらかの申告を取り消さなければ、遺言無効確認の判決が確定するまで二重課税の状態が継続することになる。

    この事例で、両者ともに無申告ならば、税務署長は、遺言が有効である可能性が高いか、無効である可能性が高いかを独自に判断して課税処分(この場合、決定処分)を行うこととなる。本来裁判所が最終判断をする権限を有している事項であるにもかかわらず判決が確定するまでに税務署長が独自の判断で課税処分を行うのは、このような処分ができないとすれば、除斥期間を有する我が国の税法下では、課税漏れをみすみす見逃すことになりかねないからである。

    遺言無効確認訴訟の確定判決が出た時点で、税額が減少する当事者は、確定判決があった日の翌日から四ヶ月以内に税務署長に対し更正の請求を行うことになる(相法32六、相令8②一)。

    判決で遺言無効が確認された場合は、受遺者Yは法定相続人ではないので遺言が無効ならば遺産を取得することはできず、納税義務は消滅する。受遺者Yは四ヶ月以内に更正の請求を行い、いったん納めた税金の還付を受ける手続きをとることとなる(相法32六、相令8②一)。

    上の例で、内縁の妻Yは相続税の申告を行っていたが、実子Xは、納税資金がないこともあり、法定申告期限までに申告書の提出は行わないうちに遺言無効の判決が確定した場合は、X1、X2は決定があるまではいつでも期限後申告書を提出することができる(相法30)。

    税務署長は、X1、X2から期限後申告書の提出がなければ決定処分(2)を行う。Yからの更正の請求があった日から一年又は国税通則法70条(通常の更正の決定に関する除斥期間)の規定によりX1、X2に対し決定をすることができなくなる日といずれかの遅い日までにX1、X2に対し決定処分を行う(相法35③④)(国税通則法70条の除斥期間については「更正の請求」参照。)。

    (2) 税務署長は、納税申告書を提出しなければならない義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合には、その調査によって課税価格及び相続税額又は贈与税額を決定する(通法25)。

    X1、X2に対する延滞税は、期限後申告書を提出する日から納税する日まで課税されるだけである。期限後申告を行った日に納税すれば延滞税は発生しない。相続若しくは贈与により取得した財産についての権利の帰属についての判決があったことにより期限後申告書の提出があったときは、法定申告期限の翌日から期限後申告書の提出があった日までの期間は延滞税の計算の基礎となる期間に算入されないこととされている(相法51②一八、32六、相令8②一)。

    X1、X2に対して無申告加算税は賦課されない(通法66①ただし書き:「期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に該当する(課資2-264 平成12年7月3日「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて」)参考通達等3)。

    図表Ⅱ-2 遺言無効判決による更正の請求と期限後申告

    遺言無効判決による更正の請求と期限後申告
    遺言無効判決による更正の請求と期限後申告
  • 遺言

    遺言

    遺言は、遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が定められている。遺言の方式には大きく分けて自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言という三つの方式がある(1)。これら、民法の定める方式に従わない遺言はすべて無効である。「あの人は、生前こう言っていた」などといっても、どうにもならない。録音テープやビデオに撮っておいても、それは、遺言としては、法律上の効力がない。

    (1) 日本公証人連合会ホームページに遺言のQ&Aが掲載されている。

    自筆証書遺言ならば全文を自筆し、作成日付を記載し自署押印しておくだけでよいのだが、せっかく書いた遺言をどこに保管しておくか悩みどころである。生前に誰かに読まれてしまうのも困るし、かといって自分がいなくなった後に見つけてもらえなければ何の価値もない。信頼でききる有人に預けておくのもよいが、その友人が先に亡くなってしまったら上手に返してもらうすべがあるだろうかなどという贅沢な悩みもある。

    公正証書遺言ならば正本が公証人役場に保管され(2)、遺言書の存在自体は公に確認できる状態にある。これに対し、自筆証書遺言などは、存在すること自体が公にされていないのであるから、遺言を作成した本人の死後、遺言書が存在していることを公に確認してもらい、発見された遺言の保存を確実にして後日の変造や隠蔽を防ぐ必要がある。検認はそのための手続きであり、我が国では遺言の有効無効を判断する手続きではない。遺言が封印されていた場合は、裁判所により開封し、利害関係人に遺言の内容を確知させる目的もある。

