JTMI 税理士法人 日本税務総研

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  • 遺言による換価分割

    遺言による換価分割

    遺言による換価分割(清算型遺贈)は、遺産を換価し、その対価として得られる金銭を共同相続人間(包括受遺者を含む。)に分配することを指示した遺産分割方法の指定である。

    遺言執行者がある場合は、遺言執行者が相続財産の一部又は全部を換価して相続人や受遺者に分配することとなる。

    換価分割において、遺言の文言から「換価して分配するように指定された遺産を相続又は遺贈により取得する者が確定できる」ならば、当該相続人又は受遺者が譲渡者である。

    しかしながら、換価対象財産を誰に相続させるのか(分割方法の指定)、遺贈するのか(特定遺贈)が明確に記載されていない遺言が少なくない。

    この場合は、遺言者の意思を推定することになるが、考え方はおおむね次のとおりである。

    1. 相続人以外の受遺者が包括受遺者である場合
      包括受遺者を含めた相続人が分配される金額に応じた比率で遺産を取得し譲渡したものと判断する。遺言の内容は、相続分の指定、分割方法の指定及び包括遺贈の意思表示と読むことができるからである。
    2. 相続人以外の受遺者が特定受遺者である場合
      遺言で特定の財産を受遺者が取得した後に換価するというように明確に記載されていない場合は、相続人が当該財産を取得し、譲渡した代金の一部又は全部を特定受遺者に交付すると考える。特定受遺者は金銭を遺贈されたと考えるのである。このように考えると特定の財産の譲渡者は相続人と判断することになる。

    図表Ⅱ-32 遺言による課税形態一覧表

    遺言の内容遺贈資産に係る譲渡所得の納税義務者相続税に関する影響
    遺言による換価分割相続人・包括受遺者換価資産の相続税評価額と時価との差を調整する
    法人に対する遺贈被相続人(準確定申告)未払所得税は相続債務となる
    個人に対する遺贈課税されない受遺者は相続税の納税義務者となる
  • 遺言と異なる遺産分割

    遺言と異なる遺産分割

    特定遺贈、包括遺贈、相続させる旨の遺言、相続分の指定、遺産分割方法の指定

    遺言執行者がいる場合、相続人は遺言の対象となった相続財産について、処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないので遺言が分割方法を指定していれば、遺言の指示の通り遺産は分割される(民法1013、1014)。遺留分を侵害する遺言も当然に無効となるものではない。遺留分を侵害された遺留分権利者は、自己の遺留分を保全するのに必要な限度において贈与・遺贈の減殺を請求することが可能となるにすぎない(民法1031)。

    遺言があっても、相続分の指定や包括遺贈のように遺産の割合を決めて特定の相続人に相続させる内容の遺言であれば、具体的にどの財産を誰が取得するか分割協議が必要となる。

    ところで、相続人に相続させる旨の遺言(1)は、特段の理由がない限り遺産分割方法の指定と解すべきであり、相続開始時点で目的物の所有権は受遺者に確定的に帰属すると解されている(最判二小平成3.4.19)。そうすると遺産分割方法の指定がなされた目的物は、遺産分割を経ずに確定的に受遺者に所有権が帰属するのであるから、論理的には当該相続人が相続を放棄しなければ、相続させる旨の遺言に反する分割協議はできないとも考えられるが、これを肯定する判決例がある。

    (1)遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該資産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり、その場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らkの行為を要せずして、当該遺産は被相続人の死亡時に直ちに相続により承継される(最二小判平3・4・19民集45巻4号77)。

    さいたま地裁平成14年2月7日は「相続させる旨の遺言による場合でも、遺言者の通常の意思は相続を巡って相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、遺言と異なる遺産分割が相続人間によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえず、相続人間において遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできない」と判示している。

    このように適法な分割方法の指定があっても(遺言執行者がいる場合には、遺言執行者の同意を得られれば)(民法1013)、共同相続人全員の協議によって指定と異なる分割をしても妨げないということになる。

    (注)遺言執行者がある場合、相続人は相続財産に対する管理処分権を失い(民法1013)、遺言執行者が管理処分権を有する(民法1012)。そこで、遺言執行者は、相続人全員の合意のもとに遺言内容と異なる財産処分を求められても、遺言に基づいた執行をなすことができる(『改訂遺産分割実務マニュアル 』 p.207)。遺言執行者があるにもかかわらず、一部の相続人が遺言に反して相続財産を処分した場合、最高裁は、遺言者の意思を尊重しようとする民法1013条によりその行為は絶対的に無効となるとし、第三者にも対抗できるとする(同書p.208、大判昭和5年6月16日民集9巻550頁、判民昭和5年56頁、最判昭和62年4月23日民集41巻3号74頁、判時1236号72頁)。なお、遺言執行者の同意の下に、合意が利害関係を有する関係人全員(相続人・受遺者)でなされ、かつその履行として処分行為がなされた場合に、民法1013条の目的に反するものではないとして相続財産の処分行為を有効とした裁判例がある(同書p.208、東京地判昭和63年5月31日判時1305号90頁)。

    遺言で相続人以外のものに特定遺贈がなされた場合、特定遺贈の受遺者は遺言者の死亡後いつでもその特定遺贈を放棄することができる(民法986①)。特定遺贈の内容が可分であるときは、一部放棄もできる。しかし、一部放棄を禁ずる遺言であればそれに従うべきであるとされている(2)

    (2)『新版注釈民法(28)』p.210。

    遺言で相続人以外のものに包括遺贈がなされた場合は、包括受遺者は自己のために遺贈の効力が発生したことを知ったときから三ヶ月の熟慮期間内に承認・放棄をすることを要し、その期間内に限定承認・放棄をしないと包括遺贈の単純承認をしたものとみなされる(民法921二)。このことは、論理的には包括遺贈の一部放棄はできないという結論に達し、特に全部包括遺贈の場合、実務上、甚だ不都合な事態を生ずることがある。例えば次のような事例である。被相続人Aは配偶者も子供もいないので、全ての遺産を妹に包括遺贈した。Aには母がおり、血族相続人の第一順位は直系尊属である母である。この母親がAの遺産の一部(母親が居住している自宅)を必要とし、包括受遺者である妹(母親から見ると娘)も不服はない。このような場合、包括遺贈の一部放棄が可能ならば相続人である母親と包括受遺者である妹が分割協議を行えば足りるのであるが、包括遺贈の一部放棄が認められないのであれば、母は遺留分減殺請求権を行使せざるを得ない。

    ただ、遺留分減殺請求権を行使しても、包括遺贈された遺産が遺留分権に応じ包括受遺者と相続人の共有となるか若しくは価額弁償を受け得るだけであり、特定の遺産を取得することはできないと解されているから厳密な意味では母親は自宅そのものを相続によって取得することはできないことになる(最判平成8・1・26民集50巻1号32頁)。

    このように、相続理論と実務が乖離している部分がある。国税庁は受遺者が全て相続人のケースでは遺言と異なる遺産分割協議も有効であるとの見解を公表しているが(タックスアンサーNo.4176)、相続人以外の者が包括受遺者である場合については特に言及していない。慎重を期すならば、遺言を作成するときに留意すべき事項である。

    ■参考判決例 遺言と異なる遺産分割協議の効果

    平成14年2月7日 埼玉地方裁判所 平成11(ワ)2300

    特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じたとき)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることは言うまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。しかしながら、このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、これと異なる内容の遺産分割が善相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別、そうでなければ、被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく、むしろ全相続人の意思が一致するなら、遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。法的には、一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが、このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし、その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても、全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり、ただ事案によって遺産分割協議が難航している実情もあることから、前記判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。

    ■参考判例 「相続させる」旨の遺言

    最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決 判時1384・24、香川判決

    被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、そのものと各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人の関わり合いの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることに鑑みれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然であり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために他ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、まさに同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなしえないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じたとき)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることは言うまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも、そのような場合においても、当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから、そのものが所定の相続の放棄をしたときは、遡って当該遺産がそのものに相続されなかったことになるのはもちろんであり、また、場合によっては、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。

  • 停止条件付遺贈

    停止条件付遺贈

    停止条件付遺贈においては、条件成就まで遺贈の効力が発生しないので遺贈の目的物は未分割財産として取扱い、民法900条から903条までの規定(法定相続分、代襲相続分、遺言による指定相続分、特別受益者の相続分)による相続分に従って課税価格を計算する。条件が成就する前に分割してしまった場合には、その分割した割合によって取得したものとして申告しても差し支えないこととされている(相基通11の2-8)。

    条件が成就した場合には、遺贈の効力に基づき相続人が有していた遺贈の目的財産は受贈者に帰属する。これにより相続税が減少する相続人は条件成就を知った日の翌日から四ヶ月以内に更正の請求を行うことができる。条件が成就した停止条件付受贈者は、更正又は決定処分を受けるまで修正申告又は期限後申告をすることができる(相法32五、相令8三、相法31①、35③)。修正申告及び期限後申告に対し、加算税や延滞税は課税されない。

    (注)受遺財産を取得した受遺者は、条件成就の翌日から十ヶ月以内に相続税の申告をしなければならないわけではない。相続税の申告は自己のために相続の開始があった日の翌日から十ヶ月以内に行わなければならないが(相法27)、申告書の提出が法定申告期限後であっても、税務署長による決定があるまでは申告書を提出することができる(通法18)。これを「期限後申告書」という。相続税においては、受遺者や相続人の範囲は、強制認知、胎児の出生、遺言の発見等によって相続開始後において異動し、取得する財産についてもこれらの事由により異動することがある。このような後発的事由により新たに納税義務者となる場合には、本来の相続税の法定申告期限が延長されるのか、本来の法定申告期限はそのままであるのかという問題が生ずる。相続税法30条は本来の法定申告期限は変わらないことを明らかにしている規定である(1)。法定申告期限は変わらないのだが、後発的事由により新たな納税義務者が生じ、期限後申告を提出する者は、本来の法定申告期限の翌日から期限後申告書を提出した日までの期間は延滞税の計算期間から除外することとされている(相法51②)。無申告加算税についても正当な理由があると認められる事実として取り扱われる(相法66①、平成12年7月3日 課資2-264相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて。参考通達等3)。

    (1)『DHCコンメンタール相続税法』p.2635。

    なお、停止条件成就後、受遺財産を取得したにもかかわらず期限後申告書の提出を怠り、決定処分を受けたときは、決定の通知を発した日と、当該事由の生じた日の翌日から起算して四ヶ月を経過する日のいずれか早い日までの期間が延滞税の計算期間から除外される(相法51②)。

  • 個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るもの

    個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るもの

    包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)。相続が開始すると遺産は相続人と包括受遺者の遺産共有状態となる。包括受遺者は、債務も承継し、遺産分割協議にも参加することとなる。包括遺贈の承認・放棄は、特定遺贈と異なり、相続放棄、承認及び限定承認と同じ手続きを行う。

    しかし、次の五点で相続人と異なる。

    1. 遺留分権はない
    2. 代襲相続はない(民法994)
    3. 共同相続人が相続放棄したり、他の包括受遺者が遺贈を放棄しても、それにより相続分が増えるのは相続人だけであり、包括受遺者の持分は増えないとされている。
    4. 包括受遺者の持分は登記しないと第三者に対抗できない。
    5. 法人でも包括受遺者になれる。