    (2) 公正証書遺言は遺言者が130歳になるまで公証人役場に保管される。

    公正証書遺言以外の遺言書を保管していた者や遺言書を発見した相続人は、相続開始後遅滞なく家庭裁判所に検認請求を行うことになっているので、我々が取り扱う遺言書は原則として公正証書遺言か、検認を受けた遺言書に限られる(民法1004①)。

    検認手続きは遺言の有効性を判定するものではない(3)ので要式を欠いた遺言書も検認を受けることができる。封印された遺言書も不印されていない遺言書も検認を怠ると五万円以下の過料に処せられるが(民法969、1005)、検認を怠ったからといって遺言としての効力に影響は生じない。

    (3) 大決大4.1.16民録21・8。なお、アメリカでは、遺言書が真正なものかを検認する手続き(probate)が裁判所で行われる。裁判であるためすべて公開される。樋口範雄『入門 信託と信託法』p.57。

    日付の異なる遺言が複数あるときは、日付の新しい遺言が有効だが、後の日付の遺言が要式を欠いたり、遺言意思能力がないときに書かれたりしているなど新しい日付の遺言が無効になる可能性もあるので日付の古い遺言も一応検認を受けておくメリットはあるとされている(4)

    (4) 『判例タイムズ1100 家事関係裁判例と実務245題』「家庭裁判所における開封・検認手続きの実際」p.478~479、『遺産分割事件処理マニュアル』 p.120 。

    封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いを持ってしなければ開封することができない(民法1004③)。家庭裁判所以外において開封すると過料に処せられるから(民法1005)、封印された遺言書を発見したときには注意が必要である(単に封入されている場合は中を見ても大丈夫)。

  • 遺贈

    遺贈

    人が死亡したときにその人の財産を誰に帰属させるかについて民法は遺言相続と法定相続の二つの制度を用意している。遺言相続における「遺言」は、人が自らの死後に自分の所有していた財産を誰に帰属させるかを自分の意思で決定できる制度である。

    遺贈には①全部包括遺贈(すべての財産を一人のものに遺贈する。)、②割合的包括遺贈(長男、長女に2分の1ずつ遺贈するなど。)、③特定遺贈(特定の者を特定の者に遺贈する。)、④負担付遺贈、⑤清算型の遺贈(遺産を換金して遺贈する。)の五種類があり(1)、遺言があっても、必ずしも具体的にどの遺産が誰に帰属するかが決まるわけではない。全部包括遺贈や特定遺贈の積み重ねで被相続人がすべての遺産の帰属者を指定しているときは、原則として、遺言により財産の帰属者が決まる。遺言があっても相続分の指定や部分的割合の包括遺贈などでは、割合的帰属は決まっても、特定の遺産が誰に帰属するかを決めるために遺産分割協議が必要となる。遺産の承継・帰属は遺言を原則とし、補充的に法定相続制度があるのが民法の建前である(2)

    (1)『家族法』p.328。

    (2)埼玉弁護士会編『遺留分の法律と実務』p.4。

  • 相続税の法定申告期限までに行う公益法人等への贈与(措法70)

    相続税の法定申告期限までに行う公益法人等への贈与(措法70)

    公益法人等への贈与

    POINT

    1. 相続又は遺贈により財産を取得したものが、相続税の申告期限までに、相続又は遺贈により取得した財産を公益法人等に贈与した場合、一定の要件を具備しているときには、その財産は相続税の非課税財産になる(措法70①)。
    2. 1の贈与を受けた公益法人等が、贈与があった日から2年を経過した日までに公益法人等に該当しないこととなったとき、又は贈与を受けた財産を2年をs経過した日において、なお公益を目的とする事業の用に供していないときは、相続税が課税される(措法70②)。