    包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同一の立場に立つので遺贈者(被相続人)が負っていた債務をも承継する。包括遺贈を受けた遺産よりも承継する債務が多ければ包括受遺者は自己の固有財産を持って弁済しなければならなくなる。このようなリスクを避けるためには、相続財産を限度として債務を清算し、マイナスが多い場合は承継せず、プラスならば相続するという限定相続の方法を選択することができる。包括受遺者を含む相続人全員が家庭裁判所に対し相続開始を知ってから三ヶ月以内に限定承認の申述をして受理されると、相続人・包括受遺者は相続によって得た財産の範囲においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続することになる(民法922)。一人でも反対する人がいると限定承認はできない。その場合他の相続人・包括受遺者は単純承認あるいは放棄を選択するしか方法はないが、相続人の中に放棄をした者がいる場合は、残りの相続人・包括受遺者全員で申述すれば限定承認ができる。相続人の中に生死不明の者がいる場合には、家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらい、財産管理人と共に限定承認を行う。申述受理後、債権者や受遺者に限定承認をしたことを広告しなければならない。限定承認をすると家庭裁判所は、相続人の中から相続財産管理人を選任する。相続財産管理人は相続財産の管理、債務の弁済に必要な一切の行為を行う。

    所得税法は、限定承認に係る相続・包括遺贈があったときは、限定承認の申述の受理がなされた時点で、時価による譲渡があったものとみなし、(遺産のうち含み益がある資産があれば)譲渡所得課税の対象としている(所法59①1)。被相続人(包括遺贈者)が所有していた期間の資産の値上がり益を被相続人(包括遺贈者)の所得して課税し、発生する税金を他の一般債務と合わせ、相続財産の範囲で精算するわけである。

    この場合、納税義務者は被相続人となるから、債務を承継する包括受遺者及び相続人は、被相続人の所得税について準確定申告(所法125、所令263、所規49)を行い、所得税を納付しなければならない(通法25)。

    限定承認した結果、債務を弁済してもプラスとなり、相続・遺贈により取得する財産が相続税の基礎控除を上回る場合には、包括受遺者及び相続人は相続税の申告義務を負う。

    限定承認の申述の受理があった時点で土地等の含み益のある資産は時価で譲渡されたものとみなされるが、相続税の申告における財産の評価額は相続税評価額である(相法13①、14②、22)。みなし譲渡課税された時価、実務上は換価処分された価額が相続税評価額より高くても原則としてその価額で申告することはできない。準確定申告による所得税は被相続人(遺贈者)の負担すべき所得税であるから相続税の課税価格の計算上、債務控除をすることができる。

    包括受遺者が死亡保険金や退職金等を取得した時は、包括受遺者は相続人ではないので、生命保険金や退職金等の非課税規定を適用することはできない(相法12①五)。

    限定承認した被相続人の債務が相続財産(積極財産)を超える部分については、法律上の支払義務のある債務ではないから、債務控除をすることはできない。

    包括受遺者及び相続人が複数ある場合の所得税の納税義務の承継については、民法900条から902条までの規定(法定相続分、代襲相続人の相続分、遺言による相続分の指定の規定)による相続分により按分して計算した額となる(通法5②)。遺言による相続分の子弟には、包括遺贈の割合又は包括名義の死因贈与の割合が含まれるから、遺言により相続分の指定や包括遺贈があれば、その割合により相続人(包括受遺者を含む。)は納税義務を承継する(国基通5条関係9)。

    限定承認による相続では、包括受遺者及び相続人は相続により取得した財産を限度として準確定申告による所得税などの国税を納税すれば足り、相続人固有の財産を持って納税する必要はない(通法5①、国基通5条関係8)。

  • 受遺者に対する課税

    受遺者に対する課税

    (1)個人(自然人)

    遺贈により財産を取得した個人(自然人)は相続税の納税義務者となる(相法1の3)。

    受遺者が遺贈を受けた財産につき我が国の相続税の納税義務を負うかは大別して①受遺者が我が国に住所を有するか、②住所を有しない場合は財産の所在地が相続税法の施行地内か、③相続時精算課税制度の適用を受けているかにより判定する。ただし、この方法だと海外に所在する財産の遺贈を受けたときには納税義務が生じないこととなり、国際化が進展している現代においては、著しく課税の公平を欠くこととなる。このため平成12年に租税特別措置法において日本に居住していないが受遺財産の所在地にかかわらず納税義務を負う規定が作られ、平成15年の改正により相続税法に組み込まれた。これは、受遺者が日本国籍を有し、かつ、遺贈者又は受遺者のいずれかが遺贈を受けた日(相続開始日)前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有していれば、遺贈により取得した財産の所在地を問わず取得財産の全てについて納税義務を生ずるという規定である(全世界課税)。日本国内に住んではいないが取得した全ての財産につき無制限に納税義務を負うという意味で、非居住無制限納税義務者という(相法1の3二、2①)。さらに平成25年度の税制改正では非居住無制限納税義務者に、日本国内に住所を有していない個人で日本国籍を有しない者が、日本国内に住所を有する者から遺贈により取得した場合が加えられた(この改正は平成25年4月1日以後の遺贈により取得する国外財産に係る贈与税について適用される。)。非居住無制限納税義務者と居住無制限納税義務者を総じて無制限納税義務者という。

    法施行地以外に居住し、法施行地内の財産を取得するときに限り相続税の納税義務者となる制限納税義務者については、財産の所在地遺憾が相続税の課税範囲を決定する要因となるから相続税法は10条に詳細な規定を置いている。

    遺贈による財産の取得の時期は、遺贈が遺言者の死亡の時にその効力を生ずる(民法985①)とされていることから、遺贈者の死亡の時(失踪の宣告を相続開始原因とする相続については、民法31条に規定する期間満了の時又は危難の去りたる時)とされている(相基通1の3・1の4共-8)。遺贈者の死亡の時は、自然的死亡時と失踪宣告に基づく擬制死亡時とがある。自然死亡時は、医学的に呼吸が停止した瞬間であり、擬制死亡時は、普通失踪の場合は民法30条1項の期間満了時、危難失踪の場合は危難の去りたる時である。停止条件付の遺贈でその条件が遺贈者の死亡後に成就するものについてはその条件が成就したときとなる(相基通1の3・1の4共-9)。

    なお、相続時精算課税の適用を受ける財産で相続税法21条の16第1項の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされたものに係る相続税の納税義務の成立の時期は、当該相続時精算課税に係る特定贈与者の死亡の時である。

    受遺者が遺贈者の一親等の血族(その代襲相続人を含む。)又は配偶者以外の物である場合に負担する相続税は通常の相続税額の二割増しとされる(相法18②)。

    平成15年改正前は二割加算について受遺財産の70%を限度とする規定が設けられていたが、同年の改正により相続税の最高税率が50%に引き下げられたことに伴い上限規制は廃止された(平成15年1月1日以後適用。)。

    相次相続控除の適用を受けられる者は、相続又は遺贈により財産を取得した相続人に限られ相続人以外の者には適用されない。相続人とは民法に規定する相続人をいうから、遺贈について相次相続控除を受けるためには、第一次相続及び第二次相続とも受遺者は相続人でなければならない(相法20①)。受遺者が相続を放棄した者又は相続権を失った者である場合は相続人ではないから適用されない(相基通20-1)。

    個人が財産を遺贈する相手は個人とは限らず、次のようなものが考えられる。

    1. 人格なき社団・財団
    2. 持分の定めのない法人
    3. 営利法人

    このうち、人格なき社団・財団は無条件に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66①④)。持分の定めのない法人は、特定の場合に相続税の納税義務者となる(相法66①③)。株式会社などの営利法人は、遺贈による受贈益に対し法人税が課税されるので相続税の納税義務者となることはないが、法人が遺贈を受けることにより、法人の出資者(株主等)の出資持分の価値が増加する場合は、遺贈者から法人の出資者への遺贈となる(相法9)。なお、個人が持分の定めのない法人に対し財産を遺贈することに関連して、当該法人から特別の利益を受ける特定の範囲の者に対し特別の利益に相当する金額の遺贈を受けたとみなす規定(特別の法人から受ける利益に対する課税)がある(相法65)。

    (2)代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団

    代表者又は管理者の定めのある人格のない社団・財団は、所得税法や法人税法では、法人とみなされ、その収益には法人税が課されるが、全ての収益に対し課税されるわけではない。

    人格のない社団や財団(例:同窓会、町内会、PTA)などは、会費収入により運営されることが多く、会費収入に税金が課税されると運営が困難になる。法人税法は、代表者又は管理者の定めのある人格のない社団・財団の収益のうち、①34種類に限定した「収益事業」を行う場合、②法人課税信託の引受けを行う場合、③退職年金業務等を行う場合に限定して法人税の納税義務を課している(法法4①ただし書き)。受贈益に対しては法人税が課されない(所法4、法法7)。

    収益事業とは

    次の34種類の事業で、継続して事業場を設けて営まれているものをいう(法法2⑬、法令5①)。

    1.物品販売業、2.不動産販売業、3.金融貸付業、4.物品貸付業、5.不動産賃貸業、6.製造業、7.通信業、8.運送業、9.倉庫業、10.請負業、11.印刷業、12.出版業、13.写真業、14.席貸業、15.旅館業、16.料理店業その他の飲食店業、17.周旋業、18.代理業、19.仲立業、20.問屋業、21.鉱業、22.土石採取業、23.浴場業、24.理容業、25.美容業、26.興行業、27.遊戯所業、28.遊覧所業、29.医療保険業、30.技芸教授又は学力の教授若しくは公開模擬学力試験を行う事業、31.駐車場業、32.信用保証業、33.無体財産権の提供等を行う事業、34.労働者派遣業。

    上記に掲げる事業であっても、それが公益社団法人・財団法人が行う公益目的事業に該当するものである場合、公益法人等が行う事業のうち身体障害者、生活扶助者、知的障害者、精神障害者、老人、寡婦などのためのもの等所定の要件を満たすものは、収益事業から除外されている(法令5②)。

    代表者又は管理者の定めのある人格のない社団や財団に対し、資産家が多額の資産を遺贈しても、上述のように法人税は課税されない。子供が実質的に支配する人格のない社団・財団に親が財産を遺贈しても法人税は無税で済んでしまう。このような仕組みを利用した租税回避が行われることを防止するため、相続税法は、個人が代表者又は管理者の定めのある人格なき社団や財団に財産を遺贈した場合には、人格なき社団や財団を無条件に個人とみなして相続税の納税義務者としている(相法66①④)。

    現行法令では、個人から贈与を受けた利益(受贈益)に対し法人税が課税されることはないが、もし、贈与を受けた財産に対し法人税が課税されることがあれば、二重課税排除のために、相続税法施行令の定めるところにより、人格なき社団や財団に課されるべき法人税及び法人事業税等の額に相当する額は贈与税から控除する(相法66⑤)(1)

    (1)平成20年12月1日前に行われた贈与については、人格のない社団・財団の各事業年度の所得の計算上益金の額に算入されているときは、贈与税は課税されない(個人とみなされない)こととされていた。改正の趣旨は、贈与税の最高税率50%と法人税の最高税率40%の差を利用した租税回避の防止である。