    相続又は遺贈により財産を取得した者が国(注1)若しくは地方公共団体(注2)又は特定の公益法人等(対象となる公益法人は施行令で限定列挙されている。所得税の寄付金控除の対象となる公益法人等より範囲が狭いので注意が必要。)、認定特定非営利活動法人に対して相続又遺贈により取得した財産を贈与した場合(死因贈与は除く。)、①その贈与が相続税の申告期限までに行われていること、②その贈与によって、その贈与者又はその贈与者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になると認められないこと、③相続税の申告書に、非課税の規定の適用を受けようとする旨及びその贈与財産の明細等を記載するとともに、④贈与を受けた法人等の贈与を受けたことの証明書、その受贈者が相続税の非課税規定の適用がある公益法人に該当する旨の主務官庁又は所轄庁の証明書等を添付する等の要件を具備しているときには、その財産は相続税の非課税財産となる(措法70、措規23の3④)。

    (注1)「国」には、政府の出資により設立された法人を含まないものとし、「地方公共団体」とは、都道府県、市町村、特別区、地方公共団体の組合、財産区及び地方開発事業団をいい、地方公共団体の出資により設立された法人は含まれない(措通70-1-1)。公立の学校等国又は地方公共団体の設置する施設の建設又は各町等の目的を持って設立された後援会等に対する財産の贈与(死因贈与は除く。)であっても、その贈与財産が最終的に国又は地方公共団体に帰属し、又は帰属することが明らかな場合には、国又は地方公共団体に対する贈与に該当するものとして取り扱われる(措通70-1-2)。

    (注2)地方自治法1条の3に規定する「地方公共団体」とは、都道府県、市町村、特別区、地方公共団体の組合、財産区及び地方開発事業団をいう。

    上記の法人で贈与を受けた者が、贈与があった日から2年を経過した日までに上記の法人に該当しないこととなった場合又は贈与により取得した財産を同日においてなおその公益を目的とする事業の用に供していない場合には、贈与財産の価額は、相続又は遺贈にかかる相続税の課税価格の計算の基礎に算入する。

    この規定の適用対象となる「相続又は遺贈により取得した財産」には、相続又は遺贈により取得したものとみなされる死亡保険金、死亡損害保険金、死亡退職金、保健に関する権利(相法3)及び贈与又は遺贈により取得したものとみなされる低額譲受等のd経済的利益(相法7、9)、相続税法の信託に関する特例(集団投資信託、法人課税信託、退職年金等信託を除く。)の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされた信託に関する権利及び信託財産を含み、一定の要件を具備すれば、その財産については相続税が非課税となる(措通70-1-5)。相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産でその価額が相続税の課税価格に加算されるもの(相法19)並びに相続時精算課税の適用を受ける財産(相法21の15①、21の16①)は含まない。

    生命保険金や死亡退職手当金の非課税金額の計算については、相続人又は受贈者が受け取った生命保険金又は死亡退職手当金から、国等に贈与した金額を控除した後の金額を基礎として計算することになる(相基通12-9、12-10)。

    本規定の対象となる「相続又は遺贈により取得した財産」とは、相続又は遺贈により取得した財産そのものをいうのであり、たとえば、次のイの(イ)から(ト)までに掲げる財産は「相続又は遺贈により取得した財産」に該当するものとして取り扱われる。したがって、次のロの(イ)又は(ロ)に掲げる場合に該当して取得したそれぞれに掲げる財産は該当しないものとされる(措通70-1-6)。

    イ 「相続又は遺贈により取得した財産」に該当する財産

    (イ)相続又は遺贈により取得した建物等が火災により焼失した場合において、当該焼失に伴って取得した火災保険金(被相続人又は遺贈者(死因贈与による贈与を含む。)が契約者であるものに限る。)

    (ロ)相続又は遺贈により取得した財産について租税特別措置法33条の4第1項《収容交換等の場合の譲渡所得等の特別控除》に規定する「収用交換等」による譲渡があった場合において、当該収用交換等に伴い取得した財産

    (ハ)相続又は遺贈により取得した株式発行前の株式、株式の割当てを受ける権利又は株主となる権利について新株の割当て又は交付があった場合において、当該割当て又は交付により取得した新株式(当該新株式の払込金額が旧株式の取得者である相続人等により負担されたものである場合における当該被相続人等の払込金額にかかる部分を除く。)

    (ニ)相続又は遺贈により取得した株式等の発行法人について合併若しくは分割又は解散があった場合において、当該合併若しくは分割又は解散により取得した株式、金銭等

    (ホ)相続又は遺贈により取得した証券投資信託又は貸付信託の受益証券について信託期間が満了した場合において、当該満了により取得した金銭

    (ヘ)相続又は遺贈により取得した貸付金債権について弁済期間が到来した場合において、当該弁済により取得した金銭

    (ト)相続又は遺贈により取得した預貯金の払戻を受けた場合において、当該払戻を受けた金銭

    ロ 「相続又は遺贈により取得した財産」に該当しない財産

    (イ)相続又は遺贈により取得した財産について譲渡があった場合において当該譲渡により取得した財産(イの(ロ)の収用交換等に取得した財産を除く。)

    (ロ)相続又は遺贈により取得した証券投資信託又は貸付信託の受益証券について信託契約の解約があった場合において、当該解約により取得した金銭

    ハ 相続又は遺贈により取得した財産を著しく低い価額で国等に譲渡した場合

    相続又は遺贈により財産を取得した者が、損取得財産を国、地方公共団体、特定の公益法人、認定特定非営利活動法人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した場合には、相続税評価額から譲渡対価を控除した金額に相当する部分について本非課税規定の適用が可能である(措通70-1-8)。

    ニ 香典返しに代えてする贈与

    相続又は遺贈により財産を取得した者が、弔問者に対する香典返しとしてする物品の供与に代え、香典として取得した金銭等の全部又は一部を国等に贈与した場合におけるその金銭等の贈与については、本非課税規定の適用はない(措通70-1-9)。

    ホ 贈与先に該当する公益法人等

    贈与先に該当する公益法人等(既設の法人に限られ、設立のためにする贈与は含まない(措通70-1-3)。)とは次のものをいう(措令40の3)。

    1. 独立行政法人
    2. 国立大学法人及び大学共同利用機関法人
    3. 地方独立行政法人で地方独立行政法人法21条1号又は3号から5号までに掲げる業務(同条3号に掲げる業務にあっては同号チに掲げる事業の経営に、同条5号に掲げる業務にあっては地方独立行政法人施工例4条1号に掲げる介護老人保健施設の設置及び管理に、それぞれ限るものとする。)を主たる目的とするもの
    4. 公立大学法人
    5. 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団及び日本赤十字社
    6. 公益社団法人及び公益財団法人
    7. 私立学校法(昭和24年法律第270号)3条に規定する学校法人で学校(学校教育法1条に規定する学校をいう。)の設置若しくは学校及び専修学校(同法124条に規定する専修学校(注))の設置を主たる目的とするもの又は私立学校法64条4項の規定により設立された法人で専修学校の設置を主たる目的とするもの
    8. 社会福祉法人
    9. 更生保護法人

    (注)上述7の専修学校は、次のいずれかの課程による教育を行う専修学校をいう(措規23の3)。

    1. 学校教育法(昭和22年法律第26号)125条1項に規定する好投課程でその修業期間(普通科、専攻科その他これらに準ずる区別された課程があり、一の課程に他の課程が継続する場合には、これらの課程の修業期間を通算した期間をいう。次号において同じ。)を通ずる授業時間数が2,000時間以上であるもの
    2. 学校教育法125条1項に規定する専門課程でその修業期間を通ずる事業時間数が1,700時間以上であるもの

    「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益財団法人の認定に関する法律のの施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」により旧民法34条法人は平成20年12月1日より5年以内に一般社団法人又は一般財団法人に移行(公益認定等委員会の認定を受けることができる法人は公益社団法人若しくは公益財団法人に移行)した(移行しなかった場合は解散したものとみなされた。)。移行の登記の前日までの間は旧民法34条法人に対し相続財産を贈与した場合の本非課税規定の適用については、平成20年11月30日以前と同様とするとの経過措置が講じられた(平成20年改正措令附則57①②③④⑤、平成20年改正措規附則30①②、民法34条は平成20年12月1日移行削除された。)。