    人格なき社団・財団を設立するために財産の提供があった場合についても同様の扱いとなる(相法66②)。

    図表Ⅱ-28 人格なき社団・財団と相続税

    人格なき社団・財団と相続税
    人格なき社団・財団と相続税

    ■「代表者又は管理者の定めのある」人格なき社団・財団とは

    法人でない社団又は財団で代表者又は管理者の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる(民訴29)。相続税法の規定は訴訟当事者能力のある人格なき社団・財団を個人とみなしているわけである。

    人格なき社団についての判例は、「団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」としている(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁)。「権利能力なき財団」については、「個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつ、その運営のための組織を有していること」を必要とするとしている(最判昭和44年11月4日民集23巻11号1951頁)。

    (3)持分の定めのない法人

    持分の定めのない法人とは、一般社団法人、一般財団法人、持分の定めのない医療法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、宗教法人など残余財産の分配請求権や払戻請求権がない法人や定款等に社員等が残余財産の分配請求権や払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人をいう。法人税法2条6号に規定する公益法人等も持分の定めのない法人に含まれる。

    ■持分の定めのない法人とは

    1. 定款、寄付行為若しくは規則(これらに準ずるものを含む。以下(2)において「定款等」という。)又は法令の定めにより、当該法人の社員、構成員(当該法人へ出資している者に限る。以下(2)において「社員等」という。)が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができない法人
    2. 定款等に、社員等が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人

    (平成20年7月25日付 資産課税課情報 第14号 13)

    ①持分の定めのない法人が個人から遺贈を受けたとき

    持分の定めのない法人(持分の定めのある法人で持分を有する者がないものを含む。以下同じ。)は、特定の場合に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66④⑥)。特定の場合とは、遺贈者等の親族その他これらの者と特別の関係がある者の贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるときをいう(相法66④⑥、相令33③)。

    図表Ⅱ-29 持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となる場合

    持分の定めのない法人が想像税の納税義務者となる場合
    持分の定めのない法人が想像税の納税義務者となる場合

    持分の定めのない法人を設立するために財産の提供があった場合についても同様の扱いとなる(相法66④)。

    (注)相続税法で、持分の定めのない法人が個人とみなされるときは、相続税が課税されるが、(相続税法で個人とみなされたときも)法人格を有することに変わりはないので、遺贈資産は時価で譲渡されたものとみなされる(所法59①)。含み益のある資産ならば譲渡所得課税の対象となる(参照:個人から法人に贈与する場合)。

    不当に減少する結果となると認められるときとは、持分の定めのない法人に対する財産の贈与又は遺贈があった場合に、贈与又は遺贈の時において、法人の役員等の構成・機能、収入・支出の経理、財産の管理状況、解散の時の残余財産の帰属、その他の定款・寄付行為の定め等からみて、贈与者・遺贈者又はその同族関係者が提供又は贈与された財産を私的に支配し、その使用、収益を事実上享受し、あるいはその財産が最終的にこれらの者に帰属するような状況にあるときをいう。財産の贈与や遺贈がない場合に比べ、同族関係者らの相続税又は贈与税の負担が減少する結果となるといい得れば足りる。結果的にいかなる者にどれほどの贈与税等の負担の減少をきたしたかを確定する必要はない(同旨:昭和49.9.30東京地裁、税資76号906頁)。

    相続税法施行令33条は、不当に減少する結果となると認められるときについて「適正要件」を欠く場合と定めている。同施行令に定める適正要件を要約すると次のとおりである。

    イ 運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと

    ロ 贈与者、設立者、役員等に特別の利益を与えないこと

    ハ 法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあること

    ニ 法令違反、公益に反する事実がないこと

    上述の(イ)運営組織が適正であること及び(ロ)特別の利益を与えないことの二点につき、通達は詳細な規定を置いている(個別通達:昭和39年6月9日付直審(資)24、直資77、平成20年7月8日付課資2-8改正「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び公益法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」(以下、「昭39直審(資)24」という))。

    図表Ⅱ-30 持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となるとき

    原則:法人税の納税義務者


    ■法令:遺贈者等の親族その他これらの者と特別の関係がある者の贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるとき(相法66④⑥)

    適正要件


    ●施行令:不当に減少する結果となるときとは、次の適正要件から外れた運営組織や事業運用がなされた場合をいう(相令33③)

    1. 運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと
    2. 遺贈者、設立者、役員等に特別の利益を与えないこと
    3. 法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあること
    4. 法令違反、公益に反する事実がないこと

    ★通達:運営組織が適正であることとは、遺贈のあった時点だけでなく将来においても運営組織が適正でなければ組織が私的に支配され、贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となるとの観点から、①定款、寄付行為、規則などに理事及び監事の定数、理事会及び社員総会の定足数など一定の事項が定められていること(注)、②事業運営及び役員等の選任等が定款等に基づき適正に行われていること及び③事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していることであり、特別の利益を与えないこととは、遺贈等をした者、法人の設立者、社員若しくは役員等及びこれらの親族、特殊関係者、同族法人等一定の範囲の者が法人所有財産の私的利用、余裕金の運用、有利な条件での金銭の貸付、無償又は低廉譲渡などをすることとされている(昭39直審(資)24、資産課税課情報第14号)。

    (注)通達は持分の定めのない法人を次の三類型に分け、必要的定款記載事項を詳細に定めている。

    1. 一般社団法人
    2. 一般財団法人
    3. 学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、宗教法人その他の持分の定めのない法人

    ②一般の篤志家からの遺贈があった場合の判定について

    財産の遺贈等(寄付)の中には、財産の遺贈等を受ける法人の運営と全く関係のない篤志家からなされるものもあり、このような場合には、その法人からその贈与をした篤志家に特別の利益が与えられることはおよそ考えられない。

    そこで、次の要件を二つとも具備している場合は、適正要件の(イ)「運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと」を満たさないときであっても、(ロ)から(ニ)までの要件を満たしているときは、「相続税又は贈与税の負担が不当に減少すると結果となると認められるとき」に該当しないものとして取り扱うこととされている(昭39直審(資)24、平成20年7月5日:資産課税課情報14号)。

    • 遺贈者が遺贈を受けた法人の理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの及びこれらの者の親族と遺贈者間には親族関係等の特殊関係がない場合であり、
    • これらの者が、法人の財産の運用及び事業の運営に関して私的に支配している事実がなく、将来も私的に支配する可能性がないと認められる場合

    ③公益事業用財産の相続税の非課税規定の不適用について

    持分の定めのない法人が故人とみなされるときとは、事業運営が特定の者や一族の支配に服し、特別関係者に特別の利益を与える場合に該当している場合である。従って、同様の欠格事由を定める公益事業用財産の相続税の非課税規定の適用要件に該当する余地はない(相法12①3、昭39直審(資)24)。

    ④判定の時期等

    相続税法66条4項の規定を適用すべきかどうかの判定は、遺贈等の時を基準としてその後に生じた事実関係をも勘案して行うのであるが、遺贈等により財産を取得した法人が、財産を取得した時には相続税法施行令33条3項《人格のない社団又は財団等に課される贈与税等の額の計算の方法等》各号に掲げる要件を満たしていない場合においても、当該財産に係る相続税の申告書の提出期限又は更正若しくは決定の時までに、当該法人の組織、定款、寄付行為又は規則を変更すること等により同項各号に掲げる要件を満たすこととなったときは、当該遺贈等については相続税法66条4項の規定を適用しないこととして取り扱われる(昭39直審(資)24「17」)。

    図表Ⅱ-31 法人に対する遺贈に係る課税関係整理表

    遺贈者受遺者課税形態
    個人営利法人法人税の納税義務者(全所得課税)
    代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団無条件に個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66①)
    公益を目的とする事業を行う者ならば、受遺財産が非課税財産となる場合あり(相法12①三、相令2)
    持分の定めのない法人法人税の納税義務者であるが、収益事業に限り課税(法法7)
    相続税の不当減少となる場合に限り、個人とみなされ相続税の納税義務者となる(相法66④)
    個人とみなされ相続税の納税義務者となったときに公益目的事業用財産非課税規定(相法12①三、相令2)の適用余地はない
  • 受遺者の住所地や取得した財産の所在地による相続税の納税義務

    受遺者の住所地や取得した財産の所在地による相続税の納税義務

    (1)相続税の納税義務者となる受遺者

    課税は国家主権の表れであり、納税義務書は原則として日本国内に住所を有している者及び日本国内の財産を取得する者である。遺贈(死因贈与を含む。)においても、財産を取得した者が日本国内に住所を有していれば、遺贈を受けた財産が海外にあっても受遺者は相続税の納税義務者となる。これを居住無制限納税義務者という(相法1の3一、2①)。

    また、遺贈を受けた財産が日本国内にある場合は、たとえ、受遺者が海外に居住していても相続税の納税義務者となる。このような者を制限納税義務者という(相法1の3二、2②)。

    図表Ⅱ-22 原則的な考え方

    原則的な考え方
    原則的な考え方

    この原則を貫くと、次のようなケースでは相続税を課することができないこととなる。

    • 受遺者は海外に居住している。
    • 遺贈する財産は海外にある。

    富裕層の子弟が海外に移住することが珍しくなくなり、親が所有する多額の資産を海外に移した後に、海外に住所を有する子弟に海外財産を贈与すると、海外に住んでいる子弟には我が国の贈与税の増税義務が生じない。これを放置すると課税の公平性を著しく欠くこととなる。

    そこで、平成12年度の税制改正で無制限納税義務者の概念を拡張し、受遺者が日本国籍を有し、かつ、遺贈者又は受遺者のいずれかが遺贈を受けた日(相続開始日)前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有していれば、遺贈により取得した財産の所在地を問わず取得財産の全てについて納税義務を生ずることとした。日本国内に住んではいないが取得した全ての財産につき無制限に納税義務を負うという意味で、非居住無制限納税義務者という(相法1の3二、2①)。そしてさらに平成25年度の税制改正では非居住無制限納税義務者に、日本国内に住所を有していない個人で日本国籍を有しない者が、日本国内に住所を有する者から遺贈により取得した場合が加えられた(この改正は平成25年4月1日以後の遺贈により取得する国外財産に係る相続税について適用される)。非居住無制限納税義務者と居住無制限納税義務者を総じて無制限納税義務者という。

    図表Ⅱ-23 拡張された無制限納税義務者の要件

    拡張された無制限納税義務者の要件
    拡張された無制限納税義務者の要件

    図表Ⅱ-24 相続税納税義務者の判定に係るフローチャート

    相続税納税義務者の判定に係るフローチャート
    相続税納税義務者の判定に係るフローチャート

    (注)・特定納税義務者とは、相続時精算課税制度の適用を受けているものをいう。相続開始時に財産を取得しなくても、国内に住所を有していなくても、相続税の納税義務者になる。

    ・住所・国籍の有無の判断は財産取得の時による。

    図表Ⅱ-25 納税義務者の区分と課税対象財産の範囲

    納税義務者の区分と課税対象財産の範囲
    納税義務者の区分と課税対象財産の範囲

    (注)相続時精算課税適用財産とは、被相続人から贈与により取得した財産で相続税法21条の9第3項の規定の適用を受けるものをいう。

    図表Ⅱ-26 受遺者の納税義務の範囲

    受遺者の納税義務の範囲
    受遺者の納税義務の範囲

    ■参考 その他の納税義務者に関する用語

    特定納税義務者

    相続又は遺贈により財産を取得しなかった者でも、被相続人から贈与を受け、相続時精算課税制度を適用している者は、相続時精算課税制度の適用を受ける財産(過去に贈与を受けた財産)を相続又は遺贈により取得したとみなされ、相続税の納税義務者となる。これを特定納税義務者という (相法1の3四、21の16①) 。

    ■この法律の施行地とは

    相続税法は、その附則(昭和25年法附則2)で「この法律は、本州、北海道、四国、九州及びその附属の島(政令で定める地域を除く。) に、施行する。 」こととされ、同施行令附則2で「当分の間、歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島を除く。」と定められている。

    ■住所とは

    「住所」たは、各人の生活の本拠をいう(民法22)。生活の本拠であるかどうかは、客観的事実によって判定し、同一人について同時に二カ所以上の住所はないものとされている(相基通1の3・1の4共-5)。

    相続若しくは遺贈又は贈与により財産を取得した時において、その取得した者が法施行地を離れている場合であっても、国外出張や国内興業等により一時的に法施行地を離れているにすぎない者については法施行地に住所があることとなる。留学生や国外勤務者については、その住所の判定が明らかでないため、相続税法基本通達1の3・1の4共-6でその者が次に掲げる者に該当する場合(相基通1の3・1の4共-5により住所が明らかに法施行地以外にあると認められる場合を除く。)は、その者の住所は、法施行地にあるものとして取り扱うこととされている。

    イ 学術、技芸の習得のため留学している者で法施行地にいる者の扶養親族となっている者

    ロ 国外において勤務その他の人的役務の提供をする者で国外における当該人的役務の提供が短期間(おおむね一年以内である場合をいうものとする。)であると見込まれる者(その者の配偶者その他生計を一にする親族でその者と同居している者を含む。)。

    ■FATCAとForm3520 Form8938 FinCEN Form 114

    米国に国籍や永住権がある相続人や受遺者が日本国内の金融機関に口座を有する場合、金融機関から米国歳入庁に情報が送られる(FATCA)。

    また、米国に永住権を持つ相続人や受遺者が年間10万ドルを超える遺産を受け取った場合、IRSに報告しなければならない(From3520)。(米国からみた)外国に一定の残高を超える金融資産を有する者は外国金融資産報告書(Form8938)を申告書(Form1040)に添付して提出しなければならない。

    別途、海外の銀行や証券会社などの金融機関に金融資産を保有する米国市民等は、前年中において合計最高残高が1万ドルを超えた場合に、米国財務省に対して金融資産報告書(FinCEN Form 114 / 旧TD F 90-22.1)を6月30日までに提出しなくてはならない。

    提出を怠っている場合には、ペナルティが課される。

    米国に永住権を有する相続人(日本国籍との二重国籍者等)は注意が必要。

    (2)財産の所在

    財産の所在の判定について、相続背司法10条に財産の種類別に詳細な規定が図表Ⅱ-27のとおり設けられている。

    図表Ⅱ-27 相続税法10条に定める財産の種類別の所在の判定

    財産の種類所在
    ①一動産若しくは不動産又は不動産の上に存する権利。その動産又は不動産の所在
    船舶又は航空機船籍又は航空機の登録をした機関の所在
    鉱業権若しくは租鉱権鉱区又は採石場の所在
    漁業権又は入漁権両刃に最も近い沿岸の属する市町村又はそれに相当する行政区画
    金融機関に対する預金、積金又は預託金で以下のもの
    ①銀行又は無尽会社に対する預金、貯金、積金
    ②農業協同組合、農業協同組合連合会、水産業協同組合、信用協同組合、信用金庫、労働金庫又は商工組合中央金庫に対する預金、貯金又は積金
    その預金、貯金、積金又は預託金の受入れをした営業所又は事務所の所在
    保険金その保険の契約にかかる保険会社の本店若しくは主たる事務所の所在
    退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与当該給与を支払ったものの住所又は本店若しくは主たる事務所の所在
    貸付金債権その債務者の住所又は本店若しくは主たる事務所(以下「住所等」)の所在
    債権若しくは株式、法人に対する出資又は外国預託証券(株主との間に締結した契約に基づき株券の預託を受けたものが外国において発行する有価証券でその株式に係る権利を表示するものをいう。)社債若しくは株式の発行人、出資のされている法人又は有価証券に係る外国預託証券に係る株式の発行法人
    合同運用信託、投資信託又は特定目的信託に関する権利信託の引受けをした営業所又は事業所の所在
    特許権、実用新案権、意匠若しくはこれらの実施権で登録されているもの
    商標権又は回路配置利用権、育成権若しくはこれらの利用権で登録されているもの
    その登録をした機関の所在
    十一直策権、出版権又は著作隣接権でこれらの権利の目的物が発行されているものこれを発行する営業所又は事業所の所在
    十二第7条の規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる金銭そのみなされる基因となった財産の種類に応じ、この条に規定する場所
    十三一~十二の財産で、営業所又は事業所を有する者の当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の権利その営業所又は事業所の所在
    国債、地方債法施行地(日本国内)
    外国又は外国の地方公共団体その他これに準ずるものの発行する公債外国
    上記以外の財産当該財産の権利者であった被相続人又は贈与者の住所の所在

    (3)財産の所在の判定における留意点

    ①財産の所在の判定

    当該財産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した時の現況により判定する(相法10④)。

    ②船籍のない船舶の所在

    相続税法10条1項1号に掲げる「船舶」とは、船籍に関する定めのある法令の適用のある船舶をいうのであるから、船籍のない船舶については、その所在により判定するものとする(相基通10-1。参考:船舶法(明治32年法律46号)、小型船舶の登録等に関する法律(平成13年法律102号))。

    ③生命保険契約及び損害保険契約の所在

    死亡保険契約(生命保険契約及び損害保険契約)については、保険会社などの本店所在地、主たる事務所の所在地により判定する(相基通10-2)。

    「保険金」については、平成15年税制改正により、その所在が明確にされたが、保険事故が発生する前の「契約」の所在については、明文上明らかでないため「保険金」に準じて「契約」も判定するものとして取り扱うものとされている。

    ④貸付金債権の意義

    貸付金債権(相法10①七)には、いわゆる融通手形による貸付金を含み、売掛債権、いわゆる商業手形債権その他事業取引に関して発生した債権で短期間内(おおむね六ヶ月以内)に返済されるべき性質のものは含まれないものとされている(相基通10-3)。短期貸付債権は、同法同項13号に規定する営業上又は事業上の権利として、その営業所又は事業所の所在により判定されることになる(相法10①十三)。

    ⑤株式に関する権利等の所在

    株式(相法10①八)には、株式に関する権利を含むものとし、「出資」には、出資に関する権利を含むものとされている(相基通10-5)。

    株式に関する権利には、新株引受権、株式の引受による権利、新株無償交付期待権、配当期待権がり、これらはいずれも株式そのものではないが、配当や増資のあるときに株式に関連して生ずる権利といえる。また、出資に関する権利も同様といえる。したがって、これらの権利は株式又は出資の所在と同様に考える。

    ■現金は動産

    民法は不動産以外の物(有体物)は全て動産と規定している(民法86②)。現金は価値を表象する動産である。

    • 外国に居住する子に対し外国為替により電信送金した場合に、その送金に先立って父と子の間で、送金の原資にあたる邦貨による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し、その履行のために送金手続きが執られたとみることができ、子は贈与契約締結時(遅くとも送金手続きの終了時)に父が日本国内に有していた金銭の贈与を受けたものというべきである(平14.9.18東京高裁)。

    ■受益者課税信託の信託受益権の所在地

    受益者課税信託の信託受益権の所在地は、信託財産の種類により相続税法10条に基づき判定する。信託受益権として信託の引受けをした信託会社の所在地により判定するのではない。

    適正な対価を負担することなく受益権を取得した受益者課税信託の受益者は、信託された資産と負債の贈与を受けたものとされる。

    受益者が贈与により取得したとみなされる財産は、信託受益権ではなく、信託財産を構成する個々財産であるから、受贈財産の所在地は個々の財産の種類により、判定する(相法10①九、9の2⑥)。

  • 受遺者の納税義務概要

    受遺者の納税義務概要

    相続税の納税義務者は原則として個人であるが、人格のない社団や財団は個人とみなされ、持分の定めのない法人でも個人とみなされる場合がある。また、遺贈(死因贈与を含む。)により財産を取得した個人及び個人とみなされる者であってもその者の住所地や財産の所在地により納税義務者とならない場合もある。遺贈者である被相続人から生前に贈与を受け相続時精算課税制度の適用を受けている者は相続・遺贈により財産を取得しなくても納税義務者となる。

    図表Ⅱ-21

    原則的な納税義務者個人無制限納税義務者居住無制限納税義務者相続又は遺贈により財産を取得した時に相続税法の施行地内に住所を有する者
    非居住無制限納税義務者相続又は遺贈により財産を取得した時に相続税法の施行地内に住所を有しない者のうち①日本国籍を有する者(その者又は被相続人のいずれかが相続開始前5年以内に相続税法の施行地内に住所を有したことがあるものに限る。)又は②日本国籍を有しない者(その組織又は遺贈に係る被相続人が相続開始の時において相続税法の施行地内に住所を有していた場合に限る。)
    制限納税義務者相続又は遺贈により財産を取得した時に相続税法の施行地内に住所を有していない者(非居住無制限納税義務者に該当するものを除く。)
    特定納税義務者贈与(死因贈与を除く。)により相続税法21条の9③(相続時精算課税の選択)の規定の適用を受ける財産を取得した者(上記に掲げる者を除く。)
    例外的な納税義務者人格なき社団・財団常に個人とみなされる
    持分の定めのない法人持分の定めのない法人が特定の一族に支配される可能性がある場合など、持分の定めのない法人が受遺者となることにより、遺贈者の親族などの相続税の負担が不当に減少する結果となる場合限られる(相法66④)
  • 高度の公益事業を行う個人及び人格なき社団・財団に対する相続又は遺贈に係る非課税財産規定

    高度の公益事業を行う個人及び人格なき社団・財団に対する相続又は遺贈に係る非課税財産規定

    POINT

    公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業(以下、「高度の公益事業」という。)のみを専念して行う個人が相続又は遺贈により、又は高度の公益事業のみを目的事業として行う社団・財団が遺贈により、取得した財産で公益を目的とする事業の用に供することが確実なものは非課税財産とされ相続税は課税されない(相法12①三)。

    ただし、相続又は遺贈により取得した財産が相続税の非課税財産となるためには、事業者が個人の場合には、受遺者、その親族、その他その者と相続税法64条1項に規定する特別の関係がある者(以下、「特別関係者」という。)に対し高度の公益事業から特別の利益を与えるようなことがない場合に限られ、代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団(以下、「社団等」という。)の場合には、社団等が一族支配されていないこと及び社団等が営む高度の公益事業から役員や遺贈者の親族・特別関係者が特別の利益を得ていない場合に限られる(相法12①三、相令2)。

    また、相続又は遺贈を受けた日から二年を経過した日において相続又は遺贈により取得した財産を高度の公益事業の用に供していないときは非課税財産とはならない(相法12②)。