    特定公益信託の信託財産への支出

    POINT

    1. 相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続税の申告期限までに、取得した財産に属する金銭を認定特定公益信託の信託財産とするために支出した場合には一定の場合を除き、支出した金銭の額は、相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入しない(措法70③)。
    2. 金銭を受け入れた認定特定公益信託が受け入れの日から2年を経過した日までに認定特定公益信託に該当しないこととなった場合には、支出した金銭の額は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入される(措法70④)。

    相続又は遺贈により財産を取得した者が、取得した財産に属する金銭を相続税の申告書の提出期限までに認定特定公益信託の信託財産とするために支出した場合には、その支出により支出をした者又はその親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合を除き、支出した金銭の額は、相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入しない。

    金銭を受け入れた認定特定公益信託が受け入れの日から2年を経過した日までに認定特定公益信託に該当しないこととなった場合には、支出した金銭の額は、相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入する。

    相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続税の申告書の提出期限までに認定特定非営利活動法人に対し、当該認定特定非営利活動法人の行う特定非営利活動に係る事業に関連する贈与をした場合について準用する(措法70⑩)。

    上記のいずれの場合も上記の欠格事由が生じた場合には、2年を経過した日の翌日から4月以内に修正申告書又は期限後申告書を提出し、かつ、その期限内に納付すべき税額を納付しなければならない。

  • 法人が受益者となる受益者等課税信託の課税関係

    法人が受益者となる受益者等課税信託の課税関係

    POINT

    1. 受益者等課税信託において、委託者である居住者がその有する資産を信託し、法人が適正な対価を負担せずに受益者やみなし受益者となる場合には、その法人が対価を負担していないときは、信託目的財産を委託者である居住者から贈与により取得したものとされる。この場合、委託者である居住者は信託財産を時価で譲渡したものとみなされ所得税が課税される(所法59①)。
    2. また、法人が適正な対価より低い対価を負担しているときは、その対価で委託者からその法人に対して譲渡したものとされる。この場合、その対価が時価の2分の1未満であるときは委託者である居住者は信託財産を時価で譲渡したものとみなされ所得税が課税される(所法59①)。

    受益者等課税信託において、委託者である居住者がその有する資産を信託し(信託設定を行い)、法人が適正な対価を負担せずに受益者やみなし受益者となる場合に、その法人が対価を負担していないときは、信託目的財産(信託に関する権利に係る資産)を委託者である居住者から贈与により取得したものとされ(所法67の3③)、その法人が適正な対価より低い対価を負担しているときは、その対価で委託者からその法人に対し譲渡したものとされる(所法67の3③)。

    上記の場合において、法人に対する贈与又は低い価額による譲渡により信託目的財産(信託に関する権利に係る資産)の移転が行われたものとされるときは、その居住者に対する課税においては、所得税法59条の規定の適用がある。具体的には、信託設定が贈与とみなされる場合は、委託者は信託目的財産をその資産を信託したときにおける時価で譲渡したものとみなされ(所法59①、所基通67の3-1)、法人が負担した対価が信託財産の時価の2分の1未満であるときは時価で譲渡したものとみなされる(所法59②、所基通67の3-1)。法人が負担した対価が適正な対価である場合や時価の2分の1以上である場合には、その対価の額による信託目的財産(信託に関する権利に係る資産)の移転が行われたものとして贈与者である個人に対し譲渡所得課税が行われる。

    受益者等課税信託が設定され、既存の受益者やみなし受益者が居住者であり、かつ、既存の受益者等以外に新たに受益者等となった法人が適正な対価を負担しなかったとき、居住者である一部の受益者等がざいしなくなった時に既存の受益者等である法人が適正な対価を負担しないで信託に関する権利について新たに利益を受ける者となるとき、受益者等課税信託が修了したときにおいて、信託の終了直前の受益者等が居住者であり、かつ、残余財産の給付を受けるべき又は帰属すべきものとなる法人が適正な対価を負担せずにその給付を受けるときも同様である(所法67の3④⑤⑥)。