    公益事業とは不特定多数の者の利益に寄与する事業をいう。公益事業を行い個人に賛同し遺贈を行っても受遺者に課税すると、民間人による公益事業の保護育成を阻害することとなる。また、公益事業を営んでいる個人が亡くなり相続が開始した場合、公益事業用財産が課税対象となると事業を承継した相続人の事業運営上の負担となる。そこで、相続税法は、公益を目的とする事業を行う者で、その事業活動により公益の増進に寄与することが著しいと認められる者が相続又は遺贈により取得した財産で、その公益を目的とする事業の用に供することが確実なものは、相続税の課税価格に算入しないこととしている(相法12①三)。なお、本条には死因贈与は含まれていないことに注意が必要である。

    対象となる公益事業を行う者は、相続税の納税義務者である自然人又は社団等に限られる。持分の定めのない法人は、遺贈者の親族その他特別関係者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少する結果となる場合に限り、相続税の納税義務者となる。持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となるときは、持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となるときは、同時に本規定の除外規定に抵触するので、受遺財産が非課税財産となることはない。

    (1)公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業

    公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業とは、公益を目的とする事業のうち、事業の種類、規模及び運営がそれぞれ次のイからハまでに該当すると認められる事業をいう。

    イ 事業の種類

    (イ) 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)2条4号《定義》に規定する公益目的事業

    (ロ) 社会福祉法(昭和26年法律第45号)2条2項各号及び3項各号《定義》に掲げる事業

    (ハ) 更生保護事業法(平成7年法律第86号)2条1項《定義》に掲げる更生保護事業

    (ニ) 学校教育法(昭和22年法律第26号)1条《学校の範囲》に規定する学校を設置運営する事業

    (ホ) 育英事業

    (ヘ) 科学技術に関する知識の普及又は学術の研究に関する事業

    (ト) 図書館若しくは博物館又はこれらに類する施設を設置運営する事業

    (チ) 宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業

    (リ) 保健衛生に関する知識の普及その他公衆衛生に寄与することとなる事業

    (ヌ) 政治資金規正法(昭和23年法律第194号)3条《定義等》に規定する目的のために政党、政治団体の行う事業

    (ル) 公園その他公衆の利用に供される施設を設置運営する事業

    (ヲ) (イ)から(ル)までに掲げる事業を直接助成する事業

    ロ 事業の規模

    事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有しており、かつ、その事業を行うために必要な施設その他の財産を有していること。

    ハ 事業の運営

    (イ) 事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とする全ての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。

    (ロ) 公益の対価は、還俗として無料(事業の維持運営についてやむを得ない事情があって対価を徴収する場合においても、その対価は事業の与える公益に比し社会一般の通念に照らし著しく低廉)であること。

    (2)専ら公益の増進に寄与するところが著しい事業を行う者

    イ 個人の場合

    専ら公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行う者とは、その者が個人である場合には、相続開始時点において現に公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業のみを専念して行っている者をいうが、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前から公益事業を行っていない場合であっても、財産を取得すると同時に被相続人の公益事業を承継して行うときは、取得財産は相続税の非課税規定に該当する者とされる(相令2、相基通12-5)。

    ただし、次のような場合には非課税規定は適用されない。

    1. 相続税の申告期限までに事業の用に供される財産が未分割である場合
    2. 公益事業の規模が被相続人の行っていた事業の規模より著しく縮小される場合

    なお、公益事業を行う者が次の者(以下、「公益事業者等」という。)に対しその事業に係る施設の利用、余裕金の運用その他その事業に関し特別の利益を与えるような場合は、公益事業を行っているとしても、その事業を私的に利用している局面も認められるため非課税財産として扱わない旨定められている(相令2ただし書き)。

    1. 公益事業を行う者若しくはその親族、特別関係者
    2. その財産の相続に係る相続人又はその財産の遺贈をした者若しくはその親族、特別関係者

    特別関係者とは、①内縁関係にある者及びその者の親族で生計を一にしている者、②使用人及び使用人以外の者で当該個人から生計をみてもらっている者並びにそれらの親族で生計を一にしている者をいう(相令31)。

    特別の利益を与えることとは、次のような場合をいう。

    1. 公益事業者等が役務を提供し、又は公益事業者等の財産を利用している等の有無に関係なく、高度の公益事業に係る金銭その他の財産の支給を受けていること。
    2. 公益事業者等が高度の公益事業に係る余裕金を生活資金に利用し、又は損施設を居住の用に供している等これらの財産を無償又は有償で利用していること。
    3. 公益事業者等が利息の有無に関係なく、高度の公益事業に係る金銭の貸付を受けていること。
    4. 公益事業者等が対価の有無に関係なく、高度の公益事業に係る資産を譲り受けていること。

    ロ 公益事業を行う者が社団等である場合

    公益事業を行う者で財産の寄贈を受け、相続税の納税義務者となる者は個人に限られない。社団等が遺贈を受けた場合は、相続税法では個人とみなされ相続税の納税義務を負う(相法66)。これらの社団等が遺贈を受けたときに受遺財産が非課税財産となるためには、遺贈を受けたときに、公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業(高度の公益事業)のみをその目的事業として行う社団等でなければならない(相法21の3①三、昭和39直審(資)24「3」)。

    受遺者である社団等が次のとおり、特定の者に支配されていたり、施設の利用、余裕金の運用など事業運営に関連し、関係者に対し特別の利益を与えているような場合は、社団等が公益事業を行っているといっても、事業が私的に利用されている面も認められるため非課税財産として扱わない旨定められている(相令4の5、相令2ただし書き)。

    1. 当該社団等の役員その他の機関の構成、その選任方法その他その人格にない社団等の事業の運営の基礎となる重要事項(注1)について、その事業の運営が特定の者又はその親族、特別関係者の意思に従ってなされていると認められる事実があること(注2)
    2. 次に掲げる者に対して当該社団等の事業に係る施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属その他その事業に関し特別の利益を与えること(注3)
      1. 当該社団等の機関の地位にある者
      2. 当該地位にある者又は当該財産の贈与をした者の親族
      3. 特別関係者

    特別関係者とは、①内縁関係にある者及びその者の親族で生計を一にしている者、②使用人及び使用人以外の者で当該個人から生計をみてもらっている者並びにそれらの親族で生計を一にしている者をいう(相令31)。

    (注1) 事業の運営の基礎となる重要事項とは、役員その他の機関の構成、その選任方法の他、次に掲げる事項がこれに該当するものとして取り扱われている(昭55直資2-182改正)。

    1. 当該事業の遂行により与えられる公益を受ける者の選任、与えられる公益の種類及びその程度の決定
    2. 事業の運営に関する諸規則の制定
    3. 事業計画及び予算の決定並びに決算の承認
    4. 事業の廃止又は縮小
    5. (4)により不要となった財産の処分

    (注2) 特別関係者の意思に従ってなされていると認められる事実があることとは、社団等の運営の基本となる規約等に次の(1)から(4)までの事項が定められていないこと又は社団等の事績に(5)から(7)までの事実が認められることをいうものとして取り扱うとされている(昭55直資2-182改正)。

    1. 特定の者及び特別関係者が社団等の構成員又は役員その他の機関の地位にある者の総数の三分の一以下であること。
    2. 社団等の機関の地位にある者の選任は、社団等の代表者の指名又は委嘱によるなど恣意的に選任されることなく、たとえば、社団等の代表者の指名又は総会若しくは構成に選任されている評議員会の選挙により選出されるなど、その行う事業の種類に応じ、機関の地位にあることが適当と認められる者がその地位に選任されること。
    3. 事業の種類に応じ相当数の評議員、運営委員又はこれらの者に準ずるもの(評議員等)を置くこと。
    4. 重要事項の決定又は変更は、評議員等の意見を聴き、役員の全部又は大分bんの賛成を得てされること。
    5. 公益が主として特定の者及び特別関係者に与えられること。
    6. 高度の公益事業のために支出される費用の額が社団等の収入からみて過小であるなど社団等の経理がその事業の目的に照らして適性でないこと。
    7. 社団等の運営がその規約等に違反して行われたこと。

    (注3) 社団等が特別の利益を与えることとは、社団等の機関の地位にある者、遺贈をした者又は特別関係者(以下、合わせて「運営者等」という。)について、たとえば、次に掲げる事実がある場合又はその事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱われている。(昭55直資2-182改正)

    1. 当該社団等の施設その他の財産を居住、担保、生活資金その他私的の用に利用していること。
    2. 当該社団等の余裕金を運営者等の行う事業に運用していること。
    3. 当該社団等が解散した場合に残余財産が運営者等に帰属することとなっていること。
    4. 当該社団等の他の従業員に比し有利な条件で、運営者等に金銭の貸付けをしていること。
    5. 当該社団等の所有する財産を運営者等に無償又は著しく低い対価で譲渡していること。
    6. 運営者等が過大な給与の支給を受け、又は当該社団等の機関の地位にあることのみに基づき報酬を受けていること。
    7. 運営者等の債務が社団等によって保証、弁済、免除又は引受けされていること。
    8. 当該社団等の事業の廃止等により、不要に帰する財産が運営者等に帰属することとなっていること。
    9. 当該社団等が運営者等から金銭その他の財産を過大な利息又は賃料で借り受けていること。
    10. 当該社団等が運営者等からその所有する財産を過大な対価で譲り受けていること、又は運営者等から公益を目的とする事業の用に供するとは認められない財産を取得していること。
    11. 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、運営者等が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他事業に係る契約の相手方となっていること。
    12. 事業の遂行により供与する公益を主として、又は不公正な方法で、運営者等に与えていること。

    (3)高度の公益事業を行う社団等が遺贈により取得した財産の範囲

    遺贈により取得した財産は、原則として遺贈により取得した財産そのものをいうのであるが、高度の公益事業を行う者が社団等である場合には、次に掲げる財産は、これに該当するものとして取り扱われる。

    1. 遺贈により取得した財産を譲渡して得た譲渡代金の全部又は当該譲渡代金及び譲渡代金により取得した財産の全部を当該事業の用に供することが各日である場合における当該財産
    2. 遺贈により取得した財産との交換により取得した財産(交換差金を取得した場合には交換差金の全部を含む。)を当該事業の用に供することが各日である場合の当該財産
    3. 遺贈により取得した財産の果実の全部を当該事業の用に供することが確実な場合における当該財産

    (4)相続又は遺贈により取得した財産を高度の公益を目的とする事業の用に供することが確実であることとは

    公益を目的とする事業の用に供することが確実なものとは、その財産について、相続開始の時においてその公益を目的とする事業の用に供することに関する具体的な計画があり、かつ、公益を目的とする事業の用に供される状況にあるものをいう。相続又は遺贈により取得した財産は、専ら高度の公益事業の用に供されることが必要であり、個人生活の用に供されるものや、個人の生活の用と併用される場合には、非課税とはならない(相基通12-3)。

    高度の公益事業を行う被相続人又は遺贈者から公益事業の用に供されている財産を相続又は遺贈により取得する場合において、取得財産が非課税財産に該当するためには、財産を取得する者が相続開始前から高度の公益事業を行う者であることが必要である。これは相続税の納税義務は、相続又は遺贈による財産の取得の時に成立する(通法15②四)とされていることに基づくものである(『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』p.254)。しかしながら、高度の公益事業の用に供されている財産を相続又は遺贈により取得した者が、財産を取得すると同時に公益事業を受け継いで行う場合には非課税財産として取り扱われる(相基通12-5)。

    相続又は遺贈により取得した財産は、公益を目的とする事業の用に供することが確実なものでなければならない。事業の用に供することが確実であるかどうかは、次により判断することとされている。

    1. 調査時において、相続又は遺贈により取得した財産が高度の公益事業の用に供されている場合には、その時までに当該事業以外の用に供されたことがなく、かつ、最初に当該事業の用に供した日から調査時まで引き続き当該事業の用に供されていること。
    2. 調査時において、相続又は遺贈により取得した財産が高度の公益事業の用に供されていない場合には、事業計画等から判断して財産取得の日から二年を経過した日までに当該事業の用に供されることが確実と認められること。

    (5)二年を経過した日においてなおその事業の用に供していない場合とは

    高度の公益事業を行う者が相続又は遺贈により取得した財産を取得から二年経過した日においてなおそのように供していない場合には非課税財産とならない。

    図表Ⅱ-20 公益事業用資産の相続又は遺贈に係る非課税規定

    公益事業用資産の相続又は遺贈に係る非課税規定
    公益事業用資産の相続又は遺贈に係る非課税規定

    ■参考通達:昭39直審(資)24

    次の個別通達は贈与税に関する通達であり、同通達には相続、遺贈についての記載はないが、贈与税の規定である相続税法施行令4条の5は、相続に係る同様の公益事業用財産の非課税規定である施行令2条を準用しているので、遺贈固有の規定である相続税法基本通達12-3から12-7と内容が重複しない1から8までは遺贈にも準用されると解される。

    昭39直審(資)24

    (公益を目的とする事業を行う者の範囲)

    1 相続税法(昭和25年法律第73号。以下「法」という。)第21条の3第1項第3号に規定する「公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるもの」とは、財産取得の時において相続税法施行令(昭和25年政令第71号。以下「法施行令」という。)第4条の5において準用する法施行令第25条に規定する公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業で、かつ、当該事業の運営等について同条各号に掲げる事実のないもの(以下11までにおいて、「法施行令第2条の規定に該当する事業」という。)を行っている者をいうのであるが、次に掲げる者もこれに該当するものとして取り扱うものとする。(昭55直資2-182改正)

    1. 財産取得の時においては、法施行令第2条の規定に該当する事業以外の公益を目的とする事業を行っていた者で、財産取得の日の属する年の末日までに、当該財産をその事業の用に供することにより法施行令第2条の規定に該当する事業を行うこととなったもの
    2. 財産取得の日の属する年の末日までに、当該財産を持って法施行令第2条の規定に該当する事業を開始した者

    (公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業)

    2 公益を目的とする事業のうち、事業の種類、規模及び運営がそれぞれ次の(1)から(3)までに該当すると認められる事業は、「公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業」に該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182、平8課資2-116、平12課資2-258改正)

    (1)事業の種類

    イ 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)第2条第4号《定義》に規定する公益目的事業

    ロ 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第2項各号及び第3項各号《定義》に掲げる事業

    ハ 更生保護事業法(平成7年法律第86号)第2条第1項《定義》に掲げる更生保護事業

    ニ 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条《学校の範囲》に規定する学校を設置運営する事業

    ホ 育英事業

    ヘ 科学技術に関する知識の普及又は学術の研究に関する事業

    ト 図書館若しくは博陸奥間又はこれらに類する施設を設置運営する事業

    チ 宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業

    リ 保健衛生に関する知識の普及又はその他公衆衛生に寄与することとなる事業

    ヌ 政治資金規正法(昭和23年法律第194号)第3条《定義等》に規定する目的のために政党、政治団体の行う事業

    ル 公園その他公衆の利用に供される施設を設置運営する事業

    ヲ イからルまでに掲げる事業を直接助成する事業

    (2)事業の規模

    事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有しており、かつ、その事業を行うために必要な施設その他の財産を有していること。

    (3)事業の運営

    イ 事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とする全ての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。

    ロ 公益の対価は、原則として無料(事業の維持運営についてやむを得ない事情があって対価を徴収する場合においても、その対価は事業の与える公益に比し社会一般の通念に照らし著しく低廉)であること。

    (専ら公益の増進に寄与するところが著しい事業を行う者)

    3 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条に規定する「専ら…公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行う者」とは、その者が個人である場合には公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業(以下6までにおいて「高度の公益事業」という。)のみを専念して行う者をいい、その者が法施行令第2条に規定する社団等(以下8までにおいて「社団等」という。)である場合には高度の公益事業のみをその目的事業として行う社団等をいうものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)

    (個人が特別の利益を与えること)

    4 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第1号に規定する「特別の利益を与えること」とは、高度の公益事業を行い者に対し財産を贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。以下同じ。)した者、当該事業を行う者又はこれらの者の親族その他これらの者と法施行令第2条に規定する特別関係がある者(以下7までにおいて、当該「親族その他これらの者と法施行令第2条に規定する特別関係がある者」を「特別関係がある者」という。)について、例えば、次に掲げる事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)

    1. これらの者が役務を提供し、又はこれらの者の財産を利用している等の有無に関係なく、高度の公益事業に係る金銭その他の財産の支給を受けていること。
    2. これらの者が高度の公益事業に係る余裕金を生活資金に利用し、又はその施設を居住の用に供している等これらの財産を無償又は有償で利用していること。
    3. これらの者が利息の有無に関係なく、高度の公益事業に係る金銭の貸付を受けていること。
    4. これらの者が対価の有無に関係なく、高度の公益事業に係る資産を譲り受けていること。

    (重要事項)

    5 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第2号に規定する「事業の運営の基礎となる重要事項」とは、役員その他の機関の構成、その選任方法の他、次に掲げる事項がこれに該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)

    1. 当該事業の遂行により与えられる公益を受ける者の選任、与えられる公益の種類及びその程度の決定
    2. 事業の運営に関する諸規則の制定
    3. 事業計画及び予算の決定並びに決算の承認
    4. 事業の廃止又は縮小
    5. (4)により不要となった財産の処分

    (特別関係がある者の意思に従ってなされていると認められる事実があること)

    6 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第2号に規定する「特別関係がある者の意思に従ってなされていると認められる事実があること」とは、社団等の運営の基本となる規則、規約その他の規定(以下6において「規約等」という。)に次の(1)から(4)までの事項が定められていないこと、又は社団等の事績に(5)から(7)までの事実が認められることをいうものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)

    1. 特定の者及びその者と特別関係がある者が社団等の構成員又は役員その他の機関の地位にある者の総数の3分の1以下であること。
    2. 社団等の機関の地位にある者の選任は、社団等の代表者の指名又は委嘱によるなど恣意的に選任されることなく、例えば、社団等の総会若しくは公正に選任されている評議員会の選挙により選出されるなど、その行う事業の種類に応じ、機関の地位にあることが適当と認められる者がその地位に選任されること。
    3. 事業の種類に応じ相当数の評議員、運営委員又はこれらの者に準ずるもの(以下6において「評議員等」という。)を置くこと。
    4. 「5」に掲げる慈雨用事項の決定又は変更は、評議員等の意見を聴き、役員の全部又は大部分の賛成を得てされること。
    5. 公益が主として特定の者及びその者と特別関係がある者に与えられること。
    6. 高度の公益事業のために支出される費用の額が社団等の収入からみて過小であるなど社団等の経理がその事業の目的に照らして適性でないこと。
    7. 社団等の運営がその規約等に違反して行われたこと。

    (社団等が特別の利益を与えること)

    7 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第3号に規定する「特別の利益を与える」とは、社団等の機関の地位にある者、贈与をした者又はこれらの者と特別関係がある者について、例えば、次に掲げる事実がある場合又はその事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)

    1. 当該社団等の施設その他の財産を居住、担保、生活資金その他私的の用に利用していること。
    2. 当該社団等の余裕金をこれらの者の行う事業に運用していること。
    3. 当該社団等が解散した場合に残余財産がこれらの者に帰属すること。
    4. 当該社団等の他の従業員に比し有利な条件で、これらの者に金銭の貸付けをしていること。
    5. 当該社団等の所有する財産をこれらの者に無償又は著しく低い対価で譲渡していること。
    6. これらの者が過大な給与の支給を受け、又は当該社団等の機関の地位にあることのみに基づき報酬を受けていること。
    7. これらの者の債務が社団等によって保証、弁済、免除又は引受けされていること。
    8. 当該社団等の事業の廃止等により、不要に帰する財産がこれらの者に帰属することとなっていること。
    9. 当該社団等がこれらの者から金銭資の他の財産を過大な利息又は賃貸料で借り受けていること。
    10. 当該社団等がこれらの者からその所有する財産を過大な対価で譲り受けていること、又はこれらの者から公益を目的とする事業の用に供するとは認められない財産を取得していること。
    11. 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他事業に係る契約の相手方となっていること。

    (贈与により取得した財産)

    8 「贈与により取得した財産」とは、原則として贈与により取得した財産そのものをいうのであるが、法施行令第2条の規定に該当する事業を行う者が社団等である場合には、次に掲げる財産は、これに該当するものとして取り扱う。

    1. 贈与により取得した財産を譲渡して得た譲渡代金の全部又は当該譲渡代金及び譲渡代金により取得した財産の全部を当該事業の用に供することが確実である場合における当該財産
    2. 贈与により取得した財産との交換により取得した財産(交換咲きを取得した場合には交換差金の全額を含む。)を当該事業の用に供することが確実である場合の当該財産
    3. 贈与により取得した財産の果実の全部を当該事業の用に供することが確実な場合における当該財産

    ■相続税法基本通達

    (「当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの」の意義)

    12-3

    法第12条第1項第3号に規定する、「当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの」とは、その財産について、相続開始の時において当該公益を目的とする事業の用に供することに関する具体的計画があり、かつ、当該公益を目的とする事業の用に供される状況にあるものをいうものとする。したがって、個人生活の用に供されるものは、これに該当しないことに留意する。

    (財産を取得した後公益事業の用に供しない場合)

    12-4

    法第12条第1項第3号に規定する、「宗教。慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者」から当該事業の用に供されている財産を相続又は遺贈によって取得した場合において、その取得した者が公益事業を行わないときはもちろんのこと、二年以内に公益事業を行うときであっても、当該財産を当該事業の用に供していないときは、相続税の課税価格に算入するものであるから留意する。

    (財産を取得した後公益事業を行う場合)

    12-5

    法第12条第1項第3号に規定する、「宗教。慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者」から当該事業の用に供されている財産を相続又は遺贈によって取得した者が、当該財産を取得すると同時に当該事業を受け継いで行う場合には、当該公益を目的とする事業の用に供されている財産については法第12条第1項第3号に掲げる財産に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、次の(1)又は(2)に該当する場合においては、この限りでない。(昭57直資2-177改正)

    1. 相続税の申告書の提出期限までに当該事業の用に供される財産が未分割である場合
    2. 当該事業の規模が当該相続又は遺贈に係る被相続人が行っていた当該事業の規模より著しく縮小される場合

    (「当該財産を当該公益を目的とする事業の用に供していない場合」の意義)