    なお、受益者等課税信託においては、受益者やみなし受益者・特定委託者が信託に関する権利の全部を有していない場合でも、受益者等が一ならばその信託に関する管理(信託目的財産・債務)の全部を有するものとみなされ、受益者等が二以上ならば、その信託に関する権利の全部をそれぞれの受益者等が有する権利の内容に応じて有するとみなされることとされている(所令197の3⑤)。

  • 親子間で時価の異なる宅地を交換した場合の課税関係

    親子間で時価の異なる宅地を交換した場合の課税関係

    父Aが所有している甲土地と子どもBが所有している乙土地を交換した場合の課税関係を考える。

    基本

    父Aが所有している甲土地(時価8,000万円、相続税評価額6,400万円:取得価額800万円)と子どもBが所有している乙土地(時価3,000万円、相続税評価額2,400万円:取得価額480万円)を交換した場合、課税関係は次のとおりとなる。

    負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものが土地・借地権・建物・構築物などの不動産であれば贈与税の評価額は、取得時における通常の取引価額に相当する金額とされている(相法7、負担付贈与通達)。Aが取得した乙土地は3,000万円、Bが取得した甲土地は8,000万円であり、甲土地と乙土地の交換でBは実質的にAから5,000万円の贈与を受けていることになる。また、Aは甲土地をBは乙土地を各々3,000万円で譲渡したことになる。

    この結果、A及びBは次の納税義務を負う。

    Aには交換で取得した3,000万円の乙土地を対価とする譲渡所得が生ずる。Bは交換した甲土地のうち、3,000万円部分は乙土地の譲渡対価として、所得税の課税対象となり、残り5,000万円はAから贈与により取得したものとされ贈与税の納税義務を負う。

    図表Ⅰ-25 親子間で時価の異なる宅地を交換した場合

    親子間で時価の異なる宅地を交換した場合
    親子間で時価の異なる宅地を交換した場合

    図表Ⅰ-26 時価の異なる宅地の交換の課税事例(原則)

    Aの譲渡所得の計算明細

    項目金額(円)
    収入金額30,000,000
    取得費8,000,000
    課税譲渡所得22,000,000

    Bの譲渡所得の計算明細

    項目金額(円)
    収入金額30,000,000
    取得費4,800,000
    課税譲渡所得25,200,000

    Bの贈与税の計算明細

    課税価額50,000,000
    基礎控除1,100,000
    控除後課税価額48,900,000
    税額20,495,000

    交換差額が高い方の資産の20%以内である場合

    父Aが所有している甲土地(時価8,000万円、相続税評価額6,400万円:取得価額800万円)と子どもBが所有している乙土地(時価7,000万円、相続税評価額5,600万円:取得価額1,120万円)を交換した場合、課税関係は次のとおりとなる。

    図表Ⅰ-27 時価の異なる宅地の交換(所得税法58条の要件を満たすケース)

    時価の異なる宅地の交換(所得税法58条の要件を満たすケース)
    時価の異なる宅地の交換(所得税法58条の要件を満たすケース)

    所得税法の固定資産の交換の特例は、1年以上所有している固定資産を他の者が1年以上所有している固定資産(交換のために取得したものを除く。)と交換し、交換前の用途と同一の用途に供した場合、交換差額が交換する資産の高額資産の20%以内であれば、確定申告をすることにより、課税の繰延べを可能とする特例である(所法58)。

    ( 8,000万円 – 7,000万円 )< 8,000万円 x 20%であるから、交換の特例が適用でき所得税法58条の交換の特例を適用する旨の確定申告を行うことにより、譲渡所得の課税は繰り延べられる(甲及び乙は等価とされる部分に対応する各々相手の取得価額を引き継ぐ。)。

    差額の1,000万円部分はAからBへの贈与として贈与税の課税対象となる。

    Bは7,000万円の土地を譲渡し、8,000万円の土地を取得しているので差額1,000万円が贈与税の課税対象となる(相法7、負担付贈与通達)。