    12-6

    法第12条第2項(法第21条の3第2項の規定によりこの規定を準用する場合を含む。)に規定する「当該財産を当該公益を目的とする事業の用に供していない場合」とは、財産を取得した者が当該財産を現実に当該公益を目的とする事業の用に供している場合以外の場合ををいうのであるから、当初当該財産を公益を目的とする事業の用に供していても二年を経過した日現在において、その用に供しなくなった場合をも含むことに留意する。

    (公益事業の用に供しなかった財産)

    12-7

    法第12条第2項の規定により、財産を取得した日から二年を経過した日において、なお当該財産を法第12条第1項第3号に規定する公益を目的とする事業の用に供していないために、当該財産の価額を課税価格に算入することになった場合においては、当該財産を取得したときの時価によって評価し、相続税の課税価格の計算の基礎に算入するものとする。この場合において、その者については延滞税及び各種加算税の納付義務があるのであるから留意する。(昭46直審(資)6改正)

  • 遺贈の放棄

    遺贈の放棄

    特定遺贈の放棄

    特定遺贈は、遺言者の死亡後、いつでも放棄することができる(民法986①)。特定遺贈とは、「妻に自宅と全ての上場株式を与える」というように、特定の具体的な財産的利益を遺贈することである。受遺者に債務だけを負担させる遺言は遺贈ではない(大判大6.7.5.民録23.1276)。「長男に貸している貸付金を免除する」というように債務の免除をすることもできる。遺贈の効果は遺言者死亡の時に遡及する(民法986②)。

    受遺者が遺贈を放棄せずに死亡すると、その相続人が承認又は放棄をすることができる(民法986。ただし、遺言者が別段の意思を表示したときはそれに従う。)(1)。特定遺贈の内容が可分であるときは、一部放棄もできる。しかし、一部放棄を禁ずる遺言であればそれに従うべきである(2)

    (1)受遺者が遺贈者の死亡以前に死亡した場合は遺贈の効力が生じない(民法994①)。ここは、遺贈者が死亡し遺贈の効力が生じた後に受遺者が死亡した場合のことである。

    (2)『新版注釈民法(28)』p.210。

    債務免除の遺贈について放棄できるか否かについては争いがある。生前における債務免除が、債権者の単独行為により効果が生ずる(民法519)のに対し、遺言による債務免除についてだけ放棄することができるのは均衡がとれないことと、債務免除は受遺者にとり経済的利益に働くことから多数説は放棄できないとしている(3)

    (3)『新版注釈民法(28)』p.210。遺贈されたものは確定的に受遺者に帰属する。理論上、受遺者から他の相続人への分配は贈与税の課税対象となる。

    放棄により、受遺者が受け取るべきであったものは、遺言に別段の定めがない限り、相続人に帰属する(民法995)。受遺者がいったん遺贈を承認した後に個々の受遺物についての権利を放棄することは自由だが、これは遺贈の放棄ではない(4)。放棄の効果は遺言者の死亡の時に遡及する(民法986②)。撤回できない(民法986①)。法律行為の規定による取消の主張は短期間に限って認められる(民法989条による919条3項の準用)。

    (4)『新版注釈民法(28)』p.209。

    遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者)その他の利害関係人には、受遺者に放棄するかどうか催告する権利が与えられている(民法987)。

    特定遺贈を受けた受遺者が相続人ならば、遺贈を放棄しても法定相続人として遺産分割協議に参加することができるが、受遺者が法定相続人以外の者ならば、放棄をした部分は相続する権利がなくなる。

    包括遺贈の放棄

    包括遺贈とは、「遺産の全部を与える」とか「遺産の三分の一を与える」というように、遺産(積極財産及び消極財産)の全部又は一部の割合を持ってする遺贈をいう。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)。相続人と共に遺産を共有する状態になり、債務も承継し、具体的にどの財産をもらうか決めるために遺産分割協議にも参加することになる。

    相続人と異なる点は、包括受遺者には遺留分がないこと、条件や負担をつけることができることである。受遺者が相続開始以前に死亡すると、原則として遺贈は失効する。代襲相続も生じない(民法994)。

    包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)から包括遺贈の承認・放棄は特定遺贈と異なり法定相続人が行う相続放棄・承認・限定承認と同じ手続きで行う(民法915)。もし、遺贈者(被相続人)が債務超過であるときは、包括受遺者には、受遺者固有の財産で承継した債務を支払う義務が生じる(民法920)。

    このように、包括遺贈を受けた者は相続人と同様の立場に立つ。包括受遺者が複数いる場合や、財産の三分の一を与えるというような割合的包括遺贈を受けた場合は他の相続人と遺産分割協議をすることにより、承継したい財産を選ぶことができる。ところが、「財産の全部をあなたにあげる」という全部包括遺贈を受けた場合は、他の相続人と遺産分割協議ができない。全部包括受遺者は全ての権利義務を承継するか家庭裁判所で放棄手続きをとるかの二者択一選択権しかない。

    遺贈を受けた財産のうち一部だけをもらうことができないので、仲のいい家族が遺産を相続するのに包括遺贈が障害となることがある。被相続人(遺贈者)が法定相続人以外の家族に全ての財産を包括遺贈したところ、法定相続人である家族が遺産の一部を必要とするような場合である。

    【設例】

    被相続人甲は独身で亡くなった。親族は、母Aと妹Bである。甲は全財産を妹Bに遺贈する遺言を残したところ、甲の遺産の仲に母Aが居住している土地と建物があった。母Aは、自分が住んでいる家は自分が相続したいと言い出した。相続人は母Aであり、妹Bは受遺者だが相続人ではない。全財産をBに与えるという内容の遺言であるから、この遺贈は、特定遺贈ではなく包括遺贈である。包括遺贈の受遺者は特定遺贈のように自由に遺贈の一部放棄ができない(5)

    (5)『新版注釈民法(28)』p.221。遺贈に関する民法986条ないし989条は特定遺贈に関する規定であり、包括遺贈には適用されない。

    図表Ⅱ-14 妹に遺産全部の包括遺贈があったケース

    妹に遺産全部の包括遺贈があったケース
    妹に遺産全部の包括遺贈があったケース

    包括遺贈は相続人と同一の権利義務を有するから、相続放棄をするならば自己のために包括遺贈があったことを知ったときから三ヶ月以内に承認又は放棄をしなければならない(民法915)(6)。期間内に限定承認又は放棄をしないと、包括遺贈を単純承認したものとみなされる(民法921②)(7)

    (6)限定承認をすることもできるが、他に相続人や包括受遺者がいる場合には、これらの者と共同でなければ限定承認をすることはできない(民法923)。

    (7)遺産が債務超過の時は、包括受遺者は自己の固有財産を持ってしても弁済の責を負わなければならない(無限責任)ことになる(民法920)。 『新版注釈民法(28)』p.221。

    Bは、母Aと争う気持ちも必要もない。母Aの住んでいる家は母Aに相続してもらいたい。しかし、裁判所で相続放棄をすると、全ての遺産が唯一の相続人である母Aに帰属してしまう。もちろん、母Aが亡くなれば、娘Bが相続するが相続税を二度負担することになりかねない。

    母Aは、遺留分権利者である(8)。このケースでの遺贈は相続人である母Aの遺留分を侵害している。ただ、遺留分を侵害しても遺贈そのもは有効である(9)。母Aは遺留分権利者として遺留分減殺請求をしないかぎり、遺産について何らの権利も取得しない。

    (8)民法は、兄弟姉妹を除く相続人(配偶者・子・直系尊属)を遺留分権利者としている(民法1028)。

    (9)全財産を第三者に全部遺贈する遺言も有効である(最判昭25.4.28民集4・4・152)。

    問題は、母Aは遺留分の範囲(この場合、被相続人の財産の三分の一(10))で家屋と敷地を相続することが(取り戻すことが)できるかどうかということである。

    (10)遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人となるときは被相続人の財産の三分の一、その他の場合は被相続人の財産の二分の一とされている(民法1028)。

    遺留分を侵害された相続人が遺留分減殺請求権を行使したことにより取り戻した財産(取戻財産)が相続財産に復帰し遺産分割対象となるかについて最高裁は、共同相続人の一人に対する全部包括遺贈に対し他の相続人が遺留分減殺請求権を行使したという事案につき「遺留分減殺請求権行使の結果遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産の性質を有しない」としている(最判平8.1.26民集50・1・132判時1559・43)。

    一人の受遺者に遺産の全てを遺贈するという全部包括遺贈がなされると、遺産は遺言が効力を生ずると同時に(遺産分割協議を行う必要はないので)当然に受遺者の固有財産となる。全部包括受遺者に対して遺留分減殺を行った場合は、受遺者個人に帰属した財産の一部が減殺者に帰属することになり、減殺者と被減殺者(包括受遺者)の物件共有状態を生ずることになる(11)。遺贈された全ての遺産が減殺者と包括受遺者と共有になるのである。

    (11)埼玉弁護士会『遺留分の法律と実務』p.142。

    このような共有状態から脱する方法として、包括受遺者は減殺請求された財産の時価に相当する金銭を支払う方法を選択することができる。これを価額弁償という。

    母Aは自宅だけが欲しく、他の遺産は必要がないのである。ところが、遺留分減殺請求の結果、理論上、①全ての遺産について三分の一がA、残りの三分の二がBという物件共有状態になるか、②受遺者の判断でAの三分の一に対応する価額弁償を行うかの二つしか選択肢はないのである。理論上、Aは遺留分減殺請求を行って自宅だけを相続で取得することができないのである。

    減殺者において、減殺すべき財産を選択特定して減殺請求することができればよいのだが、多数説・判決例(徳島地判昭46.6.29判時643・84、東京地判昭61.9.26判時1214・116)は減殺者の選択権を否定している。

    包括受遺者が複数いた場合はどうであろう。上の例で、妹が二人(BとC)いた場合である。被相続人(兄:遺贈者)が妹BとCに各々二分の一ずつ包括遺贈した場合である。

    図表Ⅱ-15 妹B、Cに部分的包括遺贈が行われたケース

    妹B、Cに部分的包括遺贈があったケース
    妹B、Cに部分的包括遺贈があったケース

    「各々二分の一ずつあげる」という遺贈であるから、現実に分けるためにはBとCが遺産分割協議を行って誰がどの財産を取得するかを決めなければならない。遺産は分割協議が終わるまでB、Cの固有財産とはならない。遺産分割協議を経て初めて具体的相続財産が受遺者の個人財産となるのである(内田貴『民法Ⅳ』p.523、『親族法相続法講義案』p351、『改訂遺産分割実務マニュアル』p.236)。

    BとCに対し法定相続人である母Aが遺留分減殺請求を行った場合は、被減殺者(包括受遺者B、C)が有する権利(遺産に対する割合的権利)の一部(この場合は三分の一)が減殺者Aに帰属することとなる。遺産共有状態になるから、A、B、Cが分割協議を行い、母Aが住んでいる土地建物が遺留分侵害額の範囲ならばA、B、Cの合意によりAは自宅を相続により取得することができる。

    【遺留分減殺請求の効果と課税関係】

    上述のとおり、割合的包括遺贈(複数の受遺者に割合的に遺贈)は、特定の遺産を誰が相続するかが定まっていない遺産共有状態となるから全ての遺産が分割協議の対象となるが、全部包括遺贈(全ての遺産を一人に遺贈)に対し減殺請求が行われた場合は、遺留分権利者と受遺者により個々の遺産が共有となり、改めて遺産分割協議の対象とならないというのが前掲平成八年判例の考え方であろう(内田貴『民法Ⅳ』p.523)。判決文の詳細は131頁参照。

    遺産が甲土地と乙土地しかない単純なケースで考えてみれば、遺産をAとBに各々二分の一ずつ与えるという遺贈(割合的包括遺贈)がなされた場合、AとBは甲土地と乙土地をどのように分けるかを話し合いで決めなければならない。この状態を遺産共有という。

    全ての遺産をAに与えるという全部包括遺贈があり、相続人Bが遺留分減殺請求権を行使すると甲土地と乙土地は各々遺留分の範囲でAとBの共有になる。Bの遺留分が四分の一だとすると、甲土地も乙土地もAの持分は四分の三、Bの持分は四分の一の共有となる。A、Bが話し合って分割教護をする余地はない。この状態を物件共有という。

    このような状態は不便なので、被減殺者は遺留分に相当する財産の時価を金銭で支払うことを選択し共有状態を解消することができる(民法1041)。これを価額弁償という。被減殺者が価額弁償を選択すると、遺留分権利者は、価額弁償金を相続により取得したものとされる(東京地判平2.2.27税務訴訟資料175・802、東京高判平3.2.5税務訴訟資料182・286、最判平4.11.16判時1441・66)。平成4年11月16日、最高裁判例の事案概要は、次のようなものである。

    1. 乙株式会社は、被相続人甲から土地の遺贈を受け、所有権移転登記を完了した。
    2. 甲の相続人の一人であるXは、乙株式会社への土地の遺贈により生ずる譲渡所得の申告(甲の準確定申告)を行った(所法59①)。
    3. 甲の他の相続人B1、B2、B3、B4(以下、「B1ら」という。)は、乙株式会社への遺贈がB1らの遺留分を侵害したとして、遺留分減殺請求を行い、乙株式会社から合計4,000万円を価額弁償として受領した。
    4. そこで、Xは、乙株式会社へ遺贈した額が4,000万円過大であったとして、更正の請求を行ったが、税務署長は、更正の請求をすべき理由はない旨の通知を行うと共にXに対し、譲渡所得の計算に誤りがあったとして、増額更正処分を行った。
    5. Xは、この処分を不服として取消を求め提訴した。
    6. 東京地裁及び東京高裁は価額弁償金の控除を認めなかった。

    判旨は次のとおりである。

    本社土地の遺贈に対する遺留分減殺請求について、受遺者が価額による弁償を行ったことにより、結局、本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないこととなり、したがって、右遺留分減殺請求が遺贈による本件土地に係る被相続人の譲渡所得に何ら影響を及ぼさないこととなるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

    判旨の「本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がない」という意味は次のとおりである。

    遺留分を侵害する特定遺贈は減殺請求権が行使されると減殺者の遺留分を侵害する限度で遺贈の効力が失われ、目的物の一部が遺留分減殺の対象となったときには、減殺の目的物は、減殺請求者と受遺者との共有となるが、価額弁償によりいったん失効した遺贈の効果は相続開始時まで遡り復活する結果、遺贈の目的物は被相続人から受遺者に譲渡された事実には何ら変動がない(12)

    (12)これに対し、少数意見は「遺贈の目的とされた当該権利は、(中略)遺留分権利者から受遺者に移転するというべきであり、遺贈により被相続人から受遺者に移転するということはできない」としている。

    この考え方に従えば、受遺者が価額弁償金を遺留分権利者に支払った場合は、受遺者は遺贈を受けた財産を相続により取得したものとして申告を行えばよく、遺留分権利者は価額弁償金を相続により取得したものとして相続税の申告を行えばよいこととなる。

    価額弁済によらず、遺留分権利者が特定の遺産を取得しようとするとどうなるか。前掲平成8年判例の立場に立てば、遺留分権利者が所有する個々の遺産に対する持分と、受遺者が所有する特定の遺産の持分との交換が行われたことになる。個々の遺産の持分に含み益があれば譲渡所得の課税が起こることが想定される(13)

    (13)名古屋国税局に対し行われた事前照会事例(平成22年3月2日)及び回答は、「相続財産の全部についての包括遺贈に対して遺留分減殺請求に基づく判決と異なる内容の相続財産の再配分を行った場合の課税関係について」は、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対する遺留分減殺請求の提訴に基づく判決とは異なる内容の相続財産を再配分する旨の書類を作成して合理的な再配分を行った場合、相続人間で贈与又は交換等その態様に応じて贈与税又は所得税の課税関係が生ずることとなると解すべきであるとしている。

    もっとも、元々、被相続人の所有に属していた財産を相続人(遺留分権利者)が取得するものだから、取得原因は相続に他ならないと考えれば、細部に拘泥することなく遺留分権利者が取得した財産は、相続により取得した財産であるということで相続税の申告を行えば足りると解することも可能だと思われるが、最高裁判例に従うべき行政庁としてそのような柔軟な解釈ができるかという点については疑問の余地もあり、このような事例には注意が必要である。

    ■参考判例:全遺産を包括して一人の相続人に相続させる旨の遺言
    平成8年1月26日 最高裁判所第二小法廷判決 平成3(才)1772 遺留分減殺

    遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ(最高裁昭和50年(才)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁)、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないとするのが相当である。その理由は、次のとおりである。

    特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者の遺志に委ね(1031条、1043条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(1036条、1039条、1040条、1041条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有する者で、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。

    図表Ⅱ-16 遺留分減殺請求権行使の結果生じる権利関係

    遺留分減殺請求権の結果遺贈の種類効果
    遺産共有状態を生ずる場合割合的包括遺贈遺産分割協議が可能
    相続分の指定遺言
    相続分の指定を伴う分割方法の指定遺言
    割合的包括「相続させる」旨の遺言
    物権法上の共有関係のみとなる場合生前贈与遺産分割の余地はない
    特定遺贈
    特定の財産についての「相続させる」旨の遺言
    全部包括遺贈
    全部包括「相続させる」遺言

    (参考文献:『改訂遺産分割実務マニュアル』p.235)

    図表Ⅱ-17 法定相続分一覧表

    順位法定相続人の状況法定相続分
    配偶者直系尊属兄弟姉妹
    1子がいる場合配偶者がいる場合1/21/2
    配偶者がいない場合1
    2子がいない場合配偶者がいる場合2/31/3
    配偶者がいない場合1
    3子と直系尊属がいない場合配偶者がいる場合兄弟姉妹がいる場合3/41/4
    兄弟姉妹がいない場合1
    配偶者がいない場合1

    図表Ⅱ-18 遺留分権利者と遺留分一覧表

    相続人の範囲遺留分権利者遺留分
    配偶者だけ配偶者相続財産の2分の1
    配偶者・子配偶者・子相続財産の2分の1
    配偶者と直系尊属配偶者・直系尊属相続財産の2分の1
    配偶者と兄弟姉妹配偶者相続財産の2分の1
    子だけ相続財産の2分の1
    直系尊属だけ直系尊属相続財産の3分の1
    兄弟姉妹だけなしなし

    図表Ⅱ-19 個別的遺留分の例示

    遺留分権利者個別的遺留分(相対的遺留分率×法定相続分)
    配偶者と子供二人配偶者が4分の1(2分の1×2分の1)
    子供が8分の1(2分の1×2分の1×2分の1)
    配偶者と直系尊属(父母二名)配偶者が3分の1(2分の1×3分の2)
    父母が各々12分の1(2分の1×3分の1×2分の1)
    直系卑属(子供二人)それぞれの個別遺留分は4分の1(2分の1×2分の1)
    直系尊属(父母二名)のみが相続父母各々の個別的遺留分はそれぞれ6分の1(3分の1×2分の1)
    配偶者だけが遺留分権利者の場合配偶者の遺留分は2分の1

    (注) 平成25年12月5日、民法の一部を改正する法律が成立し、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になった(同月11日公布・施行)。

    1. 法定相続分を定めた民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の二分の一と定めた部分(900条4号ただし書前半部分)を削除し、嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にした。
    2. 改正後の民法900条の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとしている。
    • 「嫡出でない子」とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいう。

    (注) 平成25年9月4日の最高裁判所決定(以下「本決定」という。)においては、(1)嫡出でない子の相続分に関する規定(以下「本件規定」という。)が遅くとも平成13年7月においては違憲であった、(2)その違憲判断は、平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない、と判示している。
     最高裁判所により違憲判断がされると、その先例としての事実上の拘束力により、その後の同種の紛争は最高裁判所で示された準則に従って処理されることになる。
     そのため、平成13年7月1日から平成25年9月4日(本決定の日)までの間に開始した相続について、本決定後に遺産の分割をする場合は、最高裁判所の違憲判断に従い、嫡出子と嫡出でない子の相続分は同等のものとして扱われることになる。
     他方、平成13年7月1日から平成25年9月4日(本決定の日)までの間に開始した相続であっても、遺産の分割の協議や裁判が終了しているなど、最高裁判所の判示する「確定的なものとなった法律関係」にあたる場合には、その効力は覆らない。

  • 包括遺贈

    包括遺贈

    包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有することから(民法990)、被相続人の積極財産だけでなく消極財産たる債務も承継する。承継した債務は相続税の申告において債務として控除される。包括受遺者が被相続人の親族でなくとも、相続人と同一の権利義務を有するから負担した葬式費用を相続税の申告において控除することができる(相法13)。包括受遺者は準確定申告の共同提出義務を負い、遺贈者の納税義務を承継する。相続人や包括受遺者が複数いる場合には、それぞれの者が承継する国税の額は、民法900条から902条までの規定(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)による相続分により按分して計算した額によるものとされている。その者の負担すべき国税の額が相続によって得た財産の額を超えるときは、その相続人(包括受遺者を含む。)はその額を限度とし、他の相続人がその納付義務を負うものと規定されている(通法5②③)。

    (注)これに対し相続税の課税価格は、民法900条から903条(特別受益)による相続分により計算する。三年内加算の対象となる相続開始前の贈与は特別受益にあたるからである。

    包括受遺者が相続人でなければ(1)、次の規定は適用されない。

    (1)「相続人に対する包括遺贈=相続分の指定」だと解する説では、包括遺贈(たとえば、配偶者と子供三人が相続人であるとき、法定相続分は6分の1の長男に対し遺産の3分の1を遺贈するというような割合的遺贈)は常に相続分の指定(6分の1の法定相続分を3分の1に変更する指定)となる。この説に立てば、相続人は包括受遺者になることはない。

    1. 基礎控除の計算上加算される相続人数(相法15)
      ただし、基礎控除3,000万円の適用はある。遺産を承継するのは包括受遺者だけで、相続人はゼロの場合でも、基礎控除は3,000万円となる(相基通15-1)。
    2. 生命保険金等及び退職手当金等に係る非課税金額(相法15①五、六、相基通12-8、12-10)。これらの規定は、財産をし取得したものが相続人であることが非課税規定の適用条件であるからである。
    3. 相次相続控除(相法20、相基通20-1)。これも財産を取得したものが相続人であることが適用要件になっているからである。

    なお、受遺者が遺贈者の一親等の親族及び配偶者以外の者であれば、相続税の2割加算の対象となる(相法18)